第2話「リーネも冗談言うようになったんだね!」
ガイダンスで各種資料をもらい、説明を一通り聞いて、会場を出る。
なんか、会場のあちこちで気絶した人がいたらしい。初めての大学で緊張しすぎたのかな。
図書館に行き、学生証で自動認証してゲートを開き、中に入る。さすがに、ここはギルド風じゃないか。
ああ、なんか落ち着く。今はケインじゃないけど、心地良さを感じる。読書ってスローライフの基本だよね。FWO内の図書館の本をほぼ読み切ってしまった問題は本当になんとかしたい。
今日のところは本を読んだり借りたりせず、館内の机で履修届を作成する。
「えっと、集合論に、統計に…」
私の所属は、理学部数学科だ。え?長年VRゲームにハマってるんだから工学系じゃないのかって?そんな、どこかのラノベの主人公と一緒にしないでよ。趣味と仕事は別だよ。
数値を扱うのは割と得意だ。数学の科目が一番成績良かったし。将来は、それを活かせる事務職か、数学の先生あたりがいいなって思ってる。
…今現在進行している仕事はともかく。映画化が一段落すれば、縁が切れるかな?
「それほどたくさんの科目を取らなくてもいいのか。時間的な余裕はあるけど…」
だからといって、空き時間のたびに車で自宅に戻って勉強やFWOはつらい。リアル私の時間が足りないのは確かだけど。やはり、図書館を活用するべきか。
それでも時間が余るようなら、高校の時と同じように学内を散歩…さっきトラウマを拡充したばかりじゃないか。学習せえよ、私。
やっぱり、人付き合いも積極的にするべきだよね。別に彼氏とか要らないけど。そもそも、リーネである私がリアルのケインを知ってることは、割と広く知られているし。と、なると…。
「サークル、か」
高校までの部活動ほどお仕着せでない、同じ趣味や関心をもつ学生同士で作る集まり。言ってみれば、パーティみたいなものだよね。って、すっかりMMORPG脳だな。
VRゲーム同好会とかってじゃすとふぃっとなサークルないかな?もし、大学のネット環境を使ってFWOがやれるなら、時間不足の問題が解消できる。うん、探してみよう。
◇
【全体メッセージ:プレイヤー『リーネ・フリューゲル』率いるパーティが第73エリアのボスを討伐しました。第74エリアを開放します】
「ダメ!絶対!」
あー、2エリアほどボスを他パーティに先に討伐されちゃったー。これは深刻だなあ。
ケインも図書館の蔵書問題が解消されてないことが加わって、土属性発動用の魔法陣を二万枚作っただけだった。ケインとしては、とにかく新しいことがしたい。
それにしても、FWOってエリア数多くない?いくつあるんだろ。まあ、リーネとしての私にはボス討伐報酬が入って、今回もそれでケインのための新作スーツを…
「ちょっと、聞いてるの?『春香』!」
「聞いてる。考え事をしていただけ。で、何、ミリー?」
「聞いてないじゃない!とにかく、春香にサークルはダメ!高校でだってやってなかったじゃない!」
やってなかったっていうか、どこかの部に入ろうとしたら、なぜか担任の先生に止められたんだよ。部活動は必須じゃなかったけど、むしろやるなと言われるとは思わなかった。
しかたがないから、携帯端末であれこれ調べたり、校内の散策をしたりして、2アバター同時接続の構想を…あれ?そういう意味では良かったのか?
「いい?もしなんかのサークルから勧誘を受けたら、あたしが春香の大学に爆裂魔法放つから!」
「意味不明」
「魚屋1号店で春香の大学の学生を見つけたのよ。協力体制はバッチリよ!」
ますますわけわからん。
「あ、私の大学はゲーム研究同好会があったから入ったわ。FWOも学内からできたし」
「ねえ、ミリー。この剣であなたを刺してみていい?」
「お、リーネも冗談言うようになったんだね!離れて暮らす親友としてはその成長ぶりが嬉しい限りだよ!」
MPKの方がいいかな。まだそこらに雑魚魔物が残ってるし。
◇
「というわけで、今回もケインから佐藤先輩に言ってくれよ!変なサークルに入って、おかしな男に捕まったら大変だ!」
ミリビリ姉弟さん、そういうことですか….。心配してくれてるということなら、MPKは勘弁しておいてやろう。
いや、ちょっと待って。サークルって、そんなにGホイホイみたいなところばかりなの?Gは滅せねばならん。私は滅せられるのか。
「そういうサークルばかりではないんじゃないかなあ。僕はそういう話、聞いたことないし」
「そりゃあ、ケインが通っている大学はそうかもしれないけど…って、あれ、ケインって大学生?」
「あー、それも秘密。ビリーにもね。単に、そんな話は聞いてないってだけだよ」
見た目青年型アバターのケインとしては、最初から中の人が大学生っぽいようなロールプレイをしてきた。まあ、私の想像の大学生像だが。入学式で無常を感じた時のアレだ。
そうしておけば、更に私=ケインはバレにくくなる。もっとも、今となっては私も大学生になってしまったから、あんまり意味がないのかもしれない。
「それはともかく、魚屋で佐藤先輩と同じ大学に通うプレイヤーを姉貴が捕縛…見つけたんだ。そいつに聞いた限り、かなりあやしいサークルもいくつかあるみたいなんだよ」
「なら、そういうサークルを避ければいいんじゃ」
「ケイン!お前は、佐藤先輩が他の男に付き合ってくれとか言われても平気なのかよ!」
どの口がほざくか、私に告白した健人くんよ。あ、そうだ。
「わかったわかった、僕から言っておくよ。ああ、大学に直接行ってみてもいいかもね。大きな木があるあたりとか」
「うっ…け、ケイン、お前、もしかして、聞いたのか?」
「何を?」
ニッコリ微笑む、ケインとしての私。これくらいのことはしておいてもいいよね。私がフラれたみたいになったようなトラウマはきっちり解消させてもらうよ?心の中で。
◇
という感じで、FWOでの攻略とスローライフ自体はあまり変わらないが、ペースはすっかり落ちてしまった。姉弟には悪いけど、サークル活動は本格的に検討させてもらう。
それに、ふたりや元クラスメート達とリアルで会うことがまるでなくなったことも大きい。家も学校もバラバラなら当然だけど。寂しくもあるが、こればかりは仕方がない。新しい出会いを求めるべきなのだ。
…私も確かに少し、成長しているのかな。
会わなくなったといえば、ミッキーこと高橋さんも、FWOの魚屋にいないことが増えた。電器店の仕事が急に忙しく…というのは、ちょっと考えにくい。
まあ、今度田中さんに聞いてみよう。きっと知ってる。絶対知ってる。間違いなく知ってる。




