第19話 ガーネット・ドラキュリア
遅くなって本当に申し訳ないです。
いろいろと迷った末、18話のガーネットの設定を長い髪からショートに変更しております。ご容赦下さい。
「すまねぇ、恩に着るよ」
「う、うん。もういいから、早く妹さん助けに行こう」
僕はいまだに頭を下げる赤髪褐色肌の少女に手を差し伸べると、傷に障らぬよう、ゆっくりと立ち上がらせた。
それに伴い、座り込んでいた彼女の体型が、はっきりと顕になっていく。露出の高い格好はその艶めかしい肢体を、次々に曝け出してきた。
胸当てをしていても収まりきれない大きな膨らみと、アンダーウェアから覗く谷間。
鍛えられて程良く引き締ったくびれに、ショートパンツからはみ出るお尻のお肉と太ももの境界線は刺激的どころでは済まされない。
僕も一応健全な男子であるので、その魅惑的なプロポーションはとても目のやり場に困った。
顔が火照りそうになりながらも、彼女に「悪いが肩貸してくれ」と言われ、しどろもどろになりながらも、肩を貸す。同時に胸当ての隙間、横から零れ落ちる大きくて柔らかいものが、肩を貸している僕の体に当たって一気に赤面した。
そのまま三階層の通路を壁面の明るい燐光に当てられながら、妹さんが連れ去られた後を追って行く。
「あ、あの!?傷、大丈夫!?」
顔が赤いことを実感しながらも、何か話さないと熱くなった体温が彼女に伝わりそうで、僕は咄嗟に言葉を発した。
「あぁ、大丈夫だ。傷自体は本当に大したことないんだ。むしろ不意打ち喰らって、後ろの壁に頭を打ったのがまずかったよ。あんたが来てくれた時、丁度意識がはっきりしてきたところでさ」
確かに少女は足取りが重いといった感じはなく、しっかりしているし、大丈夫そうだ。
肩を貸す必要もないかもしれないが、一応貸してくれと言われたし、心配なのでそのままで進むことにした。ただ歩く度に胸が当たってくるので、僕は気が気じゃない……。
「そういえば、まだ名前も名乗ってなかったな。あたいはガーネット・ドラキュリア、ちょっと前にこのダンジョン街アルヌスにやってきて、妹のソフィアと二人で冒険者をやってんだ」
「……あ、えっと、僕はユウリ・キリサキ。冒険者じゃないけれど、稼ぐためにダンジョンに潜って魔物狩りをしてる」
一瞬自分が奴隷であることを話そうかよぎった。でもそんな身のうえ話を親しくもない人に、わざわざ話すべきではないだろうし、やめておいた。
「ユウリ・キリサキ……。変わった名前だな、でもいい響きの名だ。あたいのことはガーネットって呼んでくれ。あたいもユウリって呼ぶから。改めてよろしくな、ユウリ」
「ええっと、うん、よろしく。ガーネット……さん」
「呼び捨てでいいって。ガーネットで頼むよ」
思わず『さん』を付けてしまう。
ずっと奴隷として過ごしてきた僕は、誰かを呼び捨てにする機会がほとんど無かった。頭ではわかっていても、つい癖で言ってしまったのだ。
「……わ、わかったよ。ガーネット」
少し戸惑いつつも、そう言うのなら、と僕はガーネットに従った。
「にしても、ユウリ冒険者じゃなかったのか。服装的に同業かと思ったが……、そういやギルドカードもつけてないな」
僕の服装は冒険者がよく着ている、冒険者の衣だ。店舗によって種類やデザインも異なるものだが、一応誰が見ても冒険者だと思われる格好ではある。ガーネットもそれで僕を冒険者だと勘違いしたのだろう。
「ちょっと訳ありで……、いずれは冒険者ギルドに入ろうかとは思ってるんだけどね」
「そっか、まあ人それぞれだからな」
一応自己紹介がてらにいくらかの言葉を交わし、道なりに通路を進んでくる。すると三叉路になっており、左右どちらの道を進むか選択を迫られた。
「……どっちだろ?」
僕ではどちらかわからない。三階層も初めてなわけだし。
妹さんが連れ去られたと言っていたガーネットなら、知っているかもと尋ね気味に話しかけた。
するとガーネットが「ちょっと待ってな」と言い放つと、まるで匂いを嗅ぐようにスンスンと鼻を鳴らし始めた。
「……左だぜ、ユウリ」
くいっと顎で左の通路を指し示し、こちらを見つめてくる。
「えっ!?今ので判るの?」
「あぁ。あたいの鼻はちょいと特別製でね、嗅覚が異常に鋭いから、匂いを辿ったり出来るんだ。まだ血の匂いもしてないし、ソフィアは今のところ無事そうだ」
その言葉を聴いて、胸を撫で下ろす。まだ妹さんは無事なようだし、良かった。
それにしても匂いでそんなことまで判るって……。
僕は彼女の言葉で一つの種族を想起させた。『獣人』だ。獣人ならそういった異常な嗅覚や、遠くまで見渡せる千里眼などを持つといった話を聴いたことがあるからだ。
しかしガーネットは獣人の特徴である、耳や尻尾といったものが一切生えていない。見た目は間違いなく人間族にしか見えないし……。もしかしたらスキルとか、そういったものが関係しているのかもしれない。
僕はガーネットの判断通り、左の通路を進んでいった。妹さんは今のところ匂いでは無事らしいが、守護者に連れ去られたのだ。急いだほうがいいだろう。
「……そ、そういえばユウリ、お前ってその、……すごく良い匂いがするな」
「な、なっ、何急に言ってるの!?」
肩を貸し、一歩一歩進むそのさなか、ガーネットの急なびっくり発言に視線を向けると、頬を赤くしながら鼻を鳴らし僕の匂いを嗅いでいた。その言葉と仕草に僕は驚きと、気恥ずかしさが込み上げる。
「す、すまねえ!あたい初対面の男に何やってんだろ……!?いやでもさっき鼻鳴らした時から、ほんとにすっごく甘くて良い匂いがしたんだ」
「えっと、甘い匂いって……。僕そんなもの持ってないよ?」
「いや、そうじゃなくてだな……。なんというかその匂い自体が……」
―ぎゅるるるるっ
「……あっ」
大きなお腹の虫が鳴る。頬を染め赤みがかってたガーネットの顔は、一気に真っ赤に染まりきってしまった。
俯き恥じらうガーネットは、その真紅の髪で必死に赤く染まりきった顔を、隠そうとしているようだった。だがショートカットであるがために、あまり隠れきれていない。男勝りな性格かと思ったが、以外に乙女らしく、かわいい一面も持っている。
「……その、ガーネット、お腹空いてたの?」
「……あははっ、まあ実はそうなんだよ。守護者に不覚を取ったのも、腹が減って力が出なかったからなんだ」
顔を赤くしながらもこちらに向かって、ぎこちない笑みを浮かべる。ガーネットの言う甘い匂いのするようなものは持っていないけど、お昼ご飯ならあった。
「僕サンドイッチ持ってるから食べる?」
今朝もお嬢様であるアリシア様が作ってくれた弁当だ。お昼のことも忘れ、ずっと魔物狩りに勤しんだため、うっかりと食べる機会を失っていた。
「いや、その、そういった物じゃあまり意味が無いというか、腹の足しにならないというか……」
「えっと、それってどういう……」
何を言ってるのか、わからなかった。
意味が無い? 腹の足しにならない? その言葉に僕は首を傾け、疑問が浮かぶ。
「い、いや……、な、何でもない!今の話は忘れてくれ!早く妹を助けるのが優先だしな、悪いが気持ちだけもらっておくよ」
一瞬しまった、というような表情を浮かべたガーネット。
「……あ、あぁ、うん。そうだね」
何やら引っかかるその物言いと表情。疑問に思いつつも、ガーネットはあまり触れてほしくなさそうだし、僕も追求するような無粋な真似はしなかった。
少しの沈黙が流れるも歩みを進める中、幅広い通路の前方にふと、違和感を感じた。
魔光石の青みがかる光のもと、地面に丸い影のようなものが二つ―
しかしその影の持ち主がいない。天上に目を向けても、見渡してもいないのだ。丸い影が二つただ地表に存在するのみだ。
なんだろう? あれ……。
その疑念を抱いた瞬間―
「ユウリ!魔物が生まれるぞ!」
隣で僕に肩を借りるガーネットが、その影を見て叫んだ。
それと同じくして、地面の丸い影は紫紺の妖しい光をまとい、徐々に変化していく。だんだんと立体的な姿を形成する。どことなく見たことのあるシルエット、まるで犬のような……。
やがて紫紺の妖しい影は、風に吹かれたかのように消え去り、そこにはシルエット通りの犬の魔物が姿を現した。
―初めて見る魔物誕生の瞬間。
ダンジョンに存在する魔物は、ダンジョンが生み出すことを知ってはいたが、今まで実際に目撃したことはなかった。
「ちっ、急いでるってのに、ハウンドドックかよ。ありゃ守護者の放った犬どもだな」
隣のガーネットが声を漏らす。
僕は魔物の誕生の瞬間を初めて見て、少し驚いていた。だが直ぐに、頭を切り替えて戦闘に備える。こちらに気づいたハウンドドッグ二頭は、その灰色の毛を逆立てながら低い唸り声を上げ始めた。
肩を貸すのを止め、ロングソードを腰から抜く。
「ごめん。ガーネット、ちょっと下がってて」
空いた方の手で、ガーネットを後ろへと下がるように手で押しやる。
「えっ!おい、ユウリ、一人じゃ無理だろ!?」
「どうだろ?やってみないとわからないけど……」
二階層までの魔物には手こずらなかった。三階層の魔物であるハウンドドックはどのくらいの強さなのか、正直わからない。でも二階層と三階層で、そこまで差があるとは思えなかった。それに――怪我人を戦わせたくはない。
「ガーネットは怪我してるから待機してて」
「あ、あたいなら大丈夫だぞ!確かに痛むけど、戦えないことはない!」
脇腹を抑えながらも、腰のベルトに固定した鞘から、二対の短剣の一振りを抜こうと構えるガーネット。
「……うん、じゃあ僕がやばくなった時は頼むよ」
言葉使いからもわかるように、ガーネットは勝ち気で無茶をしそうな性格をしてる。
いや実際怪我しているのに、妹を取り返そうと守護者に挑もうとしている時点で無茶な性格で間違いないけど……。
ともかくこの言い方なら僕がやばくなるまでは割ってこないだろうし、勝ち気な少女をなだめるには、この辺が妥当な落とし所だと思う。
「……わかった。気をつけろよユウリ」
一応納得はしてくれたみたいだ。
僕はうんと返事を返すと、一気にハウンドドックに駆けて行く。
妹さんのことを考えると時間もない、一気に叩いて早く守護者に追いつかなければ―




