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死亡フラグが全部付箋で見えるんですが  作者: 絵宮 芳緒
第一章 未来が見えた日

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第一話 見えるようになったもの

朝、目を覚ました瞬間だった。


「……何かしら」


ぼんやりと天井を見上げた私は、小さく瞬きをした。


視界の端に、白い紙切れのようなものが浮かんでいたのだ。


四角い紙。


手のひらほどの大きさ。


ふわりと宙に浮かび、ひらひらと揺れている。


寝ぼけているのだろうか。


そう思って、目を擦る。

だが、消えない。


それどころか、紙に文字まで浮かび上がってきた。


【本日 二度寝します】


「……」


私はしばらく無言になった。

そして体を起こす。


窓の外は快晴だった。


今日は、特に予定もない。


もう少しくらいなら——。


そう思った瞬間だった。

再び、枕へ顔を埋めていた。




「お嬢様、おはようございます」


聞き慣れた声で、目を開く。


侍女のマリアが、カーテンを開けていた。


朝日が部屋へ差し込み、私は慌てて時計を見る。


予定より、三十分も遅い。


「……本当に、二度寝したわ」


思わず呟く。


「何かおっしゃいましたか?」


「いいえ」


返事をしながら、顔を上げた私は、そのまま固まった。


マリアの頭の上にも、白い紙が浮かんでいたからだ。

しかも、文字まで書かれている。


【お嬢様の髪飾りの趣味を改善します】


「……え?」


思わず二度見する。

だが、消えない。


マリアは何事もない顔で、身支度の準備をしている。


当然だ。

どう見ても、あの紙は私にしか見えていない。


「マリア」


「はい」


「私の髪飾りの趣味って、そんなに酷いかしら」


「え?」


マリアが目を丸くした。


「いえ、そのようなことは……」


言いながら、ほんの少しだけ視線を逸らした。


私は黙った。

どうやら、心当たりはあるらしい。




朝食の席でも、その奇妙な紙は消えなかった。


父の頭上には、


【5日後 王都へ出発します】


母の頭上には、


【12日後 旧友と再会します】


と書かれている。


「リシェル?」


母が不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの?」


「いえ……」


私は曖昧に微笑む。


まさか、頭の上に紙が浮いているなどと言えるはずもない。


父も母もいつも通りだ。

見えているのは私だけ。


そう考えると、ますます現実味がなかった。


食事を終えたあとも、私は屋敷の中を歩き回った。


庭師。

料理人。

使用人。


誰の頭の上にも、紙がある。

内容も様々だった。


【明日 腰を痛めます】


【焼き菓子を焦がします】


【3日後 新しい靴を買います】


【5日以内に告白します】


「告白……?」


思わず声が漏れる。


その紙が見えていたのは、厨房で働く若い使用人だった。


相手は誰だろう。

そんなことを考えていると、当の本人が真っ赤な顔で、慌てて立ち去っていく。


どうやら、本当に心当たりがあるらしい。


奇妙な紙。

だが、妙に具体的だ。


そして——。

どこか、本当になりそうな気もしていた。




その日の夕方。


厨房の若い使用人が、屋敷を訪れた花屋の娘の前で真っ赤になっていた。


「その……ずっと好きでした」


震える声。

娘が目を見開く。


やがて頬を染め、小さく頷いた。


周囲から拍手が起こる。


その瞬間、彼の頭上の紙がふっと揺れた。


そして、


【来月 両親へ紹介します】


へと変わった。


リシェルは息を呑んだ。

変わった。

今、確かに変わった。


「未来……なの……?」


胸の奥がざわつく。

もし、本当に未来を示しているのなら。


もしこの紙が、これから起こる出来事なのだとしたら。


その考えを振り払うように、歩き出した時だった。


廊下の向こうを歩く使用人の頭上に、見慣れない付箋が見えた。


黄色だった。

初めて見る色。


【3日後 横領が発覚します】


リシェルの足が止まる。

今まで、見てきた内容とは違う。


明らかに重い。

嫌な予感が、胸を過った。


そして、その予感はさらに大きくなる。



翌日。


婚約者であるセドリック・ランベールと会うため、庭園へ向かった時だった。


「リシェル」


優しい笑みを浮かべる婚約者。

いつもと変わらない姿。


だが、彼の頭上に浮かぶ付箋を見た瞬間、リシェルは凍りついた。


【7日後 婚約破棄します】


「……え?」


その言葉だけが、かろうじて唇から零れ落ちた。

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