第26話「かえせー。私の攻略とスローライフの日々をかえせー」
8/8 -- 2017/09/22 19:00
ここは、伊藤先生の研究室。私と伊藤先生、田中さんがフルダイブ中の場所。
鈴木姉弟と高橋さんは自宅からアクセスしてもらっていたのだが、私達はログイン前の簡易モジュール確認を兼ねて一度ここに集まり、そのままフルダイブしていたのだ。
だから、発見した仮想世界へのフルダイブも、3人一緒にここから行っているのだが…。
「なぜ、ここに?」
「え、あ、その、教授に、書類を…」
嘘ですね。フルダイブ中に入ってくる人がいないよう、伊藤先生は研究室の扉に鍵をかけていた。
まあ、非常時のこともあるし、建物入口の受付を担当しているこの人が、合鍵相当のカードキーをもっていても不思議はないのだが。
それよりも。
「それなら、なぜ、伊藤教授の机ではなく、私の前に?」
「あ…それは…」
「『放浪者』」
「!?聞こえて…あっ」
はー、大胆な人だなあとは思っていたけど、ここまでとは。
「なぜ、あなたがここで、受付を?『渡辺凛』、さん」
「…!!」
「あなたなら、私の進学先を、事前に調べるのは、簡単かも、だけど」
行方不明の社員。まさに、その人。
全ての黒幕かもしれない、業界2位のVRゲームで『ハルカ』として活躍していた頃から、私にVR会議等でアプローチを続けていた人。
しっかし、若いなあ。田中さんに見せてもらった資料には30代ってあったんだけど。なぜか顔写真が資料になくて先入観があったよ。え?お前にだけは言われたくない?ごもっとも。
「なぜ、ここまで?全て、私の、ために?」
「…もう、隠してもしょうがないわね。まあいいわ、これから逃げるし」
「…させない」
「いいの?まだログイン中なんでしょ?」
…知られた!?一番、やっかいな人に!?
「本当に、驚いたわ。『リーネ』と『ハルカ』が同時に存在した時は、まさかと思ったけど。ましてや、自身の体とVRアバターを、やはり同時に動かせるなんて」
「…」
「しかも、あなたの体は覚醒前だったはずなのに、『私の声』まで聞こえていた。あなた、どこまでできるの?」
私自身、人外化が更に進行しまくっていたことは、今知った。いや、ホントに。
「残念ね、そのヘッドセットの仕組みを調べておきたかったんだけど。私はこれで消えるね。いくらあなたでも、アクセスポイントから離れすぎて、ヘッドセットの無線回線が突然切れるのはまずいでしょ?」
「っ…!」
あのネットカフェの時のような誘導は、彼女、渡辺 凛には通用しなさそうだ。近くにはフルダイブ中で眠っている生身の田中さん、伊藤先生がいる。ハッキング直後でログアウト処理にも時間がかかる。それをわかっていて、彼女はこのタイミングで近づいたのか?
「それでは、またね、佐藤春香ちゃん。いいえ、『放浪者リーネ』さん」
私の恥ずかしい二つ名を言い残して、その人、渡辺 凛は、研究室を出ていった。
はあ…なんだろ、この三流スパイ映画のような雰囲気。
しかも、彼女の方が主人公みたいだよ。私は、ゲストの謎キャラ小娘。一回限りの登場。きっとそう。
ぐっすん。
◇
FWO現地サーバの、マスターのレストラン。
再ログインした私達は、そこで朝食をとっていた。
ミリビリ姉弟、そんなにパスタが好きになりましたか。がっつくがっつく。
「ミッキー、これ、魚屋でも作れない?もぐもぐ」
「パスタ出す魚屋ってどうかなあ、ミリーちゃん」
「パスタ出すなら、クリームシチューも」
「春香ちゃん、さすがこの姉弟のお友達ね…」
「んまんまんま」
やっぱり、現地グルメの旅が主流になっちまったなあ。まあ、旅番組としては一番ウケがいいよね。いやいや、これ普通の旅行だし。
「もちろん、クリームシチューを頂く春香さんの記録映像も活用させていただきますよ。なにしろ、高速精密スキャンで作成された春香さんのアバターですから」
聞いてないよー!いやまあ、想定の範囲内ってやつだけど。田中さんだし。戦争VRの社長さんに比べたら…いかん、アレを基準にしてはイカン。
でも、どちらかというと、『春香』とケインとして、ふたり寄り添って散策する自作自演シーンの方が多かったような気もするなあ。あと、姉弟のパスタがっつき。
「そちらも、期待をはるかに超えて素晴らしかったです!いやあ、まさかリアル相当の撮影がこうも早く終了するとは!」
「…え?」
「このペースなら、連休には撮影どころか各地で試写会が実施できそうです!忙しくなりますよ!」
なんですとー。
連休中はFWO三昧の予定だったのに。
かえせー。私の攻略とスローライフの日々をかえせー。
これで第二部第二章終了です。本当はもう一回ほどドンパチ(死語)やらかすつもりだったのですが、『彼女』をさっさと出したかったこともあり、これで終わりにしました。まあ、ドンパチは第三章で(削除)。
この後、明日あたりに登場人物まとめを出し、また書き溜まったら第三章を投下していきたいと思います。いろいろ記述が足りないところもあったりするので、例によって誤字脱字修正と共に見直しも進めます。第三章もまた最初は1日1話かなあ…。
2017/09/28追記
最後の凛と春香のセリフを第一部エピローグとして書き換え、移動させました。




