↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

『港南の白銀』は 『白銀』と呼ばれたくない


ごぐんという音がして、壁が崩れる。


「そこ! 離れて!」


ダンジョン10階、

そこは初心者の「端境」と呼ばれている。


九階までなら、それなりに稼げる。

装備を整え、無理さえしなければ、討伐も採取もできる。アルバイトよりはずっといい。

だが、会社員より稼ぎたいなら、十階を越えなければならない。


ただ、そこには門番がいる。


輝琉がダンジョンに入って既に丸一年。ここまでは順調と言えた。パーティーもそれなりの力を持っていた。

だから決めた、皆で決めた、門番に挑むことを…


門番は大きな黒いオオカミ。


パーティー四人で対峙した。

情報はいくらでも探した。どう動こうかと四人で話し合いを繰り返した。討伐だけではない、四人が生き残ることが大切。

が、目の前にした時に少し崩れた。イメージとは違う。巨大だ。

怖じ気が出る。

当たり前だ、四人とも未成年、輝琉が一番若い。

オオカミの咆哮。びくりとする。リーダーの剣士晃樹がたじろぐ。それを見た中衛の魔法師イロハが怯えた。構えていた杖が揺れる。後衛の治療士奏歌は黙っているが、喉がゴクリとかすかに動いた。


「引き返す?」

輝琉は晃樹に言う。念を押すように…


「いや、無理だよ、敵認定されている」


「じゃあ…行くね」

と、片手剣を手に先頭に立つ。


苦手だった。人と関わるのが…人見知りが激しすぎると、中学校の担任が評した。

分かってる、分かってる。

だからこそ、自分を受け入れてくれたこのパーティーは大切な存在だ。

守る、守る、守りたい。


「気」が満ちる。

いつもより、ずっと深く。

そして、収まりきらなかったものが、頭髪から漏れた。


銀色の光。


一歩。

黒狼が跳んだ。

輝琉も前へ出た。

晃樹には、その後の動きがほとんど見えなかった。

銀色だけが、何度か暗がりを横切った。

一分後。

黒狼は地に伏していた。



「……輝琉…あなた、銀色…」

イロハが訝しげに声を掛ける。


「え?」


ただ、もうその時には黒髪に戻っていた。



パーティーはしばらくして解散する。

しばらくは、それぞれで力をつけたい。…そんな理由だった。

けんかもない、もめもしない、ただ、四人がこれからの戦いに、目指す方向がちょっとだけずれていることに気づいたから。ただそれだけだ。


輝琉は別のパーティーに加わることなく、ソロで動くこととなる。

いや、いろいろと勧誘は受けた。10階を越すということはそんなことだった。

ただ、以前のパーティーと比較したら… こんな人見知りの、口数少ない、人付き合いの悪い人を十分に「分かって」くれるかと言えば…つまりはそういうことである。


ソロの方が気持ちが軽い。


自分の力を確かめるために、上層の一階から九階を周回した。繰り返した。何の危険も感じなくなった。10階の黒いオオカミとも何回か一人で戦った。最初は髪が煌めいた、銀色に。そして最後は黒いままでも対応できた。

ただ、自分の髪の色は知らない。


輝琉自身は、それで終わったつもりだった。

でも、周りは違った。



「白銀さん」

ある日、いつもの受付の女性からそう呼ばれた。


「誰?」


「あなたです」


「私?」


「港南の白銀」


「え……やだ」


「もう広まってます」

受付の女性が面白そうに笑う。


「絶対、やだ」


「もう、無理ですよ」

反論の余地がないらしい。


「なんで白銀?」


「戦うと髪、銀色になるでしょう?」


「……なるの?」

以前イロハからは言われたが、自分自身が一番自覚がなかった。


「知らなかったんですか?」


借りた鏡を見ながら『気』を入れてみる。ぶわっと広がり銀色となる。


「…………」


気を抜く、黒に戻る。

入れる、銀。

抜く、黒。


「面白い」


「遊ばないでください」


「知らなかったことを知るのは、面白い」

にんまりと笑った。



10階より下へ。

もちろんソロ。

下に行けば行くほど、楽しくなる。

いつのまにか、最前線に立つようになった。


「あれ?」


30階、最下層、そこにはラスボスがいた。竜種だ、大きい…でも名前は知らない。これまで誰も見たことがないからだ。


「倒せる? 倒せる…うん」


これまでの最大の「気」を出す。髪の毛は銀…を通り越す。光そのものとなる。

片手剣を繰り出す。


竜が吠えた。炎が来る。熱い。でも、それだけだった。


一歩、踏み込む。炎の中を抜ける。

二歩目、竜の爪が振り下ろされる。身体を少しだけずらす。

三歩目、もう、懐だった。


「ここかな」


剣を振る。

一度。それだけ。巨大な竜の身体が、少し遅れて傾いた。

ズン――。

三十階全体が揺れる。

輝琉はしばらく竜を見上げていた。光になって消えていく。残ったのは、見たこともない大きな魔石と、いくつかの素材。


「……終わり?」


もう少し何かあると思っていた、残念…。


髪から気を抜く。白く輝いていた光が薄れ、銀へ。そして銀が消えて、いつもの黒へ戻る。

周囲を見る。

そして剣をゆっくりと鞘に収める。


「帰ろ」



その頃、地上では、管理庁の監視室が妙な騒ぎになっていた。三十階の観測装置が一斉に異常値を示していたからだ。

アラームが鳴っている。


「映像あるか?」


「すでに28階からドローン飛ばしています」


しばらくして、30階の今が映る。


「何だ、これ」


記録映像。暗い最下層。竜がいた。

そして、その前に立つ人影。

黒かった髪が銀になり、次の瞬間、画面そのものが白く潰れた。

そして

再び映った時には、竜が倒れている。何がその間に起こったかは分からない。


ただ30階層の主が討伐された。



誰かが呟いた。


「……白銀」


もう誰も、その呼び名を冗談だとは思わなかった。


     *


地上へ戻る。30階からはそれなりに時間がかかる。

いつも対応してくれる受付の女性が立っていた。その顔が引きつっている。


何で?


「白銀さん」


「だから、それ嫌い」

たぶん相手にはかなり嫌がっている表情を見せただろう。


「三十階、行きました?」


「行ったよ」


「竜、いました?」


「いた」


「倒しました?」


「うん、頑張った」

間違いない。ドロップ品はバックパックに入れている。ずっしりと重い。


受付の女性はしばらく黙った。

「……一人で?」


「ソロだから」

当然でしょ、という顔をする。


聞いた女性は両手で顔を覆った。

「あなた、いったい何なんですか……」


「冒険者」

だよね?


「そういうこと聞いてません」


輝琉は少し考えた。

けれど、ほかに答えを思いつかなかった。


      *


旦那くんがソファーでテレビを見てる。

どっかのニュース解説番組だ。


「白銀って、なんで白銀なんだろうね」


夕飯の片付けを終わった私は、床に座り旦那くんの脚の間というベストポジションをとる。

膝抱っこされたい! でもそれはまだ早い。恥ずかしいから…


「髪じゃないの?」


「銀髪なのかな?」


「たぶん…」

何気なく返事する、膝抱っこは無理でも、膝枕ならば…


「へえ。一回見てみたいな」


「……そう?」

ちょっとびっくりする。

その瞬間、ほんの少し『気』が漏れる。

黒髪の一房だけ、銀色になる。

慌てて引っ込める。


「どうした?」

上の方から覗き込む旦那くん。


「なんでもない!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。