第27話「私の趣味が、ひとつごっそり消えるんだぞ!?」
見切り発車であまり書き溜まってないのですが、第二部最終章を始めます。とりあえず、本日中に3話分予約投稿します。この話と次の話が解説・設定回ということでさっさと済ませたいといいますか…。
【全体メッセージ:プレイヤー『リーネ・フリューゲル』率いるパーティが第97エリアのボスを討伐しました。第98エリアを開放します】
「いつのものように、倒せたね、ミリー。…ミリー?」
ミリーが、私を見て呆然としているような、震えているような、そんな様子だ。
やっぱ、ダメだったか…
「いい!その姿、その剣技、本当にいいよ『春香』!ああ、なんで今まで…」
「…え、ミリー、大丈夫、なの?」
「ああ、まだ少しリーネになり切れていないところが、またいい!春香、これからもよろしくね!」
「今の私は、リーネ、なのに…」
なりきれていないとは、ロールプレイ厨の私に対する挑戦か?いや、無理か。ある意味、ロールプレイだからこそ、こうなるっていうか。
あきらめにも似た想いでため息をつく、リーネとしての私。
でも、まあ。
―――この世の全ての魔を、攻略する。
この声は、聞こえてきた。『春香』アバターの、この私でも。
◇
「彼女の捜索は、世界各国の当局も全面対応することになりました。遅いくらいでしたが」
「私が、情報を伝えていなかった。しかたがない」
「まさか、フルダイブ中の部屋に侵入してまで春香さんをどうにかしようとしていたとは…」
渡辺凛。業界2位のVRゲームの元運営会社の社員にして、同業他社へのあらゆる妨害工作を行っていた人物。
営業職として活動していたことに加え、VRの専門家としても超一流。なんと、仮想世界構築基盤データ『コアワールド』の管理責任者のひとり、だった。今は管理組織より除名。当然か。
ついでに言えば、30代の独身女性。…独身、か。そこだけは、親近感を覚える。なぜなんだろうなあ、まだ18歳の乙女がそんな想いを抱くなんて。それはともかく。
「この『コアワールド』が登場したのが10年ほど前。それまでフルダイブ先の空間と言えば、今で言うVR会議室程度のものでした」
「私が数年前にVRゲームを始めた頃は、既に広大な大地が、澄み切った空が、輝く太陽があった」
「我々は、管理組織より『コアワールド』のデータ提供を受け、カスタマイズすることで、VRゲームとしての体裁を整えます。カスタマイズも大変ですが、そのカスタマイズの対象がなければ意味がありませんからね」
言わば、宇宙空間に浮かぶ『未開発な地球』に相当するのが『コアワールド』。いくらFWOが自主社畜…優秀な技術者集団を擁していても、『移住先の星』がなければどうにもならない。
この『コアワールド』は、非営利の国際民間組織が管理・維持している。業界2位だった運営会社や戦争VRの大手企業が独自に開発しようとしたのだが、現在の『コアワールド』の緻密さ・広大さには遠く及ばなかったらしい。
この『コアワールド』に相当する以上のデータを独占できれば、世界に確固たる地位を手に入れることができる。VRゲームだけでなく、日常生活や政治・経済にまで浸透している仮想世界技術がゆえに。
「現在進行している宇宙開発にしても、『コアワールド』に基づく仮想世界に宇宙空間でもフルダイブできるからこそ、と言われています。無味乾燥な環境に長期間置かれると、精神が参ってしまいますからね」
「あと、世代交代による移住計画…だったっけ」
「そうですね。私の小さい頃にあったSF作品に、都市そのものを宇宙船として航行させる、というのがありました。それのVR版ですね」
地球から遠く離れた移住可能な星に、世代交代を繰り返しながら移動する。
でも、先祖代々、剣と魔法の世界に生きていたと思ったら、全て宇宙空間に漂う船の中でフルダイブしていた仮想世界だった、というのはどうなんだろ。
あ、別に剣と魔法の世界でなくてもいいのか。それに、その世界だけで完結させる必要もない。VRMMO脳な私のおバカさんっ。
「とにかく、そんな人類最大の資産とも言える『コアワールド』の管理・維持に携わるほどの実績をもつ渡辺女史が、なぜ春香さんを陥れるようなことをしたのか。全くわかりません」
「私も、わからない。それが本当なら、彼女は、私をどうにかするためにあの会社に入り、様々な妨害工作を、行っていたことになる。あの詐欺事件にしても、会社を犠牲にするようなもの」
「警察や各種の国際組織にも情報提供を行い、調査が進められていますが…とにかく、彼女のここ数年の活動には、不明な点が多いようです」
あまりに複雑怪奇で理解不能な状況は、たったひとつの知られざる事実が判明したとたん、単純な話となる。誰かが、そんなことを言っていたような気がする。ならば、その事実とは?
「私に関わろうとする、というのが、一番よくわからない。『放浪者リーネ』としての私が、そこまで彼女を行動させる、理由になっているとも、思えない」
「春香さんに再度危険が及ぶ可能性もありますが…今は静観するしかなさそうです。不幸中の幸いは、今や春香さんは世界的な有名人であり、秘密裏にどうにかできる存在ではないということでしょうか」
「それは、主に田中さんのせい。良くも、悪くも」
まあ、今はそれが有利に働くことを期待しよう。大変、大変不本意であるが。
「そこで…というわけではないのですが、春香さんにひとつ、提案があります」
「提案?私の『おかしな特技』のこと?」
「まだそう呼びますか…いえ、それは別途対応するとして、表向きのことです」
表向き?
◇
田中さんの提案とは、これまでの『リーネ』アバターをやめ、精密スキャンで作成した『佐藤春香』アバターで『リーネ・フリューゲル』を名乗り、アバター活動するというもの。
黒歴史ここに極まれりだが、あらゆる意味でイマサラだろう。現実世界の私自身が既に、中継やら素材やらで姿と本名を晒しまくってきた。リーネの中の人として。
あと,『リーネ』アバター自体、基本となる少女型に+αしただけの造形だ。他の人も作成しようとすればすぐに作れるほどに。なぜか、これまでそのようなことはなかったが、偽物アバターが増殖する可能性だってある。
だからこそ私は、田中さんの提案が出た途端、すぐに抵抗した。
「…」
「そんな風に涙目で嫌がる春香さんの姿を、私は初めて見ました」
「…」
「いいじゃないですか、そっち方面は『ハルカ』で賄えるでしょう?もちろん、『ハルカ』が春香さんであることは公表しませんが」
そっち方面なんて言うなあ!賄うとかほざくなあ!ケインの造形並の私の趣味が、ひとつごっそり消えるんだぞ!?
そりゃあ、『ハルカ』は巫女装束のくせに、ぼんっきゅっぼんっだけど、あんな、私と似ても似つかないアバターがばいんばいんになったって満足感が得られないんだよ!『キショーカチ』なんて存在しないんだよ!うあああああ!
うあああああ………はあ。
「………………………わかった」
「春香さんって、あれやこれやと自身の要望をはっきり述べる割には、物分りがいいんですよね。助かります」
「…高橋さんに、チクる」
「何をですか!?」
あることないこと、いやいや、ないことないことをだよ!ないこと…ナイことを…。ぺったん、ぺったん。
高橋さん、慰めてくれるかなあ。あ、ないすばでぃだよ、ちくしょう。美里…もだようわあああ!
私に!仲間を!黒歴史じゃなくて!語れる!仲間を!募集中。切に、求む。




