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511-11 記念日

 また少し時間が経って、11月初めのこと。

 そろそろ裏の山に太陽が落ちようという時間に、我が家までコーレイト先生とロミリーがやって来た。

 認定証が到着したとのことだった。もちろん、ロミリーのもエイラちゃんのも、ふたり分ともに。

 それぞれに手を握っておめでとうを伝えたけれど、照れるエイラちゃんとは対照的に、ロミリーはちょっとふくれ顔で。


「エイラちゃんもすごすぎるんですよー。勉強に関しては、あたしの方がちょっと早く始めてたのにー」

「ふふふ……確かにエイラさんはすごいですが、ロミリーも充分に優秀ですよ。……ちょっと常識外れな方もいますけれど、それは例外として、1年半足らずで補佐認定を受けられるというのは、非常に早いことなんですから」


 照れて、ふくれて、苦笑い。

 そして、この分なら予定通りの期間でも心置きなく安心してひとり立ちさせられそうですね、と笑うコーレイト先生。

 不死者(わたし)と違って面倒ごとのないエイラちゃんは、ロミリーと一緒にこのまま治癒魔道士になるための勉強は続けるそうで。そんな話も交えつつ、治癒魔道士補佐認定も確定したお祝いは1週間後──次の週末にすることになった。

 お祝いパーティまでの1週間は、準備期間。

 肌で感じる風は、もうすっかり冷たい。どんな料理を作ろうか、なんて考えながら、後片付けをしに調薬棟へ戻る途中のヤヨイちゃんの工房からは、リズミカルな金音が響いていた。



 その日のヤヨイちゃんは朝からなんだかご機嫌だった。

 なにかあったの? と訊いてみてもにやにやとはぐらかされて、様子が違うといえば、ミリアちゃんもそわそわとなんだか落ち着きがなかったのだけれど。


「な、なんでもないわ……です、よ……?」


 と答えてくれず。

 ふたりがそんな調子のまま工房に行くのを見送ったあと、どうしたんだろうね、とエイラちゃんと首を傾げていたら、……そう言えば、と。


「先日オータ様から、この日の昼食は普段より豪勢にして欲しい、と指定された日は本日でしたね」

「…………ん、あー。そう言えばそんなことも言ってたね。追加の食費まで貰って」


 エイラちゃんとロミリーの治癒魔道士補佐認定のお祝いの日取りを決めた時だったかに、そんなことを頼まれていたのだった。忘れていたけれど……。


「昼食を豪勢に、って何かお祝いなのかな? 今日……11月6日? って何かあったっけ……?」

「……あいにく存じ上げませんが……」


 結局、首は傾いたまま。

 ともあれお願いされた通りにエイラちゃんには準備は進めてもらうので、どんなものを用意しようか、とちょっと話し合って、カモでも焼いてみて貰おうか、なんてことになった。

 うちには大きなグリルがないから、クラベルさんのお店でカモを買ってそこで焼いてもらおうか、という話である。今までお願いしたことがなかったので、ちょっとしたお試しも兼ねて。


 そしてお昼。

 わたしも少し早めに仕事に区切りをつけて、エイラちゃんのお手伝いをしていた。こんがり丸焼きのカモが、なかなかの存在感を放つテーブルができあがる。

 ちょうど用意もできたところで、ヤヨイちゃんとミリアちゃんもやってきた。

 ふたりの様子は相変わらずで、ヤヨイちゃんはにこにこしていて、ミリアちゃんはそわそわしている感じだったけれど……、はて、それより気になったのは、ふたりがそれぞれ両手に持っている、銀色の筒のようなナニカで。

 コン! とテーブルの上に置かれたそれは、なんだかもう随分と長いこと見ていなかったような気がするけれど、わたしにはなんとも馴染みのあるモノに見えて……。


「ヤヨイちゃん、それって──」

「これのことは後じゃ!」


 ちょっとわくわくしながら確認しようとしたら、さえぎられてしまった。

 うずうずしつつも上下の唇をくっつける。

 ヤヨイちゃんが、ふっふっふっ、と不敵に笑った。


「本題はこれではなくな……ふっふっふっ、何を隠そう、今日、11月6日は、儂の誕生日である! よって祝え!」


 バンザイ! の姿勢で静止するヤヨイちゃん。


「…………んぇ、誕生日? あ、ヤヨイちゃん今日お誕生日なの? わ、おめでとうー!」


 お昼ごはんを少し豪勢に、ってそう言うことだったのか、と納得しつつぱちぱちぱち。

 少し遅れてエイラちゃんの拍手も受けながら、ヤヨイちゃんはすごく満足げに頷いていた。

 それにしても、まさかお誕生日とは。さっぱり思い至っていなかったもので。


「先に教えてくれてたら、プレゼントとか用意したのに……」

「別にそういうのはいらん。……しかしまぁ? どうしてもと言うなら? 来年以降は期待してやっても良いが?」


 ヤヨイちゃんは終始にやけ顔。

 今にも小躍りしはじめそうな感じで、なんだかわたしまで嬉しくなるくらいにハッピーオーラが溢れていた。


「ケーキとかも、用意したかったねー」

「ケーキなんぞ王都くらいでしか売っとらんじゃろ。持ってくるまでに腐るわい」


 さすがにケーキを作るのは難しそうだね、とか、でも余裕ができたら挑戦してみたいね、なんて話が一区切り付いて。

 ずっと視界に映っていて、気になって仕方がないそれを見ながら、それで……、と言及しかけたところで、あの! とミリアちゃんが声を張った。


「その……これ、ノノカさんに、と……」

「ん……え? わたしに?」


 差し出されたのは、さっきから気になって仕方がなかった、銀色で円筒形のそれで。

 受け取って見れば、それは思っていた通り、金属製のコップだった。

 槌目の付いたコップはよく見れば歪なところがあって、いかにも手作り感のある優しい手触りがする。

 わくわくしながらヤヨイちゃんを見れば、これは──と。


「銅の板を叩いてコップ型にしたもんに、錫の電気めっきをしたもんじゃ。まぁ酒器的なもんか」

「やっぱり! え、これミリアちゃんが作ってくれたの?」

「えっと、板を叩いてコップの形にするのは、あたしが……」

「えーすごいね! ありがとうミリアちゃん! ヤヨイちゃんも! これで飲むとお酒が美味しくなるんだよね」


 ここ最近でも一番テンションが上がるくらいに嬉しかった。

 前世では愛用していたけれど、こちらに来てからは余裕もなかったし、そもそも売っているところを見かけた覚えもない。

 自分で作ろうにも金属の加工なんてできないし、半ば存在自体忘れていたけれど、まさかこんな形でまたお目に掛かれるなんて。

 酒器を光にかざして輝く様は、ずっと見ていたいくらい綺麗だった。


「自分用に作るだけのつもりだったんじゃがな、こいつ(ミリア)あんた(サクラ)の分も作りたいちゅうから数作ったんじゃ。ほれ、ついでにエイラの分も」

「……あ、ありがとうございます……」


 こん、しゅっ、ことん。とヤヨイちゃんがもうひとつ持っていた酒器をエイラちゃんへ滑らせた。


「……わたくしはまだお酒は戴きませんが……」

「それを言うたら儂も飲めんがな。じゃが酒に限らず水でも茶でもなんでも上手くなるとか聞いたことがあるからの。じゃから作ったんじゃ。わざわざ電池まで作ってな!」


 そこから少しの間、得意げなヤヨイちゃんがこの酒器をどうやって作ったか、何が大変で何に苦労したか、こんこんと説明してくれた。

 そう言えば〝電気〟なんて久しぶりに聞いたなぁ、なんて思いながら、時折ミリアちゃんが、あれがああでそうなって本当にすごかったのよ! みたいに、楽しそうに嬉しそうに、興奮気味に感想を差し入れてくるのがまた微笑ましくて。

 相変わらずヤヨイちゃんは小難しくて新しいことにいろいろ手広く挑戦しつづけているみたいで、エイラちゃんと一緒に助手みたいになっているミリアちゃんも、たくさんおもしろいことを経験できて、もうすっかり元気を取り戻せているようでわたしも嬉しかった。

 あとは身元が分かるか、ミリアちゃん自身に親御さんの元に帰る決心をしてもらえれば、全部が丸く収まるのにな、と思う。

 もちろん、ミリアちゃんが故郷へ帰るとなったら寂しいけれど……ご両親の元に帰れるのに帰らないなんて、もっともっと寂しいからね。


 ヤヨイちゃんの話が終わってから、ようやくお昼ごはんに手をつけていると、自然とまた話が誕生日のことへ戻っていって。

 そう言えば、こちらに来てから誕生日なんてほとんど気にしたことがなかったな、と思い至る。


「ねぇ、エイラちゃんのお誕生日っていつなの?」

「……わたくしは、2月の10日生まれです」

「2月10日かー。……今まで全然お祝いしてあげられてなかったから、来年からはお祝いしてあげるからね!」

「いえ、そんな……。お構いなく……」


 恐縮しつつ、ほんのり照れるエイラちゃんが可愛い。


「ミリアちゃんは?」

「あたしは8月の10日よ」

「8月かぁ……。次はまだまだ先だけれど、お返しもしたいし、しっかり覚えてお祝いしてあげないとね」

「え、えぇ? いや、そんなに……えっと……」


 ミリアちゃんもミリアちゃんで、驚いてからもじもじしているのは可愛かった。

 そんな可愛らしい様子を見て頬を緩めていたら、居住まいを正したミリアちゃんがこちらに向き直って。


「そう言うノノカさんのお誕生日はいつなんですか?」

「わたし……わたしかぁ」


 まぁ、訊けば訊かれるのは分かっていたのだけれど……。

 どう答えたものかとちょっと悩む。



スローペースであいすまぬ……

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