511-12 記念日2
どう答えたものかとちょっと悩む。
わたしの元の誕生日は、5月31日だった。
ただ、こちらの世界の暦は前世とは少し違っていて、1年は12ヶ月だけれど基本的に1ヶ月はちょうど4週間──28日しかない。つまり、31日はないのだ。
日付自体がないものだから、今まではなんとなく5月が終わったら歳が増えたような感覚で過ごしてきたのだけれど、さてそれをどう説明しようか。
異世界とか転生とか、ミリアちゃんには言えないこともある。でも大きな嘘もつきたくないので、ざっくりふんわり、当たらずとも遠からずみたいな説明となると……。
「うーんとね……わたしの故郷って、暦の数え方がちょっと特殊だったから厳密には違うかもしれないんだけれど……うーん……」
ちらりと周りの反応を窺ってみる。
ミリアちゃんはこくこくと頷いて、怪しんだりはしていない様子。
エイラちゃんはまじめな表情でじっとこちらを見つめている。
そしてヤヨイちゃんは──カモを食べながらこちらを見ていた。目が合ったけれど、もぐもぐしつづけている。
……あんまり難しく考えすぎなくてもいいかな、と思って言葉を続けた。
「……えっと、簡単に言うと、5月の最後の日、とか……。……あぁ、うん、そうね。それが一番分かりやすいかな……?」
自分で説明して、自分で納得していた。
こちらの世界の5月の最終日である28日を飛び越えて、31日になれたはずの6月3日と答えるのも考えたのだけれど、月まで変わるのと変わらないのとでは結構印象が違うもので、最終日という考え方の方が案外しっくり来たのだ。
「5月の最終日……。……僭越ながら、サクラ様のお誕生日はお祝いさせていただいてもよろしいのでしょうか?」
「ん? うん、大丈夫かな」
「あたしも……覚えておくわ」
「ええ? 別にそんな、大層なことじゃないけれどね?」
ミリアちゃんの次の誕生日はもちろん、その前にわたしの誕生日もエイラちゃんの誕生日だって、ミリアちゃんと一緒に迎えることはないだろうなぁ、と。
なんとなく、この場にいるみんなが──もちろんミリアちゃんも含めて、そのことは分かった上で今を過ごしているような気がする。
未だにミリアちゃん自身から話は聞けていないし(そもそも訊いていないのだけれど)、クライアさんやハルベイさんから、なにか分かったという連絡もないけれど……。
でも、なんだかひとつの区切りを感じるような。はじめて祝った家族の誕生日は、そんなちょっと特別な日になった。
◇
そして週末は予定通り。
主役はエイラちゃんとロミリー。治癒魔道士補佐の認定おめでとう会がうちで催された。
大々的にどーんとやるものでもないので、参加者はわたしを含めた我が家の4人と、コーレイト先生とロミリー。あと、わたしもエイラちゃんも日頃からなにかとお世話になっているクライアさんが途中参加で、計7人。
おめでとうーの乾杯から始まってから、あとはもうお昼の食事会だったけれど。
テーブルには、先立って良さそうなことを確認できたカモのローストを中心にしていろいろな料理を並べてみた。
カボチャのサラダとかカボチャのポタージュとか、あとはカボチャのバターソテーとかカボチャの甘煮とか、カボチャのステーキとか、とか……。クライアさんが立派なカボチャをたくさんおすそ分けしてくれたので、ほとんどカボチャ一色になっていたけれど、今日までにみんなで調理法を色々考えたお陰で味に飽きることもなく会を楽しめた。
そして楽しいままに良い頃合いになって、会もお開きになる。
片付けは任せてもらって、ほろ酔いのコーレイト先生とロミリーを見送り、続いてクライアさんもお見送りを……とそこでだった。
「ねぇサクラ。……ちょっといいかい?」
「……ん」
周りからは、聞き耳でも立てていないと聞き取れないくらいの抑えた声。
すぐにぴんと来て、エイラちゃんに目配せをしてから、またクライアさんに視線を戻す。
「もちろん良いですよ」
客間に案内して椅子を勧めたけれど、すぐに済むと言うからベッド傍で立ち話である。
クライアさんは普段通りのはきはきした調子で、それでね、と話し始めた。
「ミリアちゃんのことなんだけどね」
「なにか分かったんですか?」
「いや、それはさっぱりだね」
あっさりと否定されて唇を噛む。
まぁ、世間話に近い話のトーンだったから察してはいたのだけれど、訊かずにはいられなかったのだ。
「今までのところ、連絡のしやすい本家の勤め人やら旧知の貴族の者らに便りを出して、ミリアちゃんみたいな子がいなくなったなんて話を聞かないか訊ねてみてるんだがね。あいにく、そんな話は聞かないって答えしかなくてね」
「そうですか……」
「ただ、この間息子との手紙のやりとりの中でミリアちゃんのことを書いたら、なんでもトタッセン先生がこの話を聞いて調べてくれるってなったみたいでね。それを伝えておきたかったんだよ」
「んぇ? ウェデルくんが、マリューに?」
ウェデルくんは魔法学院を卒業後も王都に残っていたんだっけ……、と思い返す。
卒業してからも先生との交流があるんだなぁ、なんて感想が浮かぶけれど、ここでマリューに伝わったかぁ……、とちょっと複雑な気分になってしまう。
今回のミリアちゃんの件だけれど、マリューに頼るのは最後の最後にしよう、と思っていた節があった。
単純に、王都は遠いから、ミフロからそう遠く離れたところの出身ではなさそうなミリアちゃんの噂もそちらまでは届きにくいだろう、と思ったこともある。ただそれ以外にも、あれやこれやとお世話になっているマリューに、わたしやマリューに直接関係しているわけでもないこの件まで頼るのは、あんまり気が進まなかったということもあったのだ。
とはいえ、絶対に頼らないと思っていたわけでもなく。
調べてくれると言うのなら、わたしからも改めてお願いの手紙を出しておこう、と決心して、手を尽くしてくれたクライアさんにお礼を言いつつ見送ってから、今日のお祝いの会の後片付けを手伝いに食堂に戻ったのだった。
◇
翌日にはマリューへ手紙を送ったら、数日後に行き違いでマリューから調査を引き受けてくれた旨も書き添えられた近況報告の手紙が届いちゃったりしたけれど、別に問題が起こったりするわけでもなく、季節は本格的な冬になる。
これといって特別なことはなかった。
ヤヨイちゃんの工房ができていたり、さらにそこにミリアちゃんという家族がひとり増えていたりはしたけれど、平和な冬。
わたしやエイラちゃんの生活は、もうすっかり板についている。多少わたしも手の空くこの時季には、浮いた時間にみんなでクライアさんのところにちょくちょく遊びに行くのも、冬の恒例っぽくなってきたような気がする。
マリューが調べてくれると言っても、すぐに進展があるわけでもなく、年の瀬にかけても、ヤヨイちゃんとミリアちゃんは毎日工房に籠っていた。
よく手伝いをしているエイラちゃん曰く、最近は、先日錫めっきをするために作った電池を使っていろいろと試してみているらしくて。夕ごはんの時に、まぶしく光ったとか、針が動いたとか、楽しそうに話してくれるミリアちゃんの様子はとても微笑ましいものだった。
いつもより幾分か暖かい冬も過ぎていき。
年が明けて1月の半ば、マリューから、ミリアちゃんの親御さんが見つかった、との手紙が届いた。




