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602-31 エイラちゃんの誕生日

 ミリアちゃんが無事に帰郷して、ひと月ほどが経った頃。

 エイラちゃんの誕生日を迎えて、約束の通り、お祝いをすることになった。

 相変わらずあまり余裕もなく、恐縮するエイラちゃんの負担になってもよくないから、と今回はささやかなものに留めておくつもりだったのだけれど、どうもヤヨイちゃんがなかなか手の込んだプレゼントを用意していたようで──



 2月10日。

 寒さは峠を越えた頃、エイラちゃんの誕生日を祝って、3人でちょっとだけ豪華なお昼ごはんの食卓を囲んでいた。

 誕生日というものをあんまり意識することがなくて、出会ってからこちら、一度もお祝いできていなかったのだけれど、ヤヨイちゃんの誕生日があった時に、これからはお祝いしようね、となって、これが最初のお誕生日会である。


「誕生日おめでとうー、エイラちゃん」

「……ありがとうございます」


 とりあえず、拍手だけ。

 ロウソクの火を吹き消してもらいたい気はするけれど、それを立てる生クリームを使うようなケーキなんてお目にかかれないし、簡単に作れるようなものでもなく……。パンケーキくらいなら作れないこともないかもしれないけれど、そこにロウソクを立てるのは違う気がしたので、今回は見送ることにした。

 次の機会までには、レシピの研究でもしてみようと思う。


「それにしても……えっと、19歳になったんだよね……」

「はい」


 ちょっと近づいて、まじまじとエイラちゃんの顔を見る。

 正面から、斜めから、もっと近くから、ちょっと遠くから。

 ふんふん言いながらそんなことをしていたら、きょとんとしていたエイラちゃんの頬が、ほんのり赤くなった。


「……あ、あの……サクラ様、如何なさいました……?」

「んーとね……19歳には見えないなぁって。……あ、悪い意味じゃなくてね?」


 エイラちゃんは〝再誕者〟という、ちょっと特殊な立場で。一度死んでから特別な魔法で蘇生をすると、ちょっと普通とは違う性質とかが現れて、そう呼ばれるようになるらしい。

 マリュー曰く、魔法の扱いが上手くなったり、まさにこのエイラちゃんみたいにアルビノのような見た目になったりするらしいのだけれど──なんでもさらに、寿命が伸びて普通の人の2、3倍も長く生きたりするんだとか。

 だからなのかな。

 あいにく正しいところは分からないのだけれど……どうもエイラちゃんは、身体の成長がゆっくりだった。

 なので今も、とても19歳には見えなくて。普段の立居振舞いを見ていると結構大人っぽいのだけれど、顔立ちだけなら、まだ中学生くらいに見えてしまう。


「エイラちゃんと出会ってから、もう4年近くなるんだよね。……んー、そうやって思い返してみると、結構大人っぽくなってきたね」


 頭をぽんぽんと撫でてあげる。

 そこでふと気がついたことがあった。

 確認のために、エイラちゃんに一度立ってもらう。


「…………エイラちゃんって、初めて会った頃はわたしよりも背は低かったよね……?」


 今こうしてエイラちゃんと並ぶと、わたしがちょっと見上げるくらいの身長差になっている。

 でもあの頃は、逆にちょっと見下ろしていたような……?


「……背丈でしたら、3年ほど前にサクラ様に追いつきました」

「んぇ、そんなに前に……。でも言われてみれば、見上げてる方がいつも通りって感じするね……」


 わりと今更な気づきだった。


 気を取りなおして、わたしからエイラちゃんへ、小さな包みを手渡す。


「……これは?」

「誕生日プレゼントだよ、エイラちゃん」


 開けるように促す。

 贈ったのは、ちょっぴり立派な髪留め。


「いつだったかに、買ってあげるって言ってたまま機会を逃しちゃってたから。エイラちゃんの髪もまた結構長くなってきたし、良かったら使ってね」


 あんまり高価なものは受け取りづらいだろうから、とお手頃な感じでエイラちゃんに似合いそうなものを選んでみた。

 エイラちゃんはちょっと戸惑ったようだったけれど、それから恥ずかしそうにうつむき気味で。


「あ……ありがとうございます……」


 と小さく言った。

 なぜだかとても照れ照れとした反応だったものだから、なんだかわたしもつられて恥ずかしく思えてきてしまう。

 えへへ、なんてふたりして笑っていたら。


「……もうええか? 儂からもあるんじゃからな!」


 ここまでひと言も発していなかったヤヨイちゃんが、しびれを切らしたみたいに声を上げた。

 どうすればいいのか分からなくなっちゃっていたので、ちょっと助かった。

 で、ヤヨイちゃん。

 ドヤ顔のヤヨイちゃんは大きな布袋を取りだして、空いている椅子の上に、ぼふ、と乗せる。

 そこから取り出したのは、綺麗な黒を基調にしたワンピースと、真っ白なエプロンだった。

 そして輪をかけてのドヤ顔で、胸を張る。


「メイド服じゃ!」


 ぐい、とエイラちゃんに突き出して見せていた。

 おぉ、と感心したわたしとは違って、エイラちゃんは首を傾げていたけれど。

 先日ミリアちゃんを迎えに来たメイネーンさんが着ていたものだ、と説明したらイメージできたらしい。


「給仕服というが、まぁようは作業服じゃな。仕事のしやすかろうようにこの儂がデザインしたからの! エイラにはちょうどええじゃろ。それに微妙にみすぼらしい格好しとるよりかは見栄えもするしな!」


 なんでもメイネーンさんの服装を見た時に思い付いたそうで。

 デザインは自分で考えて、ミフロの服職人さんに替えの分まで含めて作ってもらっていたらしい。

 確かに仕事のしやすい格好をするのは理にかなっているし、個人的にエイラちゃんのメイド服姿というのはすごく見てみたかったので……すぐに着てみてもらうことになった。

 ヤヨイちゃんが着方を説明しつつ、10分後。


「……いかがでしょうか」

「おぉ……」


 すごく似合っていた。

 いつの間にかわたしを追い抜いていたエイラちゃんの長身と線の細さに、真っ白な肌と髪を引き締めるような真っ黒なワンピースが合わさって、さらにそこに少しだけフリルのあしらわれた白いエプロンや、髪にはわたしの贈った髪留めなんかも彩りと可愛げも添えて。

 とにかく似合っていた。

 ちょっと恥ずかしそうに伏せがちな赤く潤んだ瞳も、エイラちゃんの魅力を際立たせていて、良い。


「すごくかわいい」

「!」

「おう、似合っとるな!」


 前から横から後ろから、エイラちゃんの周りをくるくる回ってその可愛さに存分に癒されてから、やっと食事を摂って。

 そろそろみんな食事も終わろうかという頃、ずっと恥ずかしそうにうつむきがちだったエイラちゃんが顔を上げて、わたしたちを見た。


「……サクラ様、オータ様。本日はありがとうございました。……誕生日というのはわたくしにとって、ただ、母の腹から取り上げられた日という意味でしかないと思っていましたが──」


 ちょっぴり赤くなったまま、エイラちゃんがにっこりと微笑んだ。


「──これほど特別な日に思えたのは生まれて初めてです。だから、本当に、ありがとうございました」

「あはは、大袈裟だよ」


 なんて笑って、エイラちゃんのお誕生日会はお開きになった。

 そしてこれ以降、エイラちゃんはきちっと綺麗なメイド服を着て過ごすことになったので……わたしも、もうちょっと身なりに気を付けないと不釣り合いになっちゃうかな、なんて思うようになった。



サクラ:150cmくらい

エイラ:160cmくらい

(ヤヨイ:125cmくらい)


来年はせめて週1投稿頻度を回復したく存じます。

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