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第4話「私を娘か何かの代わりにしようとするのはやめなさい」

「この企画は、単にFWO業務拡大のためだけではありません。春香さんとその子が交流することで、春香さん自身の将来のためにもなるんです」


 田中さんの意図は、まあ、わかる。

 今まで私は『リーネのプレイヤー』としかPRされてこなかった。私が中の人であることを公表するきっかけが『FWOを物語る映画の製作』なのだから、当然と言えば当然である。

 だが、それは逆に言えば、映画が作られ、公開され、視聴されれば終わりである。田中さんとしては、映画の後も継続して私をPRしていきたい。FWOアバターのリーネとしての私では逆戻りだ。

 『リーネではない、昔の佐藤春香として知った歌』に関して大々的に盛り上げることで、映画はもちろん、FWOがサービスを終了した後でさえも、私は芸能活動を続けることができるかもしれない。


 だから、私はこう答える。


「却下」

「なぜですか!」

「私は、FWOで攻略とスローライフを同時に楽しむ一環として、芸能活動にも『協力』しているだけ。それは、田中さんもよく知っているはず」


 映画の話が終わったらそんな芸能活動から縁を切りたい私にとっては、本末転倒である。


「ですが…」

「それとも、FWOグループの実質的な代表として、却下した方がいい?」

「…っ!」


 私をそんな立場にしたのは、他ならぬ田中さんだしね。

 …でもまあ、田中さんの『真意』もわからなくもないから、これ以上強くは言えないんだけど。


「大丈夫。無茶は、しないから」

「…約束して下さい。あなたの本当の秘密(・・・・・)を知っている者は皆、不安なんです。高橋さんも、技術スタッフも、経営陣も」


 芸能業界が欲望渦巻く世界と言えど、私の『おかしな特技』に比べれば、平和な世界のお茶目なじゃれ合いである。

 私がVRゲームに関わり合い続ければ、また何かが起きる。また何かを起こす。私を、普通の人間でなくしてしまう(・・・・・・・)かもしれない、何か。

 不思議なことに、私自身は、そんな不安は全くない。とはいえ、田中さん達が不安に…私を心配してくれるのはわかるし、その心境も理解できる。この秘密を、両親にすら話していない理由でもある。


「それは別としても、何日も続けて外国に行くのは、特に今の時期は無理。講義は始まったばかり」

「…そうですね。春香さんの大学生活が疎かになるのは、こちらとしても不本意です」

「だから、FWOでの面会に切り替えることはできる?あの時のアバター情報一式はまだあるはず」


 あの時とは、例の詐欺事件である。高速精密スキャン技術と共に、FWOグループが資産として吸収済だ。


「そうですね。『リーネ』アバターさえ同時に動かさなければ問題はないですしね。検討してみましょう」

「よろしく。私も、その子には個人的には会ってみたいから」


 ちょっと深刻な雰囲気になっちゃったけど、この件はなんとか無難に済ませることができそうだ。


 というわけで、本日のめいんいべんとー。

 この間ははぐらかされて根掘り葉掘り聞けなかったからね、今日こそははっきりさせるぞー。


「ところで、高橋さんのこと何か知ってる?FWOの魚屋であまり見かけなくなった。今日もここに来ていない」

「…えっと、あ、いや、私にはよくわかりませんが…」


 ふー、もうはっきり聞いちゃおう。カマをかけるようにして。


「それとも、田中さんと高橋さん、もう籍入れたとか?」

「ま、まさか!まだ一緒に住み始めたってだけで…あ」


 おやおや、同棲ですか。順調ですなあ。


 その後、田中さんには洗いざらい吐いてもらった。

 高橋さんとは、以前からFWOの店頭デモ講習など、仕事の関係で知り合いだったこと。

 お互い気にはなっていたが、年の差もあってなかなか踏み込めなかったこと。

 私が関わったおかげで、いろいろと話をすることができるようになったこと。


「それで、高橋さんのあの高層アパートの部屋で一緒に住むことになった、と」

「お恥ずかしい話ですが、私はずっと古くて狭いアパートに住んでましてね。FWO運営はもともと、新進気鋭…といえば聞こえはいいですが、やる気だけはあっても資本がとても少ない会社でした」


 あの頃のシェアのトップは、『ハルカ』として活動していたあのVRゲームだった。まさに今のFWOのように飛ぶ鳥を落とす勢いだったが、私がいた頃でさえ、運営の雑な対応が目立つようになっていた。


「安月給でも毎日毎日忙しく、とても女性とお付き合いできるような余裕はありませんでした。それが今では、分社化された組織のひとつとはいえ、社長のひとりとして活躍できるようにさえなりました」

「…」

「こんな年になって、高橋さんと本格的にお付き合いすることができるようになったのも、そのおかげです。だから…」


 田中さんは、私を見据える。


「だから、春香さん、あなたも幸せになって下さい」

「私は、幸せだよ。VRMMOで、FWOで攻略とスローライフを同時に楽しめているから」


 うーん、またシリアスになってしまった。

 それにしても、田中さんはすごいなあ。こんなちっこい娘をちゃんと大人扱いして、こんな話までしてくれる。そういえば、私とリアルで会った時からずっとそうだった。これで…


「ところで、お給料が増えた時点で、引っ越せば良かったのでは」

「仕事が忙しくて面倒になって…」


 これで、もーちょっとしっかりしてればなあ。そのせいで高橋さんが忙しくなってるってオチなのだから。

 はて、アパートと言えば。


「そう言えば、以前高橋さんに、私に隣の空き部屋に住めばいいって言っていた」

「ああ、それは、春香さんに私のことを伝えた上で、一緒に生活したいってことだったようですよ。高橋さん、割と料理が得意でしてね」

「料理?」


 突然ノロケ?って…


『ねえねえ、あーんして』


 あの先輩と同じ発想かーい!私を娘か何かの代わりにしようとするのはやめなさい。

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