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509-53 説得少女

 混乱し始めたその場をエイラちゃんと一緒にどうにかこうにか収めてから、エイラちゃんとヤヨイちゃんも交えて改めて話をすることにした。

 とりあえず、ヤヨイちゃんが子供ではないこと──不死の魔法使いであって、実際には長く生きているおばあちゃんだということを、こんこんと説明してあげる。

 こういう時、ヤヨイちゃんに何か難しい魔法のひとつでも使ってみてもらえれば、不死の魔法使いだということを理解してもらう助けになるのだけれど、ヤヨイちゃんは魔法の使用が制限されていて一部のごく簡単な魔法しか使えないものだから、基本的に言葉で説明するしか理解してもらう方法がない。なので、疑り深い人にそれを信じてもらうのは結構大変だ。

 一応、不死の魔法使いの特性として、怪我の治りが普通の人より早いので、目の前で怪我をしてその傷の治りの早さを見てもらうという証明の仕方もあるにはあるのだけれど……見た目に衝撃的だし、普通に痛いし、治りが早いと言っても数時間は掛かるので、その方法は使える機会が限られてしまう。そして今回はその方法はちょっと厳しい。


 と言う訳で、ミリアちゃんにはヤヨイちゃんが不死の魔法使いであって子供ではないことをひたすら話して聞かせてあげた。

 少しでも話の信憑性が高まればと思って、王都の魔法学院の教師であるマリューの名前も出してみたり、本当は良くないと思うけれど、マリューの直筆のサインも載った、ヤヨイちゃんの身柄を引き受けたときに交付された文書なんかもちらっと見せてあげたりして、とにかく説明に説明を重ねた。

 そして小一時間の説得の後……なんとかやっと、ミリアちゃんにヤヨイちゃんが不死の魔法使いであることを理解してもらうことができた、と思う。

 ……心から納得してくれたかは分からないけれど、とりあえずヤヨイちゃんは本当はおばあちゃん、と言うことは伝わったみたい。


 なので、この話についてはひとまず良しとして……すっかり日も落ちてしまっていたし、とりあえず他の話は中断して、ミリアちゃんも一緒に夕ごはんを食べることになった。

 どうやらミリアちゃんはかなりお腹が空いていたようで、食事は手も止めずに一心に食べていた。口に合うかちょっと気になっていたのだけれど、心配はいらなかったみたいでエイラちゃんも心なしか満足げだった。


 そうして、夕ごはんを食べ終えて。

 後片付けを引き受けてくれたエイラちゃんにお礼を言ってから、まだまだ話が着地できていないことを思って、お茶を飲みながらわたしは唸った。

 この時点で、解決した問題は〝身寄りのない子を匿っているという誤解〟だけ。

 その噂を信じて来たミリアちゃんだけれど、なんらかの覚悟を決めてここまで来てしまっているっぽい以上、その噂が誤解だったからと言って、じゃあ帰ります、とはならないだろう。

 そしてどうやら、ミリアちゃんの一番の目的は魔法を教わることらしい。さらに、魔法を使えるようにならないと帰れない、と言っていたことと合わせて考えると……どこから来たとか、自分が何者かとか、たぶん教えてくれないと思えた。

 直接的に訊ねてはいないけれど、それを答えてしまえば送り帰されることはミリアちゃんも分かっているだろうし。

 迷子を届け出るような警察的な組織もなく、ましてあてもなく放り出すなんてできるわけもなく……とりあえずうちに置いてあげて、いずれ自分から帰ってもらうしかないのかなぁ、と考えながら頬を撫でる。

 ──そんな風にわたしが思い悩んでいるうちに、いつの間にやらヤヨイちゃんが主だってミリアちゃんに話を聞き始めていた。


「魔法を教わりたいというのでここまで来たのは分かったがな、なんでこんなところに来てまで魔法を使えるようになりたいんじゃ。魔法の教師なんぞ別にここにしかおらんということもないじゃろ」

「それは……」


 ミリアちゃんが口ごもった。

 そして様子を窺うようにこちらをちらりと見てきたので、わたしが少し首をかしげてみたところ、意を決したように顔を上げて叫ぶように答えた。


「それは、あたしは魔法が下手だから、すごく魔法がうまい人に教わらないといけないと思ったから!」

「そんなん、普通の魔法の教師に教わって駄目なら、不死の魔法使いに教わったとて駄目じゃと思うがな」

「なっ!」


 ヤヨイちゃんの容赦のない言葉に、ミリアちゃんが大袈裟に仰け反った。

 魔法を使うのがうまいことと、教えるのがうまいことは別だからね……。


「で、でも! お父さまもお母さまも魔法がとても得意なのよ! だから、あたしだって魔法が上手くなれるのよ!」


 そう言えば、王都の魔法学院にいた時に、魔法の素養や才能は遺伝とか血の影響が結構強いと聞いたような気がする。

 魔法が使えない両親なら、大体の場合でその子供も魔法は使えない。逆に魔法が得意な両親なら、その子供は少なくとも魔法の素養は持っているのが一般的になる、というような話だったと思う。

 ……と言うか、ここで出てきたミリアちゃんの言葉から察するに、どうやら両親が魔法を使えるのに自分は魔法を使えないことに危機感を持って、ひとりこうして魔法を教わるために飛び出してきたらしい。

 その、両親は魔法が使えるのに自分が使えないということを問題視する、というのは──わたしの勝手なイメージかも知れないけれど──貴族的な考え方な気がするなぁ、と思えた。それと、ところどころ育ちの良さも垣間見えていたこともあって、それはだんだん確信めいたものになってきていた。


 ふたりのそんな会話を聞きつつ、そんなあれやこれやを考えていると、不意にヤヨイちゃんに話しかけられた。宙に浮いていた視線を取り戻す。

 話し掛けてきたヤヨイちゃんは、なんだかちょっと物悲しそうな、あるいは呆れたような感じで軽くため息をついてから言葉を続けた。


「……とりあえず、さわりだけでも面倒見てやったらどうじゃ」


 とそこまで言って、そこからは声を抑えた〝ニホンゴ〟で。


「【どうも才能なさそうじゃしな。全く駄目と思い知れば気も済むじゃろうて】」

「んー……」


 頬に指を当てながら、悩む。

 ミリアちゃんはけっこう魔法が苦手らしいけれど、残念ながらわたしには魔法を教えるノウハウはないので、良い結果には繋げられるとは思えない。

 だからミリアちゃんには諦めて欲しいのだけれど、諦めるつもりはない──と言うより、引くに引けない感じになってしまっているみたいだった。

 どこから来たのか教えてくれるとは思えないし、帰す先も分からないのに放り出すわけにもいかない。

 ひとまずしばらくの間はうちに置いてあげて、自分から帰る決意をしてもらうのが一番丸く収まりそうに思えた。

 ただ、しばらく置いてあげること自体は全然構わないのだけれど、ここでミリアちゃんが諦めてくれていない以上、ずうっと魔法を教えることを断るやり取りをし続けることになるような気がして……それはさすがに、ちょっとかわいそうに思えてくる。

 じゃあもういっそヤヨイちゃんの言うように、つたないながらも魔法を教えてあげるべきかなぁ、と思う。

 入門書で読んだようなことしか教えられないし、もともと才能があって、ふわっとした説明でも理解できちゃうようなエイラちゃんくらいしか魔法を教えたことがないから、苦手という人にどう教えたものかさっぱり分からないけれど……やるしかないかなぁ。

 ……と悩んでいるうちにそんな考えに落ち着いてきた。

 その結果として、わたしでは魔法の教師には力不足だと思って諦めてくれるなら、それはそれで良いと思う。

 と言うわけで。


「うん、分かった。上手く教えてあげられる自信はないけれど……」

「本当!?」


 わたしの顔色を窺っていたミリアちゃんが、喜色満面で飛び上がった。

 なんだかちょっと心苦しい……。



まだしばらく更新ペースは落ちたままになりそうですが……

でも次は明日上げます。

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