第五話
第5話
「「……は?」」
静寂に包まれた教会の前で椅子に座ったシークとツクヨミの声が重なった。
ジンが今言い放った言葉はそれほどの衝撃を二人に与えていた。
自分で自分に暗殺依頼を出す。
全く持って意味不明で理解不能の行動だった。
呆けるシークに対して、ツクヨミは一瞬の間の後、
「かーっかっかっかっか! おぬし、相当頭のねじが外れておるな! これは愉快じゃ!! まさか自分で自分を! かっかっかっか!」
「笑い事じゃないだろ」
シークが冷静に突っ込むが、ツクヨミは笑い続ける。
そんなツクヨミをジト目で見つめ、その後ジンへと視線を戻す。
「……理由はなんだ?」
シークの質問にジンはにっこりと笑いながら答える。
「君と会うためだよ」
「俺に……会うため……?」
シークはジンの意味不明な答えに眼を細くして疑念を深める。
適当なことを言って煙に巻こうとしていると感じたからだ。
そんなシークの表情からその内心を理解したのか、ジンは誤解を解くように説明を続ける。
「僕にはね、まあ詳しくは説明できないけど天啓……もしくは直感力を高めるような能力があるんだよ」
「ほお、感覚系の能力……いや、天職かのぉ?」
笑い終えたツクヨミが横から口をはさむ。
「お答えはできません。ただ、僕の能力がこうすれば待ち人に会える、そう囁いたのです」
「じゃからといって自分の命を危険に晒すなどなかなかできることじゃない。あっぱれじゃ! 褒めてつかわす!」
「ありがとうございます」
「それで? 俺を見つけてどうするつもりなんだ?」
話が脱線しかけたのをシークが戻すと、ジンもシークに答える。
「単刀直入にいうよ。シーク、僕の部下になってくれないか?」
自分自身に暗殺依頼を出し、あんな夜中に護衛をたった3人しかつけず、さらには教会を潰して待ち伏せまで行った。
それら全てがシークを部下にするためだった。
ジンはそう言った。
そのジンに対するシークの答えは単刀直入だった。
「断る」
「ふはっ! かっかっかっか! 流石シーク、即答じゃの! さすが我が憑代じゃ!」
愉快そうに笑うツクヨミとは違い、申し出を断られたジンは困ったように頬をかく。
「うーんそうかー。一応理由を聞いてもいいかい?」
ジンに聞かれたシークはその視線をまる焦げの黒い塊となった物体へと向ける。
「……俺に刻印を刻んだクソ野郎は死んだ」
「……」
シークに刻まれた命令を背けば即座にその命を奪う死の刻印。
それはアイゼンの死によって契約は果たされ、シークは自由の身になっていた。
シークはずっと願っていた。
自由になりたい。好きなように生きたい。
「俺はもう誰の下にも付かない」
真剣な眼差しでシークはジンの砂色の瞳を真っすぐに見ながらそう言い放った。
ジンはシークの決意を聞き、表情を変えずに質問する。
「……つまり君は自由に生きたいと。そういうんだね」
「ああ」
「もしここで、僕が『僕の部下にならないならここで殺す』、といっても?」
「それが俺の選択なら」
シークは力強く頷き、同時にいつでも戦闘態勢に入れるように構える。
横のツクヨミは二人の会話を面白そうに聞いていたが、シークの決意の言葉を聞きその瞳の色を変える。
一方で、ジンは両手を机の上に組んだまま微動だにしない。
そしてまるでシークの心の奥を覗き込むかのようにその瞳を見つめる。
「……なるほど。君は自由の意味をちゃんと理解しているようだね」
「そうじゃ。聡い子じゃからのぉ。……で? お主はどうする。ここでシークを殺すか?」
次の瞬間、ツクヨミは神にふさわしい覇気を纏い、ジンを威嚇する。
だが、ジンは二人の殺意を霧散させるように手を前に出す。
「ますます欲しい人材だ、シーク。だから、ここは一旦部下にするのはやめようか」
「一旦……か。かか! なら今は素直に逃がしてくれるのか?」
「そうはいきませんよ」
「じゃろうな。なら、お主はシークに何を望む?」
ツクヨミは疑うような瞳でジンを見つめる。
そんなツクヨミに、ジンは言った。
「それならシーク、君に一つ依頼を出したい」
「依頼……? 人殺しか?」
「あはははは、違う違う。僕が君に人殺しを依頼することはないよ」
「なら俺に出来ることはない。諦めろ」
シークがすげなく断ると、ジンは不思議そうな顔で聞き返す。
「これから自由になろうとしているのに、もう自分の限界を決めちゃうのかい?」
「ぐっ……」
「それに君を自由にしたのは僕だよ。その恩義もあるんじゃないかな?」
「……なら、俺に何を望む?」
シークの任務のほぼ全てが暗殺任務だった。そんなシークに暗殺以外の依頼とは何か。
ジンは頷くと紙が数枚重なった冊子をシークに渡してくる。
「セントラル学園……の入学パンフレット?」
セントラル学園。
シークが今まで通っていた一般の学校と違い、国中の重鎮の子息子女が通う学園。中にはジンのような次期神憑候補や、シークのように実際にその身に神を宿している神憑達が存在する。
つまり、国一番のエリート学園なのだ。
「そんなところに入学させて、俺に何をさせるつもりだ?」
「知ってるみたいだね。それなら話が早い。セントラル学園はね、国一番のエリート校なんて言われてるんだけど……結構問題も多い学校でね」
「問題?」
「うん。一部の特権階級が横暴の限りを尽くし、将来有望な人間の芽を摘んでいく。それが長年続いた結果、セントラル学園のあるここ、ヘリオス国は政治の腐敗が続いているんだよね。それを止める足掛かりが欲しいんだ」




