11.幸せな日々
あの男…ジギル ランカスターと契約し俺はそれから暫くアミィに会いに来ていなかった。
魔術師にひどく痛めつけられ中々魔力が戻らなかったのと、魔力が戻ってからもジギルが俺に魔術を手様から教えてくれたのだがそれが酷かった。
ほぼ実戦で魔力の消費も怪我も半端なく来れる状態ではなくなった。
毎日魔術師に殺された時と同じくらい痛めつけられやっとそのしごきについていけるようになり、転移の魔術が使えるほど夜に魔力と体力が残っているようになった時には、あの時からもう半年ほど過ぎていた。
「………」
半年も会っていないのだ。
まだ幼い彼女は気まぐれに救った俺のことなどもう忘れているだろう。
もう行かないほうがいいのではないか…
そう思ったが俺が生きる理由がアミィなのだ。
会いたい気持ちが抑えきれず俺は久しぶりにアミィの部屋に転移した。
一瞬で目の前の景色が変わる。
懐かしい匂いに胸がいっぱいになった。
眠っている顔を少し見るだけ、それだけだ。
そう思い眠っているアミィを起こさないよう俺はそっとベッドに近づいた。
「お兄…ちゃん?」
「………アミィ」
だが予想に反してアミィは起きていた。
「お兄ちゃん!!」
アミィはベッドから飛び起き、俺にとびつくと大きな瞳からポロポロと涙を流した。
「なんで来てくれなかったの?私のこと嫌いになっちゃったからなの?アミィ悪いとこならなおすから…」
アミィの目には以前にはなかった大きな隈ができていた。
まさか半年間夜寝ないで俺を待っていてくれたのだろうか?
「待っていて…くれたのか?」
「ずっと、ずっと待ってたんだよ!!」
まだいとけない彼女が隈を作りながら俺を待っていてくれたというのだ。
「アミィ…」
アミィに辛い思いをさせた。
普通の人間なら後悔と申し訳なさでいっぱいになる筈なのに、悪魔の子の俺は違う感情で満たされていた。
そう、俺の胸に溢れてだしたのは歓喜だった。
「もういなくならないでよぉ…」
しゃくりあげながら泣くアミィの背を撫でながら、俺は仄暗い喜びを噛みしめる。
「ああ。もう何も言わないでいなくならない。」
「本当に?」
「ああ。本当だ。だから寝ろ。隈ができてるぞ」
「約束だよ?」
アミィの美しい頬を滑る涙を指ですくってやるとアミィはにこりと微笑んだ。
穢れを知らない綺麗な天使。
俺は…アミィが欲しい。
それからまた俺は毎日アミィの部屋を夜訪れるようになった。
あいつは陛下の犬として動いているようだった。
一通り魔術を習い終えると、俺はジギルの駒として動くようになった。
だがそれはとても人に言えるような仕事ではなかった。
戦場で人を殺し、平時にも呪いや暗殺という方法で人を蹴落としていく。
ただ、言われるとおりに俺は次々とジギルの敵を闇に葬っていった。
それでも罪悪感など抱きはしない。
ただ、アミィにこの所業を知られてしまったら俺は嫌われるどころか恐れられるのではないか…
それだけが怖かった。
昼に血に塗れた後、夜はアミィに逢いに行く。
行けばアミィがいつも笑顔で待っていてくれていた。
俺が毎日手を真っ赤に染めていると知ったらアミィは俺を軽蔑するだろうか?
自分の汚い本性を知られることを恐れながらも、アミィに近づくことを止めることができない。
そんな矛盾だらけの毎日を送りながらも、毎日会ううちにアミィと俺は自然と想い合うようになっていった。
アミィが15を過ぎたころ俺たちは恋人同士になっていた。
「今度ジギルが伯爵位が貰えるかもしれない。」
その日もアミィの部屋にこっそりと忍び込んだ。
最近は部屋に結界をかけているので音も漏れないし誰も入ってこれない。
なので安心してゆっくりと喋ることができる。
「そうなの!?伯爵位になったら私をお嫁さんにしてくれるのよね?」
「ああ。もちろんだ。アミィのご両親に挨拶にいくよ」
アミィには金髪の完璧な婚約者がいる。
いくらアミィが俺のことを好きだと言ってくれてもそれだけでは結婚できない。
なんの爵位ももたない悪魔の子が結婚させてくださいと願い出ても頷く親などいないだろう。
ジギルが伯爵位を貰えばいずれ俺に継がせてもらえるという契約になっている。
爵位があれば話だけでもとりあえずは聞いてくれるはずだ。
無理矢理攫っていくこともできなくはないが、俺はアミィを仲のいい家族から引き剥がしたくはなかった。
「本当!?嬉しい!!」
「大好きよ…レオン…」
「俺も愛してる」
「レオン…ねぇ…」
アミィは俺に体を預けるようにもたれかかっていた。
その手がするりと俺の体にまわる。
柔らかな体の感触に男としての本能が刺激されるが、ぐっと耐えた。
「ダメだ。そういうことはきちんと結婚してからにしよう」
「口づけくらいいいじゃない!みんなしてるよ?」
「ダメだ。貴族のお嬢様はそういうのは結婚までしないんだろう?」
「それは建前よ?みんなしてるわ」
ぷっと拗ねたような顔をすると幼い印象になり出会った頃が思い出される。
まだまだ子供だなと思う反面、ふとした瞬間を女ということを強く感じることが多くなった。
迫られると正直我慢するのが辛い。
「みんなって誰だ?」
「私ってそんなに魅力ないかな…」
上目遣いでじっと見つめられぞくりと本能が刺激される。
襲ってしまいたいと獣のような衝動が湧き上がる。
「そんなことはない。アミィは誰よりも綺麗で魅力的だよ」
「だったら…」
「魅力的すぎて、口づけだけじゃ止まれない。だからしないんだよ」
「私レオンになら初めてあげてもいいよ?」
「……っ」
俺は立ち上がって距離をとった。
「我慢している俺の身にもなってくれ…」
ずっと欲しかった人が二人っきりで誘ってくるのだ。
気が狂いそうになるほど触れたい気持ちを我慢している俺の身にもなって欲しい。
「我慢しなくてもいいのに」
「まだアミィは幼い。」
「もう子供じゃないもん!」
「はいはい。結婚したら俺にくれよ」
俺はアミィの額に軽くキスをした。
「また明日くるよ」
「わかったわ。明日こそ唇に口づけてよね」
それからも毎日ジギルの駒となり俺は動いた。
陛下の忠犬としての働きが認められジギルは伯爵位を拝借した。




