第44話「フェルンベル・ワークス・オンラインを楽しむために」
むう、困った。
侵入ポイントが判明したのはいいが、『ケイン』アバターのままでは公衆回線の先に向かうことができない。それは当たり前である。アバターは特定のVRゲーム内で初期アバターから作られ、その特定のVRゲーム内でのみ動く。自然に出来上がった獣道を大型バスが安々と通れるわけがない。
「しかたない、この間手に入れたアバターをカスタマイズして使うか」
とある経緯で手に入れた、アバター情報一式。もともと別のVRゲームで作られ、それが不正コピーされ、更にはFWOで動かせるよう手作業で改造された、私にとって因縁のあるアバター。
見た目のインパクトだけを重視した改造版のせいか、プログラムコードとしてのアバター機能は最低限であり、これをちょこっと調整すれば、侵入ポイントから送り出して遠隔操作できる。
ただなー、これは私が『墓までもっていく』ためにコピーさせてもらったものなんだよなあ。消すべきだったのだろうが、相応に愛着も残っていたのだ。でもこれ見たら、美里がまた間違いなく発狂する。
背に腹は代えられないとすぐに心を決め、ケインとしての私は調整に入る。
調整自体は簡単だ。過去のかっこつけしーの私が付けた、アンバランスな武器と防御装備。今回防御装備はどうでもいいから、武器の方を、超遠距離ポイントと送受信できるものにした方がいい。
武器の構造を適当にでっち上げ、機能を実現する簡易スクリプト言語でさくっと仕上げる。よし。
「では、先ほど述べた理由により、遠隔操作用のアバターをこれから送出します。みなさんにわかりやすいよう、専用アバターとその周辺をCG処理し、リアルタイムで視覚化してお届けします」
うん、ようやくケインがまとまった説明を行う機会ができたよ。まあ、FWO内からだとわかりづらいしね。ちなみに、CG処理機能とその視覚化は、侵入ポイント付近に転がっていたプログラムをぱくった。
「【ストレージアウト】ハルカ・フリューゲル」
黒歴史のひとつである、巫女装束アバター。ああ、今頃美里が悲鳴を上げてるだろうなあ。こんな『クソ女』が健人くん似のケインのストレージから出てきたらそりゃあもう。ごめん。
そんな私の想いを置き去りにした『ハルカ』が、侵入ポイントに突っ込んでいく。その後、FWO内映像は、侵入ポイントから先の視覚化映像に切り替わる。
◇
「御覧のように、遠隔操作用アバター『ハルカ・フリューゲル』が、侵入ポイントから更にログを辿って追跡を開始しました。既に公衆回線上ですので、ここから一気に犯人の元にたどり着けるはずです」
はー、ようやくここまで到着したなあ。あと、もう少し。
いろいろやってたから、ここまでで5分もかかっちゃったよ。第1回バトルロイヤルの時だったら、強制ログアウトでみんなして暗黒空間に放り出されるところだったね。
「「「…」」」
招待客のおじさまおばさま達は相変わらず真剣で、無表情である。…無表情?なんだろ、いろいろ考えているのかな。技術スタッフではないとはいえ、リアルタイムCGI(Computer Generated Imagery)でわかりやすくしたからね。
ていうか、中途半端に理解している人が一番やっかいなのよね。『ハルカ』で活躍していた時にそういうのいたなあ。『よくわからんがお前が悪いに決まってる』とかって。本当にもう…おっと。
「『ハルカ』が、犯人の使用したシステムの元に到着したようです」
CG処理されたそのシステムは、城のような、ビルのような、うまく例えることができない、巨大な人工建造物だった。不正コード侵入のためだけに、結構手間暇かけて用意したんだなあ。
その巨大建造物の下の方に、少し大きめの入口が見える。これが、このシステムの入出力ポートか。
「未だ不正コードの通信形跡が残っていることから、この入口が、例えるならば、まだ半開きのような状態であり、『ハルカ』による侵入も容易のはずです…」
…あれ?
◇
…あれ?そう、ケインとして首をかしげる。
まだ通信パケットがダダ漏れてる状態かと思ったのに、そうでもなかった。対応早いなあ。
もしかして、やっぱり時間かけすぎた?中継見てあわてて対処されちゃったかな。
「急ごしらえのものとはいえ、無数の解読キーが存在する方式によるセキュリティか…」
そうすると、しらみつぶしでいろいろな組合せを解読キーとして試すのは、時間がかかりすぎる。
その間に、犯人が証拠を消して物理的に逃亡したら、入出力ポートからシステムに入っても何も残っていない。
どうするか…証拠…物理的に…あ。
「膨大な乱数データを入出力ポートに一気に送りつけて、システムごとシャットダウンに陥れれば…」
その間に、システムの物理位置をFWO技術スタッフに解析してもらい、所管警察の緊急チームに踏み込んでもらうか、あるいは、逆にこちらから強力なセキュリティをかけて証拠を消せないようにするか。
でもなー、膨大なデータを送りつけてサービス停止に追い込むのって、犯罪的行為なんだよなあ。いくら対象が犯人の用いたシステムとはいえ、それやってますって中継で解説するのはどうなのか。
よし、ごまかそう。
「侵入は可能なようですが、入口周囲に余計なデータが散乱しているため、言ってみれば、侵入しようとする『ハルカ』のアバター情報が欠損してしまうかもしれません。それを防ぐため…」
ケインとしての私が、『ハルカ』に遠隔操作命令を送る。
「【実装開始】レプリカ」
複製魔法を適用して、
「【連鎖発動】」
『ハルカ』自身を増殖させる。
百体くらいでいいかなー。データっていいよねー、物理制約受けずにいくらでも量産できるのだから。
巨大建造物の周囲に、前後左右上下にずらっと並んで空中に漂う、巫女装束の集団。
おお、『ハルカ』アバターの姿で視覚化すると壮観だな。ほんっとに、惜しいことしたなあ。…未練ありまくりだな、私。
「【支援開始】マシンガン」
百体全ての『ハルカ』が、一斉に大きめのマシンガンを構える。元ネタは、田中さんと無表情できゃっきゃうふふした時の水鉄砲である。あんなんでも、実物を見ておくとすぐにモデリングできるものだ。
いやしかし、巫女装束にマシンガンって合いませんねえ。まあ、今回はその方がいいだろう。『ハルカ』を貶めるようなことをするのも、ある意味贖罪である。主に、美里と健人くんに対して。
「これより、その余計なデータを消去します。それらさえなくなれば、侵入しなくとも、不正使用したシステムが設置してある具体的な場所情報がすぐに判明し、犯人特定に有効かもしれません」
と、いうことにした。でっち上げも甚だしいが。バレるかなー、どうかなー。バレたらその時考えよう。
あとは、引き金を引くコマンドを全ての『ハルカ』に与えるだけなんだけど…適当にコマンドを送るとムラが出てしまいそうだ。いくら数撃ちゃ当たるといっても、半分も当たらなくて効果がなかったら意味がない。
意識を、集中しないと。
これからも、田中さんを始めとしたスタッフのみなさん、美里に健人くん、高橋さん、両親、そして他のプレイヤー達と一緒に、『フェルンベル・ワークス・オンライン』を楽しむために。
そして私が、リーネとして討伐して、ケインとして安らぐために―――
◇
この世の全ての魔を、攻略する。
安寧なるスローライフを、この手に。
◇
「【受諾開始】ファイア」
百体の『ハルカ』がもつマシンガンが、一斉に火を噴く。
ドドドドドっという効果音はなく、入口に向けて光の筋が一斉に集まっていくような表現だ。
ああ、『ファイア』の視覚化だとこうなるのか。まあいいか、今回は。
入口とその付近、そして、巨大な人工建造物を模したシステム全体が、光の奔流に飲み込まれていく――――――
◇
【攻略】FWO総合スレPart2107【攻略】
612: 名無しの八百屋
結論:スレタイ合ってた
613: 名無しの採掘師
ていうか、俺未だよく理解できないんだが
なんだったの?あれ
614: 名無しの賭博師
>>613
あれが何を指すか知らないが、大丈夫だ
俺も全然理解できない
615: 名無しの農家
ケインの中の人が腕の良いハッカーってことだけはわかった
そのハッキングの解説が完璧にできる春香ちゃんもすごいが
616: 名無しの服飾師
>>615
これまでのケインのよくわからん魔法発動も頷けるな
ていうかさあ、ケインの中の人って普通に運営の人じゃね?
617: 【運営No.21】
俺達にもできねえよあんなこと!
春香たんはぁはぁ
618: 名無しのワインソムリエ
>>617
まさかの運営
でも、なぜに春香ちゃん?
619: 名無しの魚屋
>>617
お前もう喋るな
620: 【運営No.17】
ないわー
あれはないわー
621: 名無しの鍛冶職人
大丈夫かここの運営




