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死にかけた少女と森で出会う

スクエアエニックスのオンラインRPG「ファイナルファンタジー14」と世界観を共有する小説です。ただしストーリーはゲームの100年前で完全オリジナルです。ゲームを全く知らない方でも、わかりやすい内容になっています。また、ゲームを知っている方は、世界観や人物の設定を楽しみつつ読めるかと思います。いろいろな方の時代考証を参考に組み立てていますが多少のズレは笑って読み飛ばしていただけると助かります。


「雨乞魚?」

魚屋の店先で声をかけてきた店主に問い返したのは、年若い女性の声だった。フードを目深に被っているので、顔はよく見えないが、背の低さからすれば、少女と言っていい年齢かもしれない。体型的な特徴から、おそらくヒューラン(人族)と思われた。


森の国グリダニア。大陸〝三大州〟の西にあるアルデナード小大陸にある都市国家である。〝黒衣こくえの森〟と呼ばれる深い森と湖が国土の大半を占める美しい国だ。


アルデナード小大陸と、その南西にあるバイルブランド諸島を合わせた地域を〝エオルゼア〟と言う。アルデナード小大陸の東端にはギラバニアを領するアラミゴ王国があり、グリダニアとは長年に渡る対立関係にあった。しかし、近年は表立った争いもなく、グリダニアとギラバニアを結ぶ街道には、旅人や交易商が行き交い、それなりに賑わっていた。


そのグリダニアには、商店街全体をアーケードで覆った立派なマーケットがあった。このマーケットでは、グリダニアで獲れた魚や肉、野菜や山菜、キノコ、ギラバニアから入ってきた香辛料などが売られていた。


「そう。今朝は雨だったろ。すぐそこの翡翠湖にいる魚なんだが、何しろ名前の通り、雨の日にしか獲れないんでね。見たら迷わず買うのがお勧めだよ」

魚屋の店先には、丸まる太ったつややかな魚が並んでいた。体調は30cmぐらい。魚体には濃青の水玉模様があり、側線部に虹色が入っていた。一見するとトラウト(マス類)のようだが、よく見るニジマスとは、細部の特徴が異なっていた。

「じゃあ、1匹もらおうかな」

「はい、まいどあり!」

店主は硬貨を受け取ると、魚を紙で包んで少女に渡した。

「お嬢ちゃん、小さいのにお使いかい?えらいねえ」

買い物に来ていた40歳ぐらいの女性が少女に声をかけた。少女は、女性を一瞥いちべつすると、それには答えず。肩掛け鞄に魚をしまうと、フードを深くかぶり直し、無言で店を離れた。

「エルサさん、気にしないでくれ。あいつは、いつも、あんな感じなんだ」

「そうなのかい」

エルサと呼ばれた女性は、去っていく少女の後ろ姿を、いぶかしげに見た。

「実はな、あいつは、俺より年上かもしれなくてよ」

「え!?どういうことよ?」

「あいつは、俺の親父の代から、ここに魚を買いに来てんだよ」

「まあ!」

「森が開かれてから、いろんな奴が来るようになったからな。あいつは、ヒューランみたいに見えるが、もしかしたら亜人(人型の獣人の総称)や精霊(亜人より人とかけ離れた特徴を持つ種族の総称)なのかもしれねえ。どこに住んでるかも、誰も知らねえんだよ。ただ、魔法が使えるらしくて、街道の商人たちの護衛をして金を稼いでるって話だ」

「まあ、そうなのねえ」

「余計な詮索はしないのが商売のコツってもんだ。金払ってくれりゃあ、どんな奴だってお客さんだぜ」

店主はそういって笑った。




少女はマーケットを出ると、通りを右に曲がった。鏡のような水面が広がっていた。湖かと思うほど穏やかだが、そこは川の一部で、川幅が広がって水流がほとんどなくなっている場所だった。少女は桟橋に泊まっていた渡し船に乗った。船頭は、少女から渡し賃を受けとると、手に持った懐中時計を見た。ちょうど時間になったらしく、竿で桟橋をぐっと突いて、船を岸から押し出した。船は、睡蓮が浮かぶ水面を、するすると滑るように進んでいった。


10分ほどで、船は対岸の花蜜桟橋に着いた。少女は船を降り、ギラバニアへと続く街道を歩き出した。20分ほど進んだところで、少女は、誰もいないことを確かめ、街道をそれて森の中へと入っていった。木々を縫って少し歩くと、すぐに開けた場所に出た。水晶のような澄んだ水が湧き出す泉だった。少女は足を止め、背中に背負った杖を手に持った。そして、杖の先を揺らした。すると、少女の全身が青い燐光に包まれ、溶けるように消えた。


次の瞬間、少女の体は、別の森の中に出現した。転移魔法だ。すぐ横には、さっきの場所と同じく、小さな泉が湧き出していた。少女は杖を背中に背負い直すと、深くかぶっていたフードを頭の後ろへ払った。エメラルドのような鮮やかな緑色の瞳が現れた。銀色に近い金髪が、ふわっと空中に広がり、フードの上に覆いかぶさるようにぱさっと落ちた。幼さを残した少女の顔。頭頂部には1本だけ小さな角があった。


少女がいる転移した場所は、先ほどまでいた場所に比べて木々が太く高い。空気も濃密で、より深い、古い森のようだった。少女は慣れた様子で、ためらいもなく森の中を進んで行った。やがて、太い幹の間から、一軒の家が見えてきた。古びてはいるが、こんな山奥にあるのは似つかわしくない、貴族の邸宅のような巨大で豪奢な家だった。赤い瓦葺きの屋根が何層にも重なり、その下には大きな縦長の両開きの窓があった。ベランダ(屋根付きの足場)の柵には凝った彫刻が施されていた。所々にランプが吊り下げられており、夕暮れに忍び寄る闇を跳ね返すように、オレンジ色の光をきらめかせていた。


少女は、2本の木が並んで太い枝を交差した門のようになっている場所をくぐった。エーテルが見える者が見れば、その木を境に膜のようなものが見えたかもしれない。


少女は足を止めた。宵闇の中で色を失いつつある地面に、何やら黒っぽい液体のようなものが落ちていた。少女が視線を移すと、その前方に一つ、また、その前方に一つ、染みのような跡が続いていた。少女は、染みを踏まないように気を付けて進んだ。木立が途切れ、視界が広がったとき、少女は地面に「何か」を見つけ、駆け寄った。


そこには、女の子が倒れていた。頭からは猫のような耳が生えていた。ミコッテと呼ばれる獣人族だ。少女は、ミコッテの女の子の手を取り、自分の耳を顔に近づけた。微かな脈動と息の音を感じ取った少女は、一息ついた。そして、背中の杖を手に取り、杖の先をゆらゆらと揺らした。杖の先が白く光り、光の玉となって杖先を離れ、ミコッテの女の子の体を包み込んだ。


5分ほどの時間がとても長く感じた。白い光が消えると、ミコッテの女の子が目を開けた。女の子は、はっと意識を取り戻し、慌てて起き上がろうとしたが、糸が切れたように、その場に崩れ落ちた。

「だめよ。まだ、動いちゃ。血が足りてない」

「パパと……ママが……川岸に……」

ミコッテの女の子の消え入りそうな声を聞いて、杖を持った少女は、片手で支えていた少女を優しく地面に寝かせると、立ち上がり、門の方に向き直った。目を閉じ、杖を水平に突き出した。ぴーんという音のない音が走った。

「これは!」

少女は目を見開いた。振り返ると、ミコッテの女の子が、何とか体を動かして立ち上がるところだった。無理はさせたくないが、杖を持った少女が感知したのは、一刻を争う状況だった。

「行きましょう!案内できる?」

ミコッテの女の子はうなずいた。

「こっち」

覚束ない足取りで駆け出した。杖を持った少女が後に続いた。


森の中を少し進むと、水音がして、茂みが途切れ、川原に出た。


杖を持った少女は川原を見て唇を噛んだ。

「見ちゃだめ!」

ミコッテの女の子に向かって鋭く言ったが遅かったようだ。女の子は、目を見開き、硬直したように動きを止めた。


少女は、杖を力強く突き出した。コンコンコンコンと分厚い扉を木槌で叩いたような重厚な音が4回して、銀色の微細な模様が入った光の円盤が空中に4枚出現した。杖の先から解き放たれた光の槍が、4枚の円盤の真ん中を貫いて飛び、死体を捕食していた黒い〝何か〟に突き刺さった。金属をこすり合わせたような不快な悲鳴が上がり、黒い〝何か〟は蒸発するように消えた。


「ごめんね、間に合わなかった」

少女は杖を背中に戻すと、ミコッテの女の子を抱きしめた。ミコッテの女の子は、感情の消えた琥珀色の大きな目を見開いていたが、やがて、少女の腕の中で、力尽きたように意識を失った。




少女は、ミコッテの女の子を屋敷に連れ帰った。ベッドに寝かせて服を脱がせると、背中には、爪で引っかかれたような3本の傷があった。そこから命を絞り出すように血が流れ出していた。少女は治癒魔法で傷をふさぎ、生命の源となるエーテルを注ぎ続けた。この傷で屋敷まで逃げ、一時的にでも意識を取り戻して川原に案内できたのは、驚異的な生命力というほかなかった。


女の子は1週間後にようやく目を覚まし、シアと名乗った。少女も、シアにリリィと名乗った。


シアは寝室を見回し、自分がどこにいるかを考えている様子だった。そして、何かを思い出したのか、琥珀色の目から、ぽろぽろと大粒の涙を落した。リリィはシアが落ち着くのを待って、何があったのかを聞いた。


シアは静かに語った。不意に村を襲った黒い獣のことを。


世界には大いなる危機が迫っていた。

『Vチューバー始めてみたけど、これって正解ですか?』の完結から3日経ち、満足してのんびりすればいいものを、すぐに何かを書きたくてたまらなくなったわたしは何かの中毒なんでしょうか?


わたしは、学生時代に小説家を目指して書き物をしていたのですが、職業作家になるほどの甲斐性はなく、就職してからは過酷な労働を耐え抜くのに精いっぱいで、お仕事で報告書や論文を書く一方で、小説を書くことは完全に封印していました。それが、「ファイナルファンタジー14」の公式ブログサイトである「The Lodestone」で日記を書くようになり、次第に昔の熱が蘇り始めました。


決定的だったのは、「エオルゼア古聞奇譚こぶんきたん」という、「ファイナルファンタジー14」の世界を舞台とした小説を書き始めたことです。「書き始めた」と言っても、「なんちゃって」ぐらいのつもりで、その場で思いついたことを文にしただけのものです。でも、お友達の「続きが気になる」という感想を真に受けて、次第に本気で書き始めました。こうなると、創作熱が止まらず、時間を見つけて夢中で書く日々が、現在まで続いています。


そのきっかけとなる第1話は2024年7月12日公開なので、もう、1年が経ったのですね。


長らく中断していた「エオルゼア古聞奇譚」ですが、いちおう結末まで考えてはあるので、途中まで読んでくれた読者様もいることだし、完結させようと思って、「小説家になろう」への投稿用として書き直しました。


以前からの読者様には「The Lodestoneに投稿済みの第1話と全然違うやないかい!?」と言われそうですが、1年間で、これだけ書きぶりが変わったというのは、自分でも成長したって思っていいのかな?

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