想いを言葉にして伝えよう
眠っている間、俺は闇の中にいた。虚無と言い表していいほど何もない世界だ。一人寂しく、何も世界で俺は一人の少女のことを思い出していた。リベル。可愛い可愛い少女のことを。
割と好みのタイプだというのは本当だ。育てばなんて言ってみてはいたが本当はそのままでも充分に魅力的だ。きっと百人中、百人が振り返る美女になるに違いない。残念ながら育つことがないのだが。それでも一部の嗜好家が欲しがるほどには魅力的だ。もちろん誰にも渡す気はない。そんな奴がいたら滅多切りにしてやる。
「流石に事故犠牲が過ぎたかな」
後悔しているか、と問われたらしていないと答える。自己満足の為であるし、何よりリベルの笑ってる顔はとても癒される。俺自身一人だけだったならきっと心が壊れてたはずだ。記憶がないというのは存外不安なものなのだ。俺だって元は人間だからな。
そんな俺に癒やしをくれたリベル。本人はきっとそんな風には思っていないだろう。ぷいとそっぽ向いて顔を赤く染めるに決まっている。そう思うと笑えてしまう。行動が手に取るように分かるリベルを見ていると楽しくなる。きっとこれが父性とかいう奴だろう。でも、それ以上に愛おしさが増してきている。自分のものにしたいと思ってしまう程に。浅ましい考えだ。契約を盾にすればすぐにでもそういう関係になれるだろう。けれど、やらなかった。普通に触れてるだけでも満足していたから。それ以前にそんなことをできるわけがなかった。魅力的だなんて言葉で飾るのは止めよう。俺はリベルのことが好きなのだ。吊り橋効果とか言われればそれまでだ。けれど、好きになったこの気持ちは今の俺のものだ。誰にも否定させないし、したくない。
「はは、まさか人を好きになるとは。記憶はないけど、きっと初めて何だろうな」
記憶がなくとも自分が何となく分かる。ここに来る前はきっと一人ぼっちだったはずだ。その心の隙間をリベルが埋めてくれたのだ。これだけでも今ここにいる甲斐がある。リベルの為にした行為が報われる。
「これは……リベル」
急に胸の奥が暑くなる。これは眷属との魔力ラインだ。リベルの想いが伝わってくる。これは……そうか。俺は嬉しくなった。早くリベルに会いたい。
二日目だ。リベルに早く会いたい。
三日目も四日目もずっとそう思った。思い続けた。
そして、十日目。闇が晴れる。俺とリベルを隔てる闇がやっと晴れる。俺の意識は浮き上がる。目を開くとリベルがそこにいた。リベルと目が合った。俺はたまらずにリベルの名前を呼んだ。
「リベル」
「何?お兄ちゃん」
ああ、そんなに悲しそうな顔をしないでいいのに。俺はとても悲しくなった。でも、そんなことは後だ。リベルはきっと遠慮している。俺がわがままを言えばきっと叶えてくれる。だって、俺とリベルは……。
「リベル」
俺はリベルの名をもう一度呼び、起き上がって抱きしめた。柔らかい女の子特有の匂いがする。リベルの匂いだ。俺は胸が熱くなった。やっと会えたから、リベルに。愛しいリベルに。今から想いを言葉にしよう。だって、俺とリベルは相思相愛なのだから。
「ずっと会いたかった」
「うん?何か変だよお兄ちゃん」
「好きだよリベル」
リベルは目を見開いた。俺はそれをずっと見つめる。そして、そっと抱き寄せる。もう一度リベルに言った。刻み込むように。染み込むように。
「好きなんだリベル」
「わ、わた、私は」
「分かってる。何も言う必要はない。俺の想いに答えてくれ。俺のわがままを聞いてくれ」
「ずるいですよそれ。私も好きなんです。ずっと好きだった」
その言葉が聞きたかった。例え、幻でも偽物でも良かった。その言葉が俺の中に渦巻いて心を満たしていく。そして、想いははじけた。