表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/19

第13話 暖かい場所

「お嬢様!やりましたよ~!!」

 

 僕は勢い良く家の扉を開け、込み上げる喜びに頬を緩めながら大きな声で叫んだ。経験値のことはひとまず置いといて、今はこの喜びをお嬢様方と分かち合うのが先だ。


「ユウリ、おかえり。どうしたの?今日は早かったわね」


 玄関の壁の向こう側からルーシェ様が、不思議そうにその顔を覗かせる。


「ルーシェ様、やったんです!ほら、見て下さいよ!」


 僕は鞄から銅貨の詰まった小さい袋を取り出すと、ルーシェ様にその袋の口を拡げて見せた。

 

「……こ、これって、まさか全部銅貨なの?」


「そうです!僕が今日稼いだ分です。これだけあれば、四日は食事の心配いりませんよ!」


 その大きくて、綺麗な瞳を丸くしているルーシェ様は少し固まった後、僕に抱きついてきた。


「やったじゃない!これで今日はスープじゃなくご馳走ねっ!!」


「わぁ!?ちょっとルーシェ様!?」


 首に手を回し、身体を密着させてくるルーシェ様。スープ以外の物を食べられるのが、余程嬉しいのか笑顔だ。

 

 その決して小さくはない、柔らかな胸が僕に押し付けられる。僕はその感触にたまらず顔を赤くした。


「 ル、ルーシェ様。その当たって、ますので……」


「……えっ?」


 屈託くったくのない笑顔で抱きつき、ひたすら喜んでたルーシェ様の顔がみるみる赤くなる。その耳まですっかり染め上げられた。同時に振り上げられるルーシェ様の右手。


(あっ、これって―)


 そして次の瞬間それは飛んできた。ルーシェ様の怒声とともに。


「ば、馬鹿ユウリッ~~~~!!!!」


「そんな理不尽なっ、……ぎゃああああっ!?」


 振り下ろされた平手は僕のほっぺたにクリーンヒットした。強烈な一撃に僕はふらふらだ。グリーンラビッドの突進攻撃より痛いぞ、これ!?

  

「あ~!!ルーシェ姉様がユウリぶったぁ!いけないの!」


 壁の向こうからミリヤ様が姿をあらわしている。だがその姿に僕は固まった。


 一糸まとわぬ姿のミリヤ様。湯気が立ち昇る濡れた藍色の長い髪に、上気した白く透き通った肌。胸の膨らみが慎ましくも存在している。僕はその姿に呆けて、たたずむことしか出来なかった。


「ユウリ!今すぐ後ろを向きなさいっ!!」 


「はいっ!!」


 ルーシェ様の命令に固まった意識は解け、直ぐ様に従う。電光石火の如く僕は凄まじい勢いでうしろを向いた。


「ミリヤ、まったくもう、何やってるのよ!?直ぐに服を着なさい!!」


「あらあら。いけませんよ、お風呂から飛びだして。体を拭かなきゃ」

 

 後ろからルーシェ様とアリシア様の声が聞こえてくる。どうやらミリヤ様は、僕が帰ってきたことでお風呂から飛び出してきたようだ。出迎えてくれるのは嬉しいが、しっかりと体を拭いて着替えてからにしてもらいたい。


「じゃあミリヤ、ユウリに拭いてもらう~!」


「はいっ!?」


「馬鹿なこと言わないでさっさと拭きなさい。風邪引くでしょ」


 何やらズルズルと引きずられる音がする。恐らくだがアリシア様がミリヤ様を引きずっていったのだろう。僕はその光景を見ていないが、ミリヤ様の「やだ~」という声がどんどん遠ざかっていく。

 

「ユウリ、もうこっち見ていいわ、……ってあれ?あんた鞄のそれどうしたの?」


 その言葉に僕は震える。そうだった、忘れていた。お嬢様方に報告しなければいけないことが、まだあったんだ……。

 僕は喉を鳴らし、もう一発貰っても大丈夫なように覚悟を決める。


「すみません!その、魔物に襲われて、噛みつかれて破けました!!」


 振り向き様に全力で、頭を下げながら謝る。土下座も考えたが、多分この世界じゃ通じないだろう。

 ルーシェ様の足音が迫ってくる。その早い足音に僕は全身に力を込め、いよいよ耐える準備をする。

 そして肩を強く掴まれた。

  

「大丈夫なの?怪我はない?」


(あれ?)


 僕は強くつぶっていた目と身体を脱力させた。もう一発来るものだとばかり思っていた僕は、肩すかしを喰らった状態だ。

 ルーシェ様はそんな素振りもなく、僕の身体を頭の先からつま先まで注意深く見ている。ぐるり、ぐるりと回される僕の身体。 


「け、怪我はしてませんので、大丈夫ですよ。ルーシェ様」


「……ほんと?それなら良かったわ」


 ルーシェ様はほっと一息つくと、僕の手を引き家の奥へと連れて行く。リビングに着くと僕をソファーに座らせた。


「鞄を見せてみなさい。多分そのくらいなら直せると思うから」


「ほんとですか!?」


 僕はすぐに鞄をルーシェ様に渡す。ルーシェ様がその鞄を手にとって、じっくりと確認する。


「うん、このくらいなら大丈夫ね。でも布と糸と針がいるわ。布切れならあるけど、綺麗に直すのなら、似た布を買って修復したほうが良さそうね」


「……やっぱり、お金かかりますよね。すみません」


 せっかく稼いだお金から早くも、出費しなければならないことに肩を落とした。  


「そんなに落ち込まないの。大丈夫よ、布と糸と針くらいなら全部で銅貨五枚くらいでしょうし。ユウリが稼いでくれた分に比べれば、必要経費として安いもんだわ」


 ルーシェ様の言葉に僕は安堵する。もっとかかると思っていたが、その程度で済むのなら御の字だ。



「あら。どうかしたの?」


 アリシア様がミリヤ様に服を着せ、戻ってこられた。ミリヤ様はさも当たり前のように、僕の膝の上にお座りになる。


「アリシア姉様、ユウリがすごく稼いできたの!でもまた無茶したのか、鞄が破けちゃって。見た限り直せると思う。でも布と糸と針買わなくちゃいけないんだけど、いいよね?」


「あら、そうなの。もちろんいいけど、今日はもう暗くなるし、遅いから明日買いに行きましょう」


「やっぱり明日ですか……。だとしたら直るまでダンジョンいけませんよね?」


 僕は申し訳無さで少し項垂れる。


「そうねぇ。さすがに鞄無しで、ユウリにダンジョンを潜らせたくないし……」    

  

「だったらユウリ、明日は買い物に付き合いなさい!わたしの護衛よっ!!」


「ええっ!?まあ、いいですけど……」


「じゃあ決まり。明日はわたしとユウリで買い物行ってくるから、アリシア姉様とミリヤはお留守番ね!」


 語尾を若干強調しているルーシェ様。そういえば久しぶりに買い物に行く気がする。ここ最近、ダンジョン通いばっかりだし。


「ええ~!ミリヤも行きたいっ!!」


「駄目よ!あんたが一番来なくていいんだからっ」


 僕の膝から降り、地団駄を踏むミリヤ様。それを一蹴するルーシェ様の瞳が少し怖い。まるで邪魔する者は容赦しないといった様相だ。


「そうね。じゃあ、明日はユウリとルーシェにお買い物をお願いするわ。ミリヤはわたしとおうちでお勉強よ」


 その言葉に増々、嫌な顔をするミリヤ様。このままじゃ不機嫌になりそうだ。


「ミリヤ様、大人しく待っていて下さい。その代わり明日は僕が美味しいお料理を作ってみせますよ!」


 咄嗟とっさに口が動いてしまった。美味しい物に目がないミリヤ様を釣るにはこれが最良の選択だ。

 不機嫌になられて、泣かれたら僕がご機嫌を取らないといけないし。


「……ほんとうに?」


「ええ本当ですとも。とっても美味しいですよ。少しだけ昔のことを思い出したんです。僕がよく食べていた料理を」


 昔のことと言っても、前世の記憶のことだ。

 前世で食べていた日本食、その味をお嬢様方にも味わってもらいたい。 

  

「じゃあ我慢する……」


 ミリヤ様はそう言うと、僕にまたしても抱っこを求めてくる。しかたなく抱き上げ、膝の上に座らせた。


 その後、今日だけ少し豪華になった晩ご飯を挟みながら、お嬢様方から魔物狩りの様子を催促され、その会話に花を咲かせる。夜は次第に更けていった。 



 

   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ