第25話「リーネさん、なぜリボルバーをお持ちか聞いても?」
7/8 -- 2017/09/22 18:00
「おそらく、ここ」
「市役所を模擬していますね。この中に?」
「当時は、市民登録を実施していた。管理システムのインタフェースが、あるはず」
まあ、中世ファンタジー風に言えば、冒険者ギルドみたいなものだ。ただし、討伐や依頼はない。市民の間で交流する場を提供するためのものだ。FWOというか日本では掲示板が中心だけど。
ジャキッ。
「えっと、春香…リーネさん、なぜリボルバーをお持ちか聞いても?」
「護身用」
「もともと、そういう世界設定だったのか…」
イメージとしては、西部劇の舞台だ。フロンティア精神と無法状態があふれる世界。ただし、広大な大地ばかりというわけでもなく、海や山もある。私は当時、港町を中心に過ごしていた。
とはいえ、当時のプレイヤーの多くは、日がな一日ぶらぶらしたり、歌ったりしていた。アイテムが少なく、貨幣流通があまりなかったのが原因かもしれないが、それゆえ、のどかな世界だった。
そんな過去に思いを馳せながら、田中さんと伊藤さんを引き連れ、市役所に入っていく。
「誰も、いませんな」
「街中で戦闘しているような状態ですからね。行政機能もストップしているといったところでしょうか」
「なるほ…春香くん!?」
私に銃を向けられた伊藤先生が驚く。いや、先生を狙ってるわけじゃないよ。あと、今の私はリーネ。
パンッ、パンパンパンッ。
伊藤先生の後方で機関銃を構えていた兵士数人を、光に変える。急所を外してむしろ苦しめるなどということはしない。
「た、助かったよ、春香くん」
「打たれると、街で倒れていたプレイヤーのように、動けなくなるか、ポータルポイントに死に戻る。気をつけて」
「しかし、私達には何も武器が…ああ、はい、逃げればいいんですね」
相手が趣味じゃなくてプロだったら、それも難しいかも。ふたりにはログアウトしてもらっていた方が良かったかなあ。私を心配して一緒に来てくれたとはいえ。
ただ、これはあれだな、戦争というよりは、既にサバゲっぽい。作戦行動というものがあまり感じられない。あの傭兵アバターのような、普通のプレイヤーなのかな。
◇
窓口の横の通路から、市役所の奥に入っていく。しばらく歩いていくと、ふたりの兵士が扉を守る部屋にたどり着く。
それを、通路の角の壁からこっそり伺う、私達3人。
「どうします、春香さ…」
パンッパンッ。
パァァァァッ
「急ごう」
「春香くんって、もしかして脳筋?」
「今の私は、リーネだから」
「相変わらずのロールプレイですね…」
うん、まあ、私自身がこういう場合、気が短いという話もあるけど。
ケイン…ああ、『ケイン・フリューゲル』の方ね、そっちと同じタイプのアバターだったら、ハッキングアイテムを豊富にもっていて面倒なことがなくて済んだのかもしれない。この世界では無理かな?
「あった」
「あれ、ですか」
「タッチパネルのような形状なんですね」
見た目は、あくまで、この世界を構築した人の趣味なんだろうけどね。
パネルに手を置いた私は、静かに目を閉じる。アバターが『リーネ』とはいえ、ここはやはり、ケインとしても―――
◇
この世の全ての魔を、攻略する。
安寧なるスローライフを、この手に。
◇
その場にあるモニタに、処理の進行状況が表示される。
―――該当セキュリティホール、発見。侵入、開始。
―――ネットワーク設定、確認。場所情報、再認識。
―――ロック処理、実行。パスワード設定、終了。
―――攻略、完了。
「ふう」
「終わったの、ですか?」
「クルーズ船の時のCG処理を思い出しますね…」
伊藤先生も、あの中継見てたの?ああ、録画映像ですか。
まあ、なんとかこれで、このサーバの件を確実に当局に伝えることができる。
そして、あの行方不明の社員の足取りもつかめるはず。この世界をこのようにしたのも、VR専門家としての、あの―――
◇
――あなたが、『放浪者』だったの?やっぱりね―――
◇
!?
え、なに?なんなの、今の声?
独り言のような、女性の声。
「春香くん、どうしたんだい?」
「声が、聞こえませんでしたか?」
「声?私達以外のかい?」
田中さんも伊藤先生も、聞こえなかったらしい。
だとすると、あれはどこから聞こえたの?これまでにない、聞こえ方だったけど。
でも、確かに『放浪者』という言葉が…。
もしか、して。
「田中さん、伊藤先生、ちょっと、待ってて」
「「?」」
私は、近くにあった椅子に腰をかける。
そして、目を静かに閉じ―――
◇
私の名は、佐藤春香。
VRMMOで攻略とスローライフを、手に入れる者。
◇
「きゃっ!?」
「…受付の、お姉様?」




