第32話「唸れ、私の体!伊達に、毎朝走り込んでいないだろ!」
「おい!いいからさっさと社長出せって言ってんだよ!俺たちゃもう何か月もお前んとこに課金してやってる優良顧客だぞ!」
「先月だけで一万円は課金してんだ!電話やメールをスルーするってどういうことだよ!」
えええ…。
いや、一万円を少ないとは言わないよ?でも、何万円、何十万円と払ったとしても、そんな態度はないんじゃないかなあ。これがまあ、何百万とか何千万とかだったら…やっぱダメか。
そんなことよりも、だ。
その物言い、どっかで聞いたことあるんですけど。
「ですので、NPCの店で暴れたのは、規約違反でして…」
「なんでプログラムやデータごときに手ぇ出してペナルティ食らわなきゃならねえんだよ!」
「金返せよ!むしろ補償金出すべきだろ!あのクソアバターに切られた感覚がまだ残ってんだよ!」
なんというお約束。パン屋で暴れていたところを光に変えた連中か。ロールプレイじゃなかったか、ある意味。
そんな連中が受付でクレームかましているところに私がいるっていうのも、お約束中のお約束。
ああ神様、私、何かしました?え?ゲームの神様である運営に祈れって?運営に祈ってもしょうがないよね、この場合。
まあ、私個人はスルーだ。リアルでちょっとでも暴力を振るえば、警察を呼ばれて終わりだ。
セキュリティもばっちりだしね。玄関ホールのあちこちにカメラが仕掛けられている。
受付の人達を放っておくのはかわいそうだけど。リーネなら模擬剣でも…待て待て。
「おらあ!早くしねえと、こんなハリボテ、破り捨てちまうぞ!」
「きゃあ!?」
受付に近い方の、まだ組み立てている尻尾のあたりを固定しているワイヤーをつかむ、荒くれ者達。もう、荒くれ者達でいいよね、呼び方。
そのワイヤーが引っ張られるたびに、ハリボテの鱗などがビリビリと切れていく。連鎖して、他の部所も破れていく。
これはもう、明らかな器物損壊だ。田中さん、早く警察を…
「お、おい!」
「やべぇ!」
「きゃあああ!」
フラグなんて、立てるものじゃない。
尻尾から後ろ足の方が既にボロボロになったレッドドラゴンが、ゆっくりと、横倒しになっていく。
いや、ゆっくりのはずがない。ハリボテであっても、倒れる時にはすぐに倒れる、はずだ。
これは、意識が集中して、ゆっくり見えているのだろうか。そんなことを、聞いたことがある。VRじゃなくても、そんなことがあるんだと。
ゆっくり、ゆっくりと、床に向かって倒れていく。
その床には、美里が、いた。
卒業までの、半年にも満たない間。
FWOのことでよく話すようになって、弟の健人くんとも知り合って。
そして、今日、リーネのことだけは、告白しようって、そう思っていた。
「いやあああ!」
「美里っ…!」
走り出していた。
誰が?あ、私か。
身体が、重い。心の方が先に進んでいて、体が取り残されているようだ。
「くっ…!」
…唸れ、私の体!伊達に、毎朝走り込んでいないだろ!
アバターの動きが良くなるからって、『ハルカ』の頃から、走り続けているじゃないか!
ドンッ!
「っ!!」
「は、春香っ!?」
間に合った。
突き飛ばせた。
美里を。
「つっ…!」
あ、ごめん、美里。床にスライディングさせちゃった。ちょっとすりむい…
「ぶぼっ」
私の上に、ドラゴンが倒れこむ。
紙と針金でできた、レッドドラゴンの胴体が。
「…痛く、ない…」
まあ、そうだよな。そうだよね。
倒れ込んでくるのは怖いけど、しょせんは、紙のドラゴンだ。
昔見たTVバラエティで出てきた、障子を突き破ってドロに落ちる、アレだ。
まあ、つまり、私がスライディングアタックをかまさなくても、美里はなんともなかったのだ。
そりゃあ、ちょっとくらいはワイヤーとかが当たって…
「っ!?春香、逃げて――――――」
◇
867: 名無しの斥候
名物姉弟がいないと盛り上がらんな
本当にリアルに行っちまったか
868: 名無しの鍛冶職人
>>867
一番の話題が掲示板スルーだからな
次点の彼らが頑張るしかないのだが
869: 名無しの魔導師
てgは震えてumく掛けな
870: 名無しの八百屋
>>869
姉御どうした!?
871: 名無しの竜使い
>>870
別の魔導師じゃね
ヘイト班代表がこんな愉快な書き込みするはずが
872: 名無しの商人
>>869
姉貴頑張れ
見守ってやるから
873: 名無しの鍛冶職人
>>872
冷静のようで豪快にリアバレしてるぞ
今更だが
ていうか、マジ何があった
874: 名無しの釣り師
件の魚屋が店でヒートアップ
もうわけわからん
縁切るか
875 名無しの魔導師
>>872
!!aんんたコソどあmj?!
うーknあに姉貴とか書いてんの
876: 名無しの商人
>>875
すまん
というか俺も何から書いていいやら
書いていいとは言ってたが
877: 名無しの薬師
>>876
主語と目的語を
878: 名無しの魔導師
リアフレだった
リーネが
879: 名無しの鍛冶職人
>>878
ガタッ
880: 名無しの斥候
>>878
ガタッ
881: 名無しの弓使い
お前ら反応が違う
>>878
詳細




