15: ホリデーパーティー5
魔法修練・指導学院メギロディアンの医学棟。ルーン覚醒の儀式に参加し、マ―ベルと初めて出会ったあの建物だ。
この棟は他の建物よりずっと近代的に見えた。外からガラス越しに見ると、負傷者を素早く手当てするスタッフの姿や、元いた世界よりも効率的な受付の様子が見えた。
三人で建物へ入ると、ガラスの扉が自動で開いた。私たちはひどく感動した。
マ―ベルが私たち二人をカウンターへと案内した。中には受付の女性たちが座っていた。
「こんにちは」
マ―ベルの声を聞いて彼女たちはすぐに立ち上がって挨拶した。
「あら!マ―ベルちゃんじゃない。今日はどんな用事?誰かのお医者さんと約束してたかしら」
「今日はお見舞いに来たんです。昨日ここへ運ばれたエイガシの子五人のことで」
「あら……それでドロシーちゃんと……この子は誰?」
「私たちの寮の新入りです。昨日召喚されたばかりで、名前はクロエといいます」
「クロエ……かわいい名前ね。はい、ここにアンケートを書いてね。日付とお見舞いする人の名前をしっかり書くのを忘れずに」
「ねえドロシー、あそこを歩き回ってるのは何なの」
「あれは多目的ロボットよ。この棟での作業を手伝うために作られたもので、薬の配布から患者の状態管理まで色々な役割があるわ。特別な人工知能で制御されているから、まるで本当に生きているみたいに自分で考えて動けるのよ」
話している間にロボットが私たちのところへやってきた。丸くふっくらした体に四本の腕があり、様々なものに変えることができる。青地に赤と白の模様が入っていた。
【何かお手伝いできますか?】
「しゃべれるの!すごい!!」
「そうでしょ。彼の名前はロボタくん、男の子のロボットよ。あともう一体いてね、ピンク色の子でボイチちゃんっていうの。でもあの子はロボットじゃなくて魔法で作られた粘土人形なの。リボンが自分で作ったのよ。召喚されてきた最初の年に作ったんだって」
リボンという子はよほど優秀なのだろう。召喚されてきたばかりの頃から魔法の腕を磨いていたなんて。あの子を見習わないといけない。
私たちは膝を曲げて目線を合わせた。
「あの、お見舞いに来たんだけど、どこにいるかわからなくて」
【お見舞いする患者さんのお名前を教えていただけますか。ご案内できます】
「えっと……」
「リボン・ボルヤノヴィチ、青山姫子、シンイェン、シャーロット・レヴィントン、それとフォレス・ナイチンゲールよ」
【患者情報を検索いたします……】
「ねえ、何してるの」
「見てマ―ベル、ロボタくんってすごいよね、しゃべれるんだよ!!」
「ロボットなんてふつうしゃべれるでしょ」
「あ、そうそう。実は学院の生徒が作ったものを学院に寄付して使ってもらえるんだって。ロボタくんは確かアッキ寮の先輩の作品だったと思う」
「受け入れるかどうかはまた別の話だけどね」
【検索完了しました。ご友人五名は現在特別共有病室へ移っております。ご案内いたします】
「よろしくね」
そして私たちは建物の廊下を歩いていった。昨夜から見慣れていたのでそこまで驚かなかったが、ガラスの扉が自動で開くのはやっぱりすごいと思った。
「それにしても、リボンって子はよほど優秀なんだろうね」
「どうして?」
「だって……召喚されてきた最初の年にボイチちゃんを作ったんでしょ。きっとすごく上手なんだろうなって」
二人は少し顔を見合わせてから、互いに頷いた。
「えっとね……リボンのことをどう言えばいいかしら。魔法の腕前は確かに上手いわよ。でもね……」
「でも?」
「あの子は常に活発でいつも前向きで、人懐っこくて遊び好きなのよ。でもゲームのコントローラーを握ったが最後……地獄が来るわよ」
コントローラー……ゲーム?何のことかわからない。遊び道具のことなら知っているけど、もしかしたら似たようなものかしら?
【到着しました。良い一日を】
ロボタくんがある部屋の前まで私たちを案内してくれた。中からは賑やかな声が聞こえてきた。
「良い一日をって……ずいぶん他人事ね」
「本当に……」
私たちは今や化粧が少しずつ崩れ始めた二人の顔を見た。
「ま、まあ……せっかくお見舞いに来たんだし、入らないのも悪いわよ――」
ドアを開けた瞬間、リボン・ボルヤノヴィチという少女への尊敬の気持ちは一瞬にして消え去った。ピンク色に赤と白のハイライトが入った髪の少女が、他の四人の女の子たちと一緒に大きな金属板を凝視しながら座っており、その画面には戦争か何かが映し出されていて、全員が手に何かしらの器具を持っていた。
「ちょっとちょっと、上にいるじゃない、撃ってよ撃って!!!!!全滅させてよ!!!!」
「だって、サーマルスコープがないじゃん」
「じゃあなんでゲーム序盤に捨てたの!!!!!!」
「姫子!!!!何撃ってるのよ、こらぁ!!!!!」
「だから、シューティングゲームは苦手だって言ったじゃん」
「下に降りたよ!!!!!下に降りたよ!!!!!スモークグレネードあるでしょ、投げてよ!!!!!!足でも使ってプレイしてんの!!!!!!!」
「あ、リリオちゃん、やられちゃった」
「なんで突っ込んでいったのよ、姫子!!!!!!!!」
「みんなクソ下手くそで頭おかしくなりそう!!!!!手でやってるの?足でやってるのかと思ったわ、ほんとクソ下手くそ!!!!!!!!」
「回復アイテムどこ!!!」
「なくなったよ~」
「誰一人まともじゃない!!!!!!!」
私たちはただ呆然と立ち尽くした。魔法の腕前が優れているという人物が、想像していた人物とはまったくの別人だった。
「やられた」
「物陰に隠れる練習でもしろよ!!!!!!!」
「やられちゃった」「私も」
「ちょっと!!!!敵にキルを献上しに突撃してどうするのよ、このクソ野郎!!!!!」
寮の子たちはリボンの行動にすっかり慣れているようで、大声で怒鳴り散らすリボンを笑いをこらえながら眺めていた。するとマ―ベルがリボンに声をかけた。リボンはそのとき、背筋をピンと伸ばして座っていた姿勢から猫背の姿勢へと変わっており、手元の何かを素早く押した。
「リボン、ご飯食べた?」
「Shut up」
「食堂から鶏飯買ってきたわよ。あなたの好きなやつよ」
「Shut up」
「お風呂くらい入ったら?香水の匂いがかなりきつくなってるわよ」
「Shut up」
「で、ご飯食べるの食べないの」
「Shut up!」
「食べないなら私が食べるわよ」
「Shut the fuck up!!!!!!!」
「あ……リリオちゃん、やられちゃった」
「ちょっと見て見て、死体撃ちされてる。笑えるんだけど」
「見て見て、メッセージも来てる。NOOBって。ははは」
さっきリボンに怒鳴られた女の子たちが楽しそうに彼女をからかっていた。
……生まれてこのかた、こんな光景は見たことがなくて、どうしていいかわからなかった。仲良くなければこんな風に遊べないはずだけど、これはいいのだろうか。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
絶望的な叫び声が上がって鳥肌が立ったが、女の子たちは相変わらず笑い続けていた。
「はぁ……。あ、新入りちゃん!」
「え!!!!私のこと?」
切り替えが早すぎる。
「私、リボンっていうの。18世紀のロシア帝国出身よ。よろしくね~♥︎」
リボンがウィンクしてきて思わず鳥肌が立った。
「えっと……クロエです。クロエ・アンダーソン。18世紀のイギリス出身です。みなさん、よろしくお願いします」
するとドロシーが小声で囁いてきた。
「あんな見た目してるけど、あの子って王族の血筋なのよ」
「マジで!?」
「あ……よろしくね、黒絵ちゃん~。昨夜は助けてくれてありがとう」
と突然、艶やかな黒髪の長い小柄な少女が声をかけてきた。ハムスターのようにふわふわとした柔らかな雰囲気で、ねまきの患者服を着ているのだが、体が小さすぎて服がほんの少し大きめだった。
「えっと……私はクロエ(chloe)と申します」
「ふむふむ、黒絵ちゃんねえ?」
ドロシーがまた囁いてきた。
「姫子は英語や他の言語の発音が苦手でね、だから他の人の名前を全部日本語で呼んじゃうの。マ―ベルだけはちゃんと呼べるみたいだけど」
素直なのに変わった人。エイガシ寮の生徒たちを一言で表すならそういうことになるのだろう。
「リボンはリリオ、私はドムちゃん、シンイェンはセリザワちゃん、シャーロットはシオミちゃん、フォレスはナミちゃんよ」
「…………」
「ねえ……ご飯食べましょうよ。まだお昼ごはん食べてないでしょ?」
「そうだよ!ご飯食べに行こうよクロエ」
「学院の食堂のカオマンガイ、おいしいんだよね」
そして私たちは食事をしながらたわいもない話をした。
「ところで……ここからいつ出られるの?」
「うーん……今夜には寮に戻れると思うわ。出るときは魔法で呼んでもらえばいいし」
「それで……黒絵ちゃんは自分のルーンの能力もう知ってる?」
「まだなの……今わかってるのはこれだけ」
私たちは集中して、砕けたガラスのような目に変化させて見せた。
「どうやら相手の弱点が見えるみたいで、色で表示されるの」
「へえ……チートなルーンじゃない。それなら各寮の生徒を魔女のところへ送り込まなくてもいいじゃない」
「でも欠点もあって、相手が強ければ強いほど凝視する時間も長くなるの」
「うーん……チートすぎるものはバランスが崩れるってことね」
私たちはシャーロットの言葉を聞きながらご飯を口に運んだ。(すごくおいしい)
「じゃあクロエのルーンって自動発動型なの?」
ナイチンゲールが尋ねた。
「違うと思う。自動発動型ってそんなに昔から存在するものじゃないし、そんな単純な力じゃないと思うわ」
「まあ……そのうち自然とわかるわよ、どんな形であれ」
私たちはリボンの言葉に頷いた。魔法を使う機会を増やしていけば、その能力についてもわかってくるかもしれない。
今は魔法が以前よりずっと身近なものになっているとはいえ、細かいところまで深く理解するにはまだ時間がかかりそうだ。
焦らずゆっくりやっていく方がいいだろう。
「そうだ、新入りの歓迎パーティーはもうやったの?」
リボンがスプーンで私たちを指した。
「パーティー?そんなのあるの?」
「あるわよ……新しい子が寮に来るたびに、いつも歓迎パーティーを開いてるの」
「まだよ。みんなが先にここから出てきてからにしようと思ってたから」
「いいね!じゃあ今夜クロエの歓迎パーティーをしましょう。残りのみんなにメールで知らせるわ」
みんなが大喜びで盛り上がった。
パーティーか……一度だけ行ったことがあるけど、あの貴族たちに宴の席で侮辱されてから二度と行かなくなってしまった。
でも実際のところ、パーティーがどんなものかは知っているのに、なぜかとても胸が躍った。
「じゃあ帰りに私たちが買い出ししてくるから、みんなは準備しておいてね」
「それでクロエは何が食べたい?」
「え……えっと……」
しばらく考えてから、一番食べたいものを思い浮かべた。
「お肉とスイーツかな」
「それ最高じゃない!!!!!」
「肉好きの会パーティーじゃん!!!!最高!!!!」
「そうそう、新しくケーキ屋さんがオープンしたんだって。帰りにたくさん注文しておきましょうよ」
「みんなにもお金を集めるよう言うのを忘れないでね」
みんなすっかり盛り上がって残りのご飯を食べるのも忘れてしまった。私たちも思わず笑顔になった。
時間が経ち、私たち三人は準備のために寮へと戻った。女の子たちは棟の外でお肉を焼いていた。私たちもテーブルのセッティングと飲み物の準備を手伝った。
「ミンディ、残ったお肉は冷蔵庫にしまっておいて」
「了解」
「レーラ、このライトはどこまで繋げばいいの……」
「あ、お社まで電球を繋げて」
「どうしたの、あまり嬉しそうじゃない顔してるけど」
ベネディクが言った。
「そういうわけじゃないんです。ただちょっと不思議な気持ちで」
「不思議って、どういう意味?」
「その……誰かが何かをしてくれるのはずっと見てきたんですけど、今回はなんだか違う種類の嬉しさがあって」
「それは、あなたのことを助けてくれる友達がいるからよ……さあ行って、まだテーブルも椅子もたくさん足りないから」
「うん!!!」
「さあ、ついに全員が揃ったわね。それでは私、マ―ベル・チョンティチャが、改めて私たちの寮の新しいメンバーを正式に歓迎します」
「みんな、パーティーを開いてくれて本当にありがとうございます。こんな日が来るなんて思ってもみなかったけど、みんなのおかげで幸せに生きたいという夢が本当に叶いました」
「いつも相談に乗ってくれて、助けてくれて、ありがとうございます」
「傍にいてくれて、ありがとうございます」
「できることなら、友達でいてくれて、ありがとうございます」
その言葉を口にした。本当にそうなってほしいという気持ちから出た言葉で、もしかしたらもうそうなっているのかもしれない。
「これからもずっと友達でいてほしいです……」
「「「「「「「「「「乾杯!!!!!!」」」」」」」」」」




