おまけ。
旅人は王都に着いたばかりでした。
まずは疲れと渇きを癒そうと、目についた酒場に入ります。
小料理や酒は美味しいものでした。
しかし、すぐ近くの席に辛気臭い青年がいるのです。
「どうしたね兄さん。そうため息をついていたら、折角の酒が台無しだよ」
根が人好きの旅人は、つい声をかけました。
「ああ。すみません、どうも」
そういって顔を上げたのは、憂いの似合う美青年でした。
「まあ、一献」
「っととと」
などというやり取りを挟んだのちに青年は語りました。
「妻がねぇ、構ってくれないんですよ」
「おやおや」
「子どもにかかりきりになってしまって。昔は僕だけにしてくれたのに……」
「そいつぁいけないね兄さん。もしや、お子さんに奥さんをとられたなんて感じてやしないかい?」
旅人は青年を窘めました。
「そういう時はね、混ざってしまえばいいのさ」
「ま、混ざる?」
「あんたも一緒に子どもを構えばいいんだよ。そうしたら奥さんだって喜ぶだろうよ。それとも、お子さんが可愛くないのかい?」
「そんなはずないだろう!! 僕の子はね、ふたりとも――」
水を得た魚のように滔々と語りだす青年に、旅人は苦笑しました。
きっと彼はもう辛気臭いため息をつくことはないでしょう。
――翌朝。
旅人は王都をぶらぶらと観光していました。
「そこのお人、肉饅頭はいかがだね」
「ほほう、こいつぁ美味そうだ」
「王都の名物三選にも入ってるのさ」
「それぁいい。五つばかし包んでおくれ」
屋台でほかほかの蒸し饅頭を買っていた、そのときです。
王城から上空へ、なにかが高速で打ち出されたのが見えたのです。
「なんだい、ありゃあ」
よくよく目を凝らすと、まだ幼い子どもでした。
それが天高く宙を舞っているのです。
「なっ、なんてこった!」
驚愕した旅人に、饅頭の包みを差し出そうとしていた売り子の女性が訊ねます。
「おや。いったい、どうしたね」
「大変だよ姐さん! あすこに子どもが飛んで――ああ、また!」
泡を食って指差しているあいだにも、新たにぽーんと飛んでいきます。
ころころと女性は笑いました。
「心配おしでないよ。あれは王都名物の筆頭『高い高い』さ」
「高い高い!?」
「別名は『お手玉』」
「お手玉!!?」
「いや、あれは双子の王子様と姫様でね。大層お喜びで、しない日は却ってむずかるってぇ話さね」
「しかし危なくはないのかい?」
「複数の護りをつけてるってことでね、この大通りよりも、よっぽど安全って話さ。それに、お二方ともレアな高所恐怖耐性をお持ちだから。王様譲りって聞いたねぇ」
「へえ、それはそれは」
「それに王妃様譲りの飛行制御も」
「おや? そいつぁ魔物特有の技能――っと、そういやぁ、ここの王妃様は魔人族だっけね」
「そうさ。魔人族のなかでも一等お強い竜人だ」
「ほうほう。言われてみりゃあ、あの背にあるのは竜翼かいね」
今度は一気にふたり飛んでいきました。
その背中で小さくぱたぱたしているのを見て、旅人は納得しました。
「おやまあ、よく見えたもんだ」
「これでも視力補助の異能があってね」
「あっ!」
初めて女性が驚いた顔をして、旅人も目を丸くしました。
また王城から打ち上げられた人影は、先ほどよりひとり増えていました。
「あらまあ、ずいぶん久方ぶりだこと」
女性は楽しそうに笑っています。
そして旅人は、すべてを悟ったのでした。
おしまい。
王都名物の最後ひとつ。
それは――魔法、異能、肉弾戦、白兵戦、なんでもありの市街地バトル。
「くくく、往生際の悪い……!」
「嫌だと言ったら嫌です」
「いくら目を逸らそうとも無駄だよ。真実からは逃れられないのさ」
「帰ってください」
「いいや? 今日こそは呼んでもらうよ――そう、"お義母さん”! とね!」
「帰れ」
「仕方のない。では力尽くでも言わせてやろう……さあ! さあ!!」
「どうして貴女、魔族よりバトルジャンキーなんですか!!?」
「ふ……似合いの夫婦と自負している」
「認めませんよ!? 私は! 絶対に!!」
という嫁姑合戦だったとさ。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました!




