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あなたに奇跡を贈りましょう  作者: かわもりかぐら


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エピローグ

 あれから、約半月後。


 久々に休みとなったふたりは、あの7番通りのカフェのテラスでお茶を飲んでいた。

 飲み物は前回と同じ。

 ミスティアはアイスレモンティーを。フリードはホットティーを。

 今回スイーツはテーブルの上になかった。代わりにあったのは、あの新薬である。


 その新薬を転がしながら、フリードは苦笑いを浮かべた。


「ギフトで込められる《奇跡》ってすごいんだなって今回改めて思ったよ」

「あら、いまさら?」

「そう、いまさら。まさか《奇跡》が効かないだけで、この疲労回復薬が強力な幻覚剤になるとは思わなかった」


 スカイブルーの瞳が面白そうに弧を描く。



 ―― グラムとリナリアは、ミスティアが宣言したとおり3日後に目覚めた。

 ただし、1週間ほど幻覚、幻聴に悩まされたのだという。

 眠り続けていた3日間、ひたすら悪夢を見ていたようで、目が覚めたというのに現実だと認識できなかったそうだ。


「あああァあああッ!! いやっ、いやいやいやァあああ~~~ッ!!」

「おじょ、お嬢様おやめッ、ギャアアアッ!!」


 リナリアはあらゆるもの全てが異形に見えた。


 人型でありながら、皮膚が腐り落ち、異臭を放つ侍女服を着た何かが自分に手を伸ばしてくる。

 ドロドロと溶けた皮膚が液体となって自分の肌にぴちゃりと落ちて、異形の眼窩からどろりと目玉が落ちた。


 実際には普通の人間であり臭いも感触もすべて幻覚で、そこにいたのは長年リナリアに仕えていた侍女だった。

 しかし、侍女を侍女と認識できず異形の存在に発狂したリナリアは近くにあった椅子で彼女を滅多打ちにした。

 悲鳴を聞きつけた護衛や使用人たちによって侍女は辛うじて助けられたが、今度は助けに入った彼らが標的となったそうで。



「起きてから最初の3日間はひどかったらしいよ。介助どころか食事すら差し入れることもできず、ベッドから一歩も動けなかったから汚物だらけだったとか」

「あらまあ」

「まあ、正気に戻ったタイミングでその惨状を作ったのは自分だって理解して、そこでプライドがへし折られたみたいだ。俺が見舞いに行ったときは、今までが嘘のように大人しかったよ」

「彼女だっていい大人だもの。いくら身の回りを世話してくれる者がいるとはいえ、大人になってからの粗相は死ぬほど恥ずかしいでしょうね」

「ウィディアム様はどうだったんだい?」


 ミスティアはゆっくりと瞳を閉じ、再び開いた。

 アズールの瞳がまつ毛の影で揺れる。


「父に聞いた話ですが、幻聴がひどかったようです」



 グラムは頭の中で常に誰かが囁いていた。


 あの使用人たちはお前を嘲笑っている。

 お前の両親はお前を捨てると言っている。

 皆がお前のことを疫病神だと言っている。


 やがては幻視も見えるようになった。

 こちらを見てあからさまに嘲笑ってくる使用人たち。

 両親がグラムを殺さんばかりに睨みつけてくる。


 実際には使用人たちはグラムの心配をしているだけだったし、ウィディアム子爵夫妻も息子の様子がおかしいことに気づいて気にかけていただけだった。

 しかし会話が噛み合わない。

 こちらは心配の言葉を伝えているだけなのに、絶望したような表情を浮かべ、何か喚き散らしながら部屋に閉じこもる日々が続いたのだという。

 こちらも1週間ほどで症状は落ち着き、現在は大人しく過ごしているということだった。



「もう、ティアったら。ここまで酷いものなら、おふたりに飲ませなかったわ」

「まあ、ミア。あいつらにはこのぐらいがちょうどいいのよ。調査書を読んだでしょう? あいつら、不貞していたのよ」


 くるくると変わる瞳と表情を眺めながら、フリードは思い返す。

 そう、ミスティアの姉であるアイリーンが持っていたあの紙の束のことだ。


 先日、フリードはミスティアとともにローレンツ家を訪れていた。

 呼び出されたのがその紙の束の内容のことだったのだ。

 目を通せばまあ、あの場でアイリーンが言わなかった内容が出るわ出るわ。


 ふたりで護衛を抱き込み、連れ込み宿のようなところに入り込んで一晩出なかったとか。

 夜間、こっそりと抜け出したふたりが落ち合った公園の植え込みの陰で言葉に表せないようなことをしていただとか。

 昼間、―― 現在のフリードたちがいる7番通りの ―― カフェにある個室で、しけこんでいたとか。


 もう、それは色々と。

 途中でフリードは読むのをやめて紙の束を伏せて、眉間を揉んだぐらいである。


 何が友人だ。相談だ。

 この国では婚約時も男女ともに、婚約者以外の相手と交わった場合は姦通罪が適用される。立派な犯罪者ではないか。


 ただ、ティアが開発を指示したあの薬が()()()()()ため、彼らは立件されなかった。

 ミスティアの母方の実家が太く、ディダック侯爵家なんかよりも力のある家だからできた芸当だとフリードも理解している。



 フリードはホットティーを口にした。

 少しばかり冷めてしまったが、飲むにはちょうど良い温度である。


「ねえ、フリード様」


 呼びかけられて、フリードはティーカップをテーブルに置いて彼女を見た。

 ほんのりと頬を染めた、アズールの瞳がフリードを見つめている。


「わたくし、あなたに贈り物があるの」


 わずかに目を見開いたフリードだったが、ふと穏やかな笑みを浮かべた。


「奇遇だね、ミア様。俺もあなたに贈り物があるよ」






 Fin.

以上にて完結となります。

ご覧いただきありがとうございました。


普段一人称で書くことが多いので、三人称でチャレンジしてみようと思った次第です。

色々とアラがあるかと思いますがご容赦ください。精進してまいります。


誤字指摘もありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします。

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