神頼み
あの後、数学の問題を5問くらい解いたころに奏多の名前が呼ばれた。いよいよ、決勝戦だ。応援する方も力が入る。
奏多の相手は、奏多がまだ1度も勝てたことがない相手らしい。
勝ってほしい、と心から思った。
試合はどちらも譲らない展開で、点取り合戦という言葉がよく似合う。さっきまでおちゃらけて笑っていた奏多がとても凛々しく見えた。自分の手が汗ばんでいるのを感じた。
1セット目は相手が、2セット目は奏多が取り、ついに3セット目の終わりにさしかかった。点数は20対19。奏多が1点を追う形になっている。
長いラリーが続いて、相手が打ったシャトルの軌道が大きくずれた。それがコート外に落ちた瞬間、奏多がガッツポーズとともに声をあげた。20対20。デュースだから先に2点連続で取った方の勝ちだ。
お願いだから勝たせてあげて、と神様に願った。これから私に起こるはずの良いことを奏多にあげてもいいから、あと2点取ってほしいと思った。
息をするのも忘れるような時間が続き、奏多が一瞬体勢を崩した。少しだけ勢いの弱まったシャトルを、相手が叩き込む。やられたと思った矢先、奏多をシャトルに向かった滑り込みなんとか返した。そのシャトルはネットすれすれを超え、ネットに沿って、相手のコートに落ちる。
奏多はふっと安堵の溜息を漏らして、サーブを打つ。高くて綺麗な弧を描いたシャトルはすぐに速くて重い打球に変わって戻って来る。そしてそれを負けじと素早く返す奏多。
低い打ち合いを続けて、ほんの少し浮いたシャトルを奏多は見逃さなかった。
正確なショットでラインぎりぎりのところに押し込み、相手は手が出ない。
勝った。奏多はふにゃっと笑ってコートの後ろで見ていた峰元さんにガッツポーズした。
峰元さんは嬉しそうに笑っていた。
今日最後の試合が終わり、帰る準備をしていると、金メダルと賞状を持った奏多と3位の賞状と銅メダルを持った康太が一緒に戻って来た。2人ともすごく嬉しそうに笑っている。
「ただいまー。」
賞状をパラパラと揺らしながら奏多が言ってきた。
「おかえりー。優勝おめでとう。」
「ありがと。」
奏多は少し照れてるように見えた。
帰り、玄関で解散すると奏多がひょこっと現れた。
「ねえ、土曜日の練習来る?」
「行けたら、行きたいな。」
高確率で行く気満々だけど。
「ふーん。じゃあね。」
「うん。バイバイ。」
奏多にひらひらと手を振って、私はお母さんと康太のところに駆け寄った。




