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もう魔王なんて呼ばれたくない!〜500年城に籠ってた吾輩、勇者学校に通って汚名返上するのだ!〜  作者: 高端 朝
【第二章】

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【第二十四話】枯れ切れぬ炎

黒き煤が、壁に設置された鉄板を汚していた。視線を少し逸らせば、見慣れた少女の姿。


「大丈夫なのか、フィリィ」


彼女は吾輩に気づき、焦ったように桃色の髪を耳にかけた。


初めてのホームルームが終わり、吾輩は昨日入学試験を行った近接戦術の修練場を歩いていた。


普段は自由開放されているのだろう。複数の生徒が自主的に、組手をしたり、ダンベル振って踊ったりしながら鍛えていた。


その中に、フィリィも居たのだった。


「あ、ああメイト!いや、その……」


藍色の制服を纏っている。ちなみに吾輩はまだ私服、半袖半ズボンだ。


「体はもうよいのか?」


「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。貴方はどうしたの?」


「今日はホームルームで終わりらしいのでな。寮に向かっておる。お主は炎魔法の練習か」


鉄板の煤はそれの命中を示すものだ。


「前線に出れば、お主の炎は大いに役立つであろうな」


職業や生き方と同じく、魔法にも適性がある。誰もが炎魔法を使いこなせるわけではないのだ。


「いや、これはちょっと、ずっと寝てたから体が訛っちゃって、それで運動してたというか……」


フィリィは俯き、髪を耳にかけ直す。


「……私、補給勇者になろうと思ってるの」


勇者には戦闘、補給、戦略等の部門があり、初級生の時点で進路を決めている生徒もいるそうだが、


「……いいのか?」


彼女にとって、魔王軍は両親の仇だ。自らの手で屠りたいと考えることもあるのではと思っていたが。


「うん……」


頷く少女の顔に影が差す。


「奴らと直接戦うのは、なにも私じゃなくていいから。私はその手伝いをすることにしたの」


なかなかアツい炎だったがのお。少々残念ではある。


「フィリィのやりたいようにするがよい。後悔のないようにな」


頷くフィリィに長椅子を勧める。少し休憩だ。晴天に見守られる中、吾輩はホームルームの内容を彼女に共有した。


「ショウ先生が副担任……入学試験はクリアしたとはいえ、警戒した方がいいね」


「そうかのお」


「そうだよ。あの人、メイトを追い出そうとしてたじゃない」


「だが入学を認めてくれたではないか」


「そうだけど……あれ」


フィリィの視線が動く。追えば、そこは試合を行う正方形の舞台への階段。ふたつの人影があった。


橙色のトゲトゲしい髪の少年が、ひとりの女生徒を逃げ場を奪うように追い詰めている。


吾輩、その少年に見覚えがあった。クラスメイトだ。


「リーヴェンス……と呼ばれていたか。何事だ」


少年の鋭い眼光が女生徒に突き刺さるようだ。


「レイン・ラーエルクだろお前、うちのクラスでは一番のオジョウサマだな」


レインと呼ばれた女生徒は、無言の返事で応じた。青紫色の長髪に隠れて、表情は伺えない。


「私と話したいんですか。貴方と話すことはありません」


女生徒が口を開いた。小さく、そして突き放すような声だった。


「底辺とは口ききたくねぇか。だが生憎、俺が交わしたいのは拳でな」


ザワリ……と周りの生徒がふたりを見出す。「喧嘩の気配を察知」などと言っているのが聞こえた。


それを見、リーヴェンスがニヤリと笑う。


「みんな観客になりたいってよ。目立つのは得意だろ?オジョウサマ」


「どいてください。行くところがあるんです」


「つれないこと言うなよ。勇者志望だろ──」


去ろうとする女生徒の腕をリーヴェンスが掴む。思い切り投げ飛ばした。レインが舞台上に転がり、呻く。


「高め合おうぜ」


リーヴェンスか再びレインの腕を掴んだそのとき、


「やめなさいッ!」


どこかから叫び声。


「む?誰であろうな……フィリィ?」


隣に顔を向けると、彼女は居なかった。


「なるほどの」


制止の声はフィリィのものだったのだ。舞台に上がり、リーヴェンスを睨みつける。


「なんだお前」


「私はフィリィ・サリアー。その手を離しなさい。レインさん……?が嫌がっているでしょう」


彼女が名乗ると、リーヴェンスは半笑いで口を開く。


「あー、昨日の騒動。悪党に捕まったのお前か」


「どうしてそれを……」


「見てたからな、試合。敵情視察って奴だ。俺はヘックス・パーシアスに勝つ予定だからな」


確定事項のように宣言する彼の目には、ギラギラとした意志が宿っているようだ。


「それよりお前、恥ずかしくねーのか。人に助けられて。勇者志望のクセによ。向いてないんじゃねえか?」


「うっ……」


「案外ソイツ──」リーヴェンスが指を踊らせ、吾輩に向けた。


「メイト・アクザードもお前が攫われたことに感謝してるかもな」


「む?」奴は何を言っておるのだ???


フィリィも「そんなわけッ……!?」とたじろぐ。


「だってそうだろ。騒動が起きなきゃ、ヘックスに叩きのめされるところ、観衆の面前に晒して恥かくはずだったんだからな」


なるほど、そう解釈することも可能であるのか。筋は通っている。


「うう……」


フィリィが後退(あとずさ)る。俯き、肩を震わせる。


「お前如きがでしゃばってないで、俺が勇者の(いただき)に立つとこ見てろ」


「…………かう……」


彼女の小さな呟きは、この場の誰にも聞き取れなかった。


「は?」リーヴェンスが怪訝そうな声を出す。すると、フィリィが叫んだ!


「彼女の代わりに、私が貴方と戦う!」


数秒間、周囲を静寂が支配した。締め切られた扉を開け放つかの如く、リーヴェンスが呆れるように叫ぶ。


「なんで俺がテメーなんかとッ!」


「お!そういう展開か!面白い!」

「今年の新入生のお手並み拝見って感じね!」


周囲の生徒が(はや)し立てる。


「ほら、観客さんたちもこう言ってるし。やらないなら私の不戦勝!」


フィリィの額には汗が滲んでいる。煽ってみたものの、緊張しているのだろう。


「笑わせんな!」


リーヴェンスの手が、ついにレインを離す。よくやったぞフィリィ。


「いいぜ。やってやる──」


額に青筋を浮かべ、薄ら笑うリーヴェンス。


「──『エキノコルプス』」


その腕が一瞬、歪んだように見えた。


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