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 頭の上で音と共に一瞬光った。同時にジュウシがびくんと体を震わせた。全身で小銃に突っ込んだジュウシは自動二輪ごと男たちを転倒させることに成功したようだ。しかし、


 ジュウシが尻から落ちて来る。胸元を触っている。撃たれたのは胴体だ。ハチと同じ損傷個所。ナナは数拍置いてから悲鳴を上げた。


「ジュウシぃ! ジュウシ、ジュウシ!」


「ジュウシッ!」


 ジュウゴが叫んでナナの足から手を離した。ナナは四輪駆動車の荷台の上を両手と膝で這って進み、尻もちをついているジュウシにしがみ付いた。


「ジュウシ…」


「痛みは!」


 ジュウシは胸元から手を離して自分の体を見下ろした後で、ジュウゴを見てからナナを見た。


「大丈夫……みたい」


「え?」


「痛くないの?」 


 ジュウシは困ったように首を振ってから「慣れだったのかな、やっぱり」と裏返った声で弱々しく言った。


「シュセキぃ!」


 サンの悲鳴にそちらを向いた。シュセキの方がハチのようでナナは全身に寒気を帯びた。


「お前ら掴まれ!」


 ヤチネズミの声が聞こえた。いつの間にか反対側を並走していた自動二輪もどこかに消えていてヤチネズミは運転席に座っていた。


「目、つぶれ。口、閉じろ。鼻の穴塞いで三十秒だけ我慢しろ!」


 言いながらヤチネズミは額にあげていた大型の眼鏡を下ろして外套の襟を鼻の上まで引き上げる。


「行くぞ!」


 瞬間車体が前のめりに傾いた。上半身に浮遊感。ナナは指示に従うのに遅れて目と口を開けたままだ。そのまま車体は地上の中、砂の中に突進した。


 瞼を閉じたが遅かった。痺れるような痛み。口の中にもじゃりじゃりとした感触が広がる。鼻孔が痛くて頬が手が、露出している全ての部分に小さな粒子が前からぶつかって来て、ナナは目をつぶったまま手の先にあるものにしがみ付いた。潜水しているみたいだった。気を抜いたら溺れそうだ。


 三十秒ではなかった。絶対にもっと長かったとナナは思う。口を閉じているのも鼻を抑えているのも限界に達して、もうだめ、息をしようと思った時、ようやく砂の圧力から全身が解放された。頬に風を感じて地上に出たのだと気づく。ナナは目と口を開き、大急ぎで何度も深呼吸をした。


 乱れた動悸と荒い呼吸が落ち着き始めてからようやく、他の皆のことを思う余裕が出て来た。見回すとジュウイチとサンは既に顔を上げていた。ジュウイチは少女の口に入った砂を吐き出すように促している。深呼吸を終えたジュウゴがきょろきょろし始め、その横でジュウシがいまだにむせ続けていた。どろどろの砂なのか涎なのかわからない塊をえずくようにして流し出している。


 やがて四輪駆動車が停車し、ヤチネズミが運転席から振り返った。ナナたちをちらりと見た後で左右を見遣り、座席に立ちあがって口元を露わにしながら周囲を見回す。


「セージ! ヤマネぇ! カワ、ワタセ! スミ!」


 ヤチネズミの叫び声が余韻を残して闇の中に吸い込まれていく。


「ブッチー! タネジ……、……ジッちゃん…」


 最後の方は呟きに近い呼びかけだった。ヤチネズミは目元に手を置き、歯ぎしりする。再度周囲を見回してから運転席に座ると助手席の下の方をまさぐり、古めかしい端末を取り出した。端末、なのだろうか。動いているのかも定かではない。それよりも、


「シュセキは?」


 ナナはサンの元に駆け寄った。サンは涙目でナナを見ただけだった。


 ナナはシュセキの足に手を置く。修復を試みたのだ。がしかし物凄い勢いで払い除けられた。どうして? ナナはわからない。そっと触れれば痛みが和らぐのではないの? 


「シュセキ」


 ジュウゴもやってきた。だいぶ遅れてからジュウシも。やがてジュウイチが少女を抱えて加わり、全員でシュセキを見下ろした。


「どうすればいいの?」


 ジュウゴがサンに尋ねた。サンは悲鳴のような鼻声をあげる。何故自分が尋ねられているのかが理解出来ていないようだ。ジュウゴが頭を掻きむしりながら怒鳴った。


「だから何をするべきかって聞いているんだよ! 君なら知っているだろう? ハチが損傷した時だって色々教えてくれたじゃないか! 地下の中でも知識を披露してくれたし。

 どうすればいいの? また服を脱がせる? 縛る? 抱える?」


「ちょっと待って!」


 サンがジュウゴを遮る。


「待ってよ。そんな……、わからない」


「なんで!」


 ジュウゴがサンに詰め寄った。


「わかるだろう君なら! 教えてよ。どうすれば…!」


「落ち着け、ジュウゴ」


 ジュウシが言った。視線でジュウゴを抑えてシュセキの横に屈みこむ。


「シュセキ、話せるか?」


 シュセキの瞼が微かに動いた。


「修復! 修復させて。でなきゃしてあげて、お願い!」


 ナナも言う。だがナナが手を伸ばすとシュセキは足を引き、接触を拒む。


「どんな痛みだ?」


 シュセキの口が開きかける。


「シュセキ!」


 シュセキが言葉を発しただけでジュウゴが興奮した。すかさずジュウシが制止する。そして、


「僕もそうだった。同じだ。ならば同じだ」


 言ってジュウシは顔を上げた。


「縛ろう。ネズミが僕にしたことだ。多分それが正解だ」


「そうなの?」


 ジュウゴがジュウシに詰め寄った。


「彼が何と言ったか聞きとれたのか?」


「君がうるさくてほとんど聞こえなかったよッ!!」

 

 ジュウシが怒鳴った。


「でもきっとそうだ。だから縛るんだ。これみたいに!」


 言って自分の左腕を突き出した。


「おいお前、」


 ヤチネズミが運転席の背もたれを跨いで荷台にやって来た。そしておもむろにジュウシを舐めるように見た後で、彼の上着の裾を引き上げた。慌ててジュウシが抵抗する。


「なあ…!?」


「お前、撃たれてたよな?」


 動揺するジュウシを無視してヤチネズミは真顔で迫った。


「服にも穴開いてんじゃねえか。なんで平気なんだよ」


「ハツだってそうだったろう?」


 ジュウゴがジュウシとヤチネズミの間に割って入る。


「ハツなんて数え切れないくらい穴が開いていたけれども全然痛そうじゃなかったじゃないか。彼だって二度目だから痛みに慣れたんだよ。それだけだ」


「んなわけあるか」


 ヤチネズミは唾を飛ばし、しかしそれ以上は何も言わずに目元を右の手の平で覆った。


「……もういい。とりあえず他の奴らと合流だ。完全にはぐれちまったみたいだしな」


 言って運転席に向かおうとした。ナナは慌ててヤチネズミの背中に言う。


「シュセキは? 彼はどうすればいいの?」


 ヤチネズミは振り返り、ナナを見た後でシュセキを見下ろした。小さく静かに吐かれた息がヤチネズミの鼻から出てすぐ消えた。


「そいつは諦めろ。血、流し過ぎだ」


「諦める?」 


 サンが繰り返した。そして立ち上がり、ヤチネズミに近寄ると平手で思いっきりその頬を叩いた。ナナは思わず口元を手で覆う。


「痛ってえなあ、女!」


 ヤチネズミが夜汽車を降りた時のような恐ろしい声を発した。ナナはそのまま二歩、後ろに下がる。


 しかしサンは怯まなかった。ジュウゴの制止を振り払って、むしろさらにヤチネズミに迫る勢いで顔を突き出す。


「彼はもっと痛いわ。でもまだ動いている。まだ助かる、絶対! なのにそれなのに何故? なぜ諦めなければいけないの!? なんでそんなこと言うの? どうしてそんなに横暴なの? そんな力任せに怒鳴り散らすだけで私たちがあなたについていくと思ったら大間違いよ!

 彼を治すの、手伝って。出来ないならあなただけで他のネズミの元に戻ればいい」


「勘違いすんなよ、くそ女」


 ヤチネズミがサンに迫った。止めようとしたジュウゴをジュウシが止めて、ジュウイチはスズメを抱えて後ずさりする。


「俺はお前らなんてどうでもいいんだよ。ほしいのは頭数だ、お前らじゃない。お前らがついて来なくたって他の夜汽車を当たればいいだけの話だ。

 むしろ困るのはそっちなんじゃね? こんなところに置き去りにされて朝になれば仲良く全員で干乾びるしかないしな」


「あなたがそうでもハツカネズミは違うんじゃない?」


 サンの一言でヤチネズミの空気が変わった。


「彼は私たち全員をネズミとして連れていくと言っていた。特にジュウゴはお気に入りだったみたい。それに別の年長者のネズミも言っていたわよね? 『子ネズミと夜汽車を頼む』って、あなたに。

 もしここであなたが私たちを見捨てて行ったなんて知ったら、大切な仲間はさぞかしがっかりすると思うけど」


 サンは饒舌に語る。煽るように詰るように。そんな姿を見たのは初めてで、ナナは驚く以上に違和感を覚えた。


「随分自信過剰だな、お前。自分がそんなに価値ある存在だとでも思ってんのか?」


 負けじとヤチネズミも半笑いで、ふてぶてしくサンを見下すが、


「あなたこそそうでしょう。自分の失態は見逃されるという自信があるの? それとも優しいやさしいハツカネズミなら何でも許してくれるのかしら? それって彼に甘えているだけじゃない」


「あぁ?」


 サンの方が上手だったようだ。


 ヤチネズミの視線が淀む。ナナはサンを止めようと試みる。だが叶わなくて。


「あなたには私たちを無事に運ぶ義務がある。夜汽車を破って強引に連れだして、面倒臭くなったらその場に捨ててなんて許されない」


 サンはさらに勢いづいてヤチネズミに迫った。


「てめえに許されたい奴なんていねえよ」


「私じゃない、ハツカネズミよ。あなたが甘えっぱなしのあなたの大切な仲間よ!!」


 ヤチネズミがサンの襟首を掴み上げた。片手なのにサンは爪先が浮いている。ジュウゴがヤチネズミを止めようと喚くがヤチネズミはサン以外に見向きもしない。


「ハツをだしに使うな。あいつを馬鹿にすんな。それ以上言ったら犯してばらして海に捨てるぞ」


 低音の腹に響く声で凄んで、ヤチネズミはサンを荷台に叩きつけた。凄い音がした。ジュウゴが駆け寄る。サンは咳込み上体を起こし、倒れた時に擦ったのか傷がついた頬に手の甲を当てた。


「そう言えばお前は地下だってジャコウが言ってたな。確かに他の奴らに比べて話が通じるし口も悪い。なんだって夜汽車になんて乗ってんだろうな」


「地下?」


 ヤチネズミの言葉にジュウイチが反応して、さらに数歩退いた。ナナも気付かぬうちに後ずさりしていたようだ。脹脛に荷台の縁が当たったことで自分の行動に気がつく。


 サンはナナたちを見まわし、一旦目を伏せてから再びヤチネズミに対峙した。


「だったら何?」


「降りろっつってんだよ、お前は! ごみは捨てる、当然じゃね?」


「ほ、本当に君ち…、地下から来たの?」


 ジュウイチが目を剥いて引き気味に尋ねた。あなたのその腕の中の女子だって地下に住む者でしょう? 言いかけてナナは気付く。地下から夜汽車になることもあるのか、と。


「夜汽車をなくすのはハツの悲願だ。だからお前らは俺が責任持って本線まで連れてく」


 ヤチネズミはナナたちを見回しながら言った。しかし再びサンを見下ろし、


「でも地下は別だ。地下のごみならごみらしく砂に帰れ。おら、とっとと降りろよ」


「ちょっと待って、待って! 待ってください!」 


 ジュウゴが授業中に質問するみたいに立ち上がった。

 サンはジュウゴを見上げる。ジュウゴもサンを見下ろす。その後でジュウシに振り返り、だが目を背けられ、シュセキを見てすぐ前を向き、後頭部の髪の毛を無茶苦茶に掻き毟ってから拳を握ってヤチネズミの前に歩み出た。


「彼女が地下に住む者だという証拠はあるんですか? あるなら提示してください!」


 ヤチネズミが呆れた顔を突き出し、それから横を向いて息を吐いた。


「知識量、言葉遣い、目付き、態度、あと……、お前らとは違うっていう違和感?」


 ジュウゴは目と口を丸くして固まり、それから体ごと前のめりになって抗議した。


「全部抽象的過ぎます! そんなの証拠にならない…!」


「お前ら自身がその女に持ってる違和感」


 ジュウゴが声ごと息を呑んだ。反対にヤチネズミは息を吐く。


「当たってんじゃねえか」


「でも、……でもっ!」


「彼女わ夜汽しゃだ」


 その声に全員が注目した。


 シュセキは眠たくてたまらないような瞼と、風邪をこじらせて喉が辛そうな息使いで、高熱で節々が痛い時みたいに重たそうに肘をついて上体を持ち上げた。


「夜ぎしぁ、……だ」


「シュセキッ!」 


 ジュウゴが駆け寄る。


「大丈夫か? ハチよりも痛そうだったけど。というか話せるなら始めからそうしろよ! びっくりするじゃないか。大体君にはまだ謝ってもらってないんだからきちんと…」


 シュセキは無言でジュウゴを押し退けた。押す、というよりは追い払う、というか。


「かの……をおろそ…とうぅ、…ら、ぶ僕も、おりる。ぶぉくも既…に、不要…らろう?」


 なんて恐ろしいことを言うのだろうとナナは思った。しかし同時にこうも思った。もしここでこの荷台から降りたら、夜汽車には戻れないかもしれないけれどももう一度地下に行くことも可能かもしれないと。


―次会う時に返せ―


 ナナは外套の襟を握りしめた。


 ヤチネズミは面倒臭そうに横を向き、これ見よがしなため息をついた。


「好きにしろ」


「………何を言っているんだよ」


 ジュウゴの唇があわあわと震え、やがてそれが全身に伝わった。

 

「不要ってなんだよ。いらないってこと? いらないわけ…」


 ジュウゴは俯く。しかしすぐに顔を上げそして、


「いるよ! 必要だよ! そんなこと二度と言うな! この壊れかけの眼鏡ッ!!」


 聞きとるのも難しいほどのがなり声で叫んだ。


「壊したのは君だろう」


 その後ろでジュウシが呆れ声で呟く。


 ジュウゴは歯を食いしばりながら髪の毛を掻きむしり、肩を怒らせながらヤチネズミに向き直った。


「僕は、サンでもシュセキでも、誰かが欠けるのなんて嫌だ。皆、揃って全員で夜汽車に帰るんだ!」


 白けたヤチネズミにジュウゴは続ける。


「他の皆もまだ教室にいるんだ。教室の皆が地下に住む者に襲撃されていないか気が気でないし、アイにも聞きたいことがいっぱいある」


「だから義脳は…」


「ハツにも早く会いたい」


 ヤチネズミが反応する。


「僕はハツに会いたい!」


 ジュウゴはもう一度繰り返す。


「あんなに優しくされてすごく嬉しかった。もう一度頭を撫でてほしい」


 ヤチネズミが唇を閉じる。


「ヤマネにもジネズミにも会いたい。皆、乱暴だけど楽しかった。セスジネズミは自動二輪の乗り方を教えてくれた、乗れなかったけど。カヤネズミは話が面白かったし、君は口が悪いけど世話焼きだ」


 それは褒めているのだろうか。


「君だってそうだろう? 僕もそうだ。ここにいる皆そうだ。なんで言い争わなければいけないんだ!」


 冷静に考えて正直に言えば、ジュウゴと同じ気持ちの者がどれほどいたのか定かではない。むしろ皆、思っていることは別々だったとナナは思う。けれども何故か、説得力は置いておいても、なんだかそれ以上不毛な罵り合いをする気を失せさせる雰囲気はあった。


「……私がここを去って、それで全てが丸く収まるならそうする」


 サンが言った。ジュウゴが何か言いかける。けれどもそれより先にサンがヤチネズミを見上げた。


「でも彼は助けて! 夜汽車ならば責任持って連れて行ってくれるんでしょう? 助かるなら助けて。まだ動いているんだから。お願い……します」


 最後だけは消え入りそうな声で、サンは腰を下ろしたまま頭を下げた。ヤチネズミがその頭頂部を見下ろす。ジュウゴがヤチネズミに向き直る。ナナも見つめる。四方八方からの視線に耐えかねたのかヤチネズミは目元を手で覆ってため息をついた。


「ったく。どんだけわがままに育てられてんだよ」


 その一言でナナはシュセキの修復が約束されたと思った。


 他の皆も同じだったようだ。ジュウゴは息を吐きながらその場に尻をつき、ジュウシがそれを労い、サンも胸を撫で下ろしていた。


 ヤチネズミは不機嫌そうにどかどかとシュセキに近づき、サンを押し退けてシュセキの右足を持ち上げた。シュセキのおぞましいほどの呻き声にナナは震え上がる。


「随分綺麗に切られたな。先端があればくっつきそうだ」


 言ってヤチネズミは荷台を見回す。そして何とも切なそうな顔をしたのをナナは見た。


 ヤチネズミはすぐに膨れっ面に戻るとシュセキの足を自分の膝の上に置き、外套をまさぐって小汚い布を取り出すと無造作に切り口にそれを巻いた。さらに大腿部の辺りにも別に細い紐を縛りつける。ものの数秒の作業で、何をしているのかよくわからないナナから見ても手際がよく見えたが、その間もその後もシュセキは声を抑えるのに体力を使い果たしたようだった。


「火がいるな。屋根探すか」


 言いながらヤチネズミは立ち上がった。シュセキの横にいたサンが見上げ、言い淀んで下を向きつつ礼を告げた。ヤチネズミはサンを一瞥しただけで何も言わず運転席に戻った。


「おい、お前。ええと、ジュウゴ?」


 ヤチネズミに呼ばれてジュウゴは運転席と助手席の間に顔を突っ込む。線路がどうとか方角が何だとか、ヤチネズミは向かって右手を指差しながら何事かを指示している。ジュウゴは何度も頷き、後頭部を掻きつつ助手席に座った。


 ナナは荷台を見回した。シュセキの傍にサンとジュウシがいる。サンはシュセキの袖を握り続けている。自分は拒絶されたけれども、サンの接触は受け入れられるようだ。ならばシュセキももうすぐ修復されるだろう。ジュウシも腕の損傷を主張してはいるが、既に痛みはなさそうだ。


 ジュウイチを見た。サンから距離を取っているのか荷台の縁から動かない。腕にはスズメを抱えている。癇癪持ちで面倒臭がり屋だが、彼が普段は愉快でよく笑い、運動が出来ることを鼻にかけずに要領よく体育をこなす方法を教えてくれたりする面倒見の良さを持っていることをナナは知っている。


 スズメと目が合った。ナナは目を細める。彼女のおかげで知り得た知識には感謝している。


「ナナ?」


 サンに声をかけられた。「あなたは大丈夫?」


 頬を赤く擦りむきながらもサンは自分の体調を慮った。無口でいつも表情は暗いけれども、誰よりも周りを気遣っていて、誰かが憤るくらいなら自分が身を引く優しさを持っていることをナナは尊敬していた。ハチはそんなサンの不器用さが鼻につく様であまりよく思ってはいなかったが、ハチだっていつかはサンの良さに気づけるはずだとナナは思う。


 ハチはそろそろ目覚めただろうか。あの太陽をハチも見ればいいと思う。見てほしいと願う。


 ナナはサンに近づき、赤くなった頬をそっと手の平で覆った。サンはびくっとしてナナの手を見た後、目を丸くしたままナナを見つめた。


「痛かったでしょう? でもすぐ良くなるわ」


 怪訝そうに瞬きするサンに、ナナは微笑みかけた。


 サンから離れる。四輪駆動車の荷台を降りる。


「ナナ?」


「何をしているの?」


 空を見回す。春の星座。あの星は先は確か右にいた。


「おい、早く乗れ」


「線路はあっち?」


 ナナは左手を指差してヤチネズミに尋ねた。ヤチネズミは不可解そうに眉毛をひん曲げながらも頷く。ナナは満面の笑みで感謝を述べた。


「ナナ?」


「わたし、行くわ」


「どこに?」


 疑問を投げかけて来るサンとジュウイチに振り返り、スズメを見遣って微笑みかける。


「わたしの部屋、スズメが使えばいいと思うの。夜汽車も元通り一五になるでしょう?」


 言ってナナは歩きだした。


「何? え? ちょっ、ナ…!」


 騒がしくジュウゴが追いかけて来た。ヤチネズミが怒鳴っている。ナナは片足を引き摺りながらただ一点を見つめ続けた。寒い。けれども。白い息が視界に散らばる。外套を握りしめる。


「ナナ!」


 腕を掴まれて振り向かされた。サンは髪の毛を振り乱して目をぎらぎらさせて肩で呼吸をしていた。


「離して」


 サンは驚いて動きを止め、それから怒り狂ったように顔を突き出してきた。


「何言ってるの!? 帰るんでしょう、夜汽車に! ハチが待っているじゃない!」


 ナナは少しだけ戸惑う。ハチに断らず行動に移すことには後ろめたさもあったからだ。


 だがそれ以上のものを見つけてしまった。


「もう痛がっていないんでしょう? だったらもう何も問題はないわ」


 サンはきつく唇を閉じて目を逸らす。喉が微かに上下する。


「な、何? 喧嘩?」


 ジュウゴも走って来た。


「とりあえずさ、その……、話そうちゃんと。ね?」


 ナナは思わず笑ってしまった。何があってもジュウゴはきっと大丈夫だ。


「あなたからも言って」


「え? 何を言えば……?」


「だから夜汽車に…!」


「シュセキ!」


 四輪駆動車からジュウシが叫んだ。振り返ったサンとジュウゴに向かって、


「様子がおかしい! 何か変だ!」


 ジュウゴが取って引き返した。ナナも不安になる。掴まれていた腕がさらに強く握られる。


「行きましょう」


 腕を引かれたがナナは一本の足で踏みとどまった。途端にサンに怒鳴られる。


「シュセキが危険なの! 早く治さないとハチ…、大変なことになるの、わかってよ!」


「ごめんなさい」


 それ以上サンの顔を見られなかった。地面に向かってナナは一息に思いを吐露する。


「でも私、もう一度地下に行きたいの」


「……嘘でしょう?」


 ナナは言い淀む。自分でも信じられない。でも嘘ではない。


「これ、」ナナは外套を掴む。「返さなきゃいけないの」


「いいわよそんなの! ばかじゃないの!!」


 サンが甲高い声で叫んだ。いくつかの顔がこちらを見る。申し訳なさが募る。


 でも。


「おい女ども!」 


 ヤチネズミの声が聞こえた。


「早くしろ。眼鏡が死ぬぞ」


 サンはナナを掴んだまま背後を振り返った。ナナはその手を離す。


「な…!」


 ナナは地下でのサンの真似をして、サンの首に両腕を巻きつけた。全身で密着する。センニュウたちがセッカにしていたように。セッカがスズメにしていたように。


 温かかった。彼と同じように。


「ハチと仲良くね。女子も偶数になるしちょうどいいはずよ」


 言ってそっとサンから離れた。サンはされるがままに遠ざかる。全身の力が抜けたように固まって、泣きそうな目で呆然と。


 ジュウゴの呼ぶ声が聞こえる。ジュウシも叫んでいる。しかしナナはもうそちらを見ずに、目指す方へ歩き出した。



 * *



 皆には申し訳ないとナナ自身もそう思う。

 しかしどんなに背後が気になっても、どれほど胸が痛んでも、ナナは前を見つめ続けた。


 足が痛い。どれほど進んだろう。背後をちらりと振り返る。耳を澄ませるも自分を呼ぶ声はすでに聞こえなくて寂しさを覚える。本音を言えば泣きそうだった。でも。


 ナナは空を見上げた。あれほど輝いていた星が今では数えるほどしか見えない。雲が厚くなってきたのだ。頬に冷たいものが落ちる。雪? ナナは手の平を広げて空に差し出した。初めて触った。空から無数におちてくるひらひらとした小さな粒子が音もなくナナを包む。  きれい。ナナはしばし見とれた。



 寒さが皮膚に沁みる。美しかったのは最初だけで雪はすぐに凶暴化し、冷たい粒子がナナの顔と言わず手と言わず、全身を音を立てて叩き続けた。視界が不明瞭だ。寒い。痛い。線路はまだだろうか。方向を間違えただろうか。


 後悔と不安が胸をぞわぞわさせてきた頃、地平線にぶつかった。顔を上げる。盛り土、線路だ。


 ナナは嬉しくなる。線路に沿って歩みを早める。視界はほぼ無い。でもきっとこっち。自分の感覚を信じて進むと香ばしい臭いがしてきた。


 何かの実験? 地上で? 何とも言えない不安がナナを包む。音が聞こえる。話し声も。ナナは期待と不安に顔をあげる。


「ヨタカ…」


 口を開けると雪の粒が舌を刺した。下唇を噛み、声の限りに叫んだ。


「ヨタカぁッ!!」


 白の中で影が動いた。そのうちの一つが立ちあがり、脇を押さえる左右の影を振り払ってナナに駆け寄ってきた。


「おまえ…」


「ヨタカ」


「夜汽車は? 他の連中は?」


「これ」


 ナナは外套を脱ぐ。途端に冷気が全身に刺さり思わず身震いするが、丁寧に畳んでそれをヨタカに差し出した。


「次会ったら返してって言っていたでしょう?」


 ヨタカが口を半開きにしたまま、大きく見開かれた片目で外套とナナを見つめた。


「やるなあ、おい」


 ノスリの声がした。ナナとヨタカは振り返る。


「なるほどね。俺、お前のこと見くびってたわ」


 にたにたと下品な笑みを口元にたたえて、目元を巨大な眼鏡で覆ったノスリがナナの視界の中に入ってきた。小銃とは違う長細い棒で肩をとんとんと叩いている。ヨタカがナナを背後に回した。


「どけよ」


 ノスリが言う。ヨタカは無言だ。


「お前、まじでとち狂った? 夜汽車だぞ夜汽車。わかってんの?」


 ヨタカは何も言わない。


 ノスリが舌打ちをして口元を歪めた。そのノスリの背後から大きな影が出てきた。ノスリは棒を下ろして退く。ナナはヨタカの陰から見知らぬ男の顔を窺う。眼鏡越しに微かに視線が合い、ただでさえ寒さに固まっていた背筋が凍りついた。


「走れよ」


 ヨタカの声がした。


「とにかく走れ。そんで仲間んとこ戻れ。いいな?」


 ヨタカが背中ごと下がってきた。後ずさりしたナナは何か踏む。首を回して下を見ると、セッカだった。半身が雪に埋まっているのに身動ぎもせずに、瞼を開いたまま眠っている。


「セッカ? どうしてここに…」


「例の夜汽車だな」


 大柄な男が口を開いた。ヨタカの背中が固くなる。


「よこせ」


「やだ」


「よこせ」


「やだ」


 男は他を一切動かさずに、今までナナが目にしたどの小銃よりも大きな銃を片手で持ち上げた。


「ヨタカ、」


「こいつは無害だ」


「例外は許されない」


「……謝るよ、もうバカはしない。ちゃんと真面目に働からさ…」


 眼鏡越しに男の目元が歪む。


「だめだな」


 ヨタカが小さく舌打ちした。ナナがヨタカの顔を覗きこもうとした時、ヨタカが不意に振り返って鼻筋に皺を寄せて叫んだ。


「行け!」


 ナナは戸惑う。肩を押されて雪原に尻をつく。ヨタカが再び背を向け両手を広げた。


「撃ってみろよ!」


 瞬間、光った。 


 一瞬、何が起きたのかわからなかった。一秒弱の間を置いてヨタカが両膝をつき、硬直したまま顔から雪に落ちた。


「「ヨタカッ!!」」


 チュウヒたちが視界の外から雪崩れ込んできた。


「ヨタカ…」


「どけ!」


「ひでえ……」


「なんで、」


 チュウヒがナナに振り返り、ナナの襟首を掴んで持ち上げた。


「なんで戻ってきたッ!!」


 ナナはチュウヒに睨まれながら足元のヨタカを見つめた。ヨタカはハチみたいに腹から胸が壊れていて、唇から涎を噴き出している。流れ出た血液が白い地面を赤く塗りながらナナの靴先まで流れて来る。


 チュウヒはナナの知らない、しかし憤怒に満ちた悪態であることだけは伝わってくる言葉を撒き散らしてナナの襟から手を離した。ナナは雪の上で手をつきながらヨタカに、ヨタカを取り囲む男たちの後ろに近づいた。


「撃つことねえだろ……」


 ハヤブサが情けない声で言う。ノスリがらしくなく挙動不審に大男とヨタカを見比べている。男が無言でナナのもとに歩み寄ってきて、ナナは手をついたまま男を見上げた。


 額に銃口が当たる。皮膚が張り付く。銃身を辿ってナナの視線は男の顔を捉えた。


「どうして?」


 男の指の筋が動く。


「どうしてこんなことするの?」


 引き金にかけられた男の指がぴくりと止まった。


 勢いよく額から銃口が離れた。皮膚が剥がれてナナの顔は左を向く。ナナは傍らに立つその足の主を見上げた。サシバが無言で男を睨みつけ、その銃身を握っていた。

 男もサシバを静かに見つめる。やがて男はサシバの手を振り払い、ナナの横を通り過ぎた。一度立ち止まると靴の踵でセッカの顔を踏みつける。


「ノスリ」


 男に呼ばれてノスリがびくりとする。男はセッカの頭を蹴り飛ばし、それから振り返ることもなく白い景色の中に消えた。セッカは雪の中に顔が完全に埋まっても、やはり眠ったままだった。



 * *



「どうなんってんだよぉ!」


「息、してないぞ」


「心臓は?」


「おい、サシバ!」


「サシバ!」


 男たちは作業台の上のヨタカを囲んで口論を重ねていた。誰もが皆、手と言わず顔と言わず、全身を汚しながらひどい形相で罵り合っている。


 ヨタカに苦しんでいる様子はない。左の瞼を半分閉じて唇は半端に開き、顔だけ見ればまどろんでいるようにも見える。しかし男たちは一様に興奮し、憤慨し、動揺しながらヨタカを取り囲んでいた。事態は好ましくないのかもしれない。だがナナには何故好ましくないのか、何故男たちがこれほど慌てふためいているのか、何故自分はチュウヒに投げ飛ばされたのか、そのどの疑問に対する答えも浮かんでこなかった。


 当初ヨタカはハチと同様に苦しげだった。だが今では悶えている様子は無い。皆がヨタカに接触しているからだ、癒されているのだ、ならば問題ないはずだ。ナナの思考は同じ答えで行き詰る。それなのに何なのだろうこの雰囲気は。ナナは茫然と視界からの情報を受け取り続けた。問題ばかりのようなこの状況、自分の答えは不正解のようだ。何度考えてもそれ以外の答えは出てこないというのに。


 サシバがヨタカの破損した皮膚をさらに引き裂いた。肌と肌の接触どころではなく、彼はその中に腕を突っ込んでいる。ハヤブサが見たこともない器具をヨタカの口に挿した。チュウヒがヨタカの手を素手で握りしめて大声で呼びかけている。ナナは部屋の隅で緩慢に、なんだよかった、と思った。ヨタカの身を思うと安堵のため息が漏れた。


 やがて男たちの怒鳴り声が止み、チュウヒとハヤブサが床に座り込み、サシバが無表情にヨタカを見下ろした。姿が見えなかったチョウゲンボウが扉を乱暴に開けて入ってきても誰も顔を上げなかった。


「ノスリが…」


 チョウゲンボウは息を切らして途切れ途切れに言葉を紡いだ。チュウヒが再び激昂して立ちあがってチョウゲンボウの襟首を掴み上げ、ハヤブサがチュウヒに駆け寄って怒鳴り声を上げて制止した。サシバだけが微動だにせずにヨタカを見下ろしている。ナナは、ナナも男たちの会話の意味が理解できず、ヨタカの横顔を見つめるだけだった。


 ふと視線を感じてナナはその先を辿った。見るとチュウヒとハヤブサとチョウゲンボウがじっとナナを見つめていた。



 

 ハヤブサの説明も、チュウヒの表情も、チョウゲンボウの乾いた笑いも、ナナには理解できなかった。ただ目の前で繰り広げられた男たちの行為が全て、自分の誤った判断による結果なのだということは感じた。間違っているとどこかで感じながらも衝動で起こした行動の結末。


 ナナは視界が歪んでいく感覚に襲われた。何度も何かにぶつかっているように胸が痛くて、息が苦しくて、頭が絞め付けられて仕方なかった。歪んだ渦の中に飲み込まれる前にナナは瞼を閉じた。音を遮断する。平衡感覚が揺らいで足元が覚束なくなる。動悸と呼吸の暴風雨の中で声がする。


―いらないものは捨てましょう―


 アイ。


 アイの言葉に従って、ナナは探しはじめた。

 夜汽車を降りたこと、地下に来たこと、ヨタカを知った、必要だった。地下を出たこと、ヨタカがそうしてくれた、ヨタカの思いだ、必要だった。地下に戻ってきたこと、皆に反対された、サンを泣かせた、チュウヒに叱られた、ヨタカを苦しませた、不必要。


 何故地下に戻ってきた。何故? どうして戻ってきた! チュウヒにも言われた。だってそれは……、言い返せない。ヨタカにも言われた、戻れと。サンにも言われた、行くなと。勝手に戻ってきた。

 

 自分の間違った判断で。ヨタカを苦しませた。皆を悲しませた。いらなかった。わたしのせいだ。わたしの、わたしの、わたしの、わたしが!


 わたしが、いらない。





 ノスリは腕組みをして通路で待機していた。


 遅い。普段の彼ならば待ち切れずに怒鳴りながら分別室に殴りこんでいただろう。だがこの時ばかりはそんな行動に出ることも憚られた。ノスリは顔面の筋肉だけで鼻水を啜り、壁に接していた背中を微かに離して身震いをした。肌が泡立つ。肩が凝る。妙に底冷えする最下部で彼は暗い床を見下ろしていた。


 扉が開いて漏れ出た光がノスリの顔を半分照らした。顔を上げる。すぐに光の中に影が現れ、それはノスリの足元に四本の塊を投げてよこした。ノスリは足元をちらりと見る。血にまみれた一対ずつの腕と脚。ノスリは首を伸ばして部屋の中を覗きこんだ。一番奥の作業台が血の海で台上には布にくるまれた塊、その周りに座り込む餓鬼共の姿があった。少し離れたところにはずぶ濡れのまま呆けた夜汽車の少女がいる。


「これは?」


「お前が出せと言っただろう」


「俺の注文、あっちなんだけど」


 ノスリは顎と視線で少女を指す。


「俺たちの仕事は分別だ。あの娘はまだ生きている」


 ノスリはサシバを見た。サシバは微動だにせず、どこか一点をじっと睨んでいた。ノスリは声を上げて笑った。


「固いこと言うなよ。ついでだし絞めとけよ」


 残響は通路の先の暗闇に吸い込まれた。やがて無音。ノスリは鼻から息を吐き、腰を屈めて脚と腕を拾い上げる。


「あの娘に名前を用意してくれ」


 サシバの声にノスリは顔を上げた。相変わらず無表情でどこかを睨みつけている。


「頭と体」


 途端にサシバが掴みかかってきた。ノスリはせっかく拾い上げた二本の腕を落としてしまう。一本が転がりながらその軌跡に赤い筋を描いて止まった。


「埋葬くらいさせろ」


「触ってんじゃねえよ」


 ノスリはサシバの左腕を捻りあげる。


「てめえらの悪ふざけの結果だろ? お陰で今週の献立も書きなおしなんだよ」 


 サシバの指がノスリの襟から離れた。二本の腕が小刻みに揺れる。


「あの夜汽車よこせ。俺がやってやる」


「減れば補充するんじゃないのか」


「一つや二つ、クマタカは気付かない」


 サシバがノスリの手を払った。互いに無言で睨みあう。やがてノスリが鼻息と共に視線を逸らし、サシバが踵を返した。分別室の扉が乱暴に閉められて、ノスリは襟を緩める。


 踵で床に転がる腕を踏みつけた。切り口から勢いよく血が跳ねた。



 * *

 

 薄暗い階段を大股で登る。通路を何度も折れて一枚の扉の前にたどり着くと、肺いっぱいに息を吸って、


ノスリは扉を勢いよく開けた。ぱっと振り向いたその顔に、胸に溜めた空気が漏れた。


「何かあったの?」


「なんもねえよ」


 にやにやと黄色い歯を見せながら部屋の中央まで一気に進み、女の前に跪いた。大きく出っ張った腹を両手で抱えるように擦る。


「お~い帰ったぞ。聞こえるかあ?」


 手の平にぽこん、と何かが触れた。ノスリは目を見開いて女を見上げる。


「今、蹴ったよな?」


「返事したんじゃないの?」


「おい、何蹴ってんだよ。俺の女泣かすなよ?」


 女が目を丸くした後、くすりと噴き出した。ノスリは満面の笑みで女を見上げた。




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