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第33話「安寧なるスローライフを、この手に」

「春香!?逃げてー!」


 美里の、悲痛そうな叫びが聞こえる。

 やだなあ、ハリボテは、もう…


 ガキンッ

 ガンッ


 上から、金属音が聞こえる。

 その音に、顔を向ける。


 ガラン…!


 あれは…足場?

 作業していた人達が立っていたくらいだから、紙やワイヤーではないだろう。

 ドラゴン模様が、描かれているけど。


 それなら…何?

 ああ、学校を改装している時にも見たっけ、鉄の…。


 支えが揺らぎ、あちこちが外れていく、足場。外れていくのは、鉄の板、や、鉄の棒。

 ワイヤーがあちこちに絡んで無理がかかったのか、緩んだボルトがいくつか舞っている。


 普通ならあり得ない、専用の鉄骨や鉄板で構成されたそれが、揺れて、崩れている。

 崩れたところの、鉄板のひとつが、宙ぶらりんに、なる。


 上を向いている私の、目の前、真上。遠い天井の付近のそれが、キン、という音で、外れる。

 もうひとつ、そして、もうひとつ。


 カラン、ガンッ

 目の前へと、それらが、近づいてくる。重力に引かれて、落ちて、くる。



 これって、どっかでよく見たシーンだなあ。ええと、なんだっけ。

 あ、そうそう、異世界転生モノ。クレーンのワイヤーが外れて、上に持ち上げていた鉄骨が、いくつか落ちてくるの。

 ないよねー。工事しているビルの下を通るたびに落ちてくるのかっていう。


 ああでも、なんか、それっぽいなあ、目の前の。

 当たったら、痛いよねえ。頭に当たったら、スプラッタ、かな。

 でも、たいがいは直前に異世界に視点が飛んじゃうんだよね。もしくは、神様がいる空間。最初にVRアバターを作った時のような、自分は意識だけで、周囲が真っ白とか。


 そう考えれば、VRゲームって、異世界転生にそっくりだよね。導入部とか。

 ああでも、元の世界に戻ろうと思えば戻れるもんね、VRゲームなら。

 異世界に転生しちゃったら…戻れないよね、普通。何が普通か、わからないけど。


 でも、落ちてくる鉄骨とかに当たったら、必ず異世界に行けるんだろうか。

 てか、そもそも異世界って何よ。誰か行ってきたの?見てきたの?こっちの世界に戻って誰か教えてくれたの?


 想像だよね。異世界なんて、ないよね。あったらいいな、ってお話だよね。

 鉄骨が当たったら、痛いだけじゃないよね。何もかもがなくなっちゃうんだよね。なくなるんだよね。

 うん、死ぬんだよ。死んで、誰も見えなくなって、聞こえなくなって、自分自身もなくなって。


 あー、怖いなあ。死ぬほど痛くなるのも怖いけど、何もなくなるのが、一番怖い。

 だって、痛いと思った時には、もう、何もなくなってるんだよ。痛いと感じる自分自身でさえも。

 なにもかもが、なくなる。それが、死んじゃうてことなんだ。


 ここで、これから、死ぬのかな。短い人生だったなー。18年ちょとかあ。いや、ここ数年はVRゲームばかりやってたから、体感的にはもっと長いのか?んー、よくわかんない。

 大学生活、経験したかったなあ。友達たくさん作るんだ、って決めたんだよね。それからそれから、大学卒業して、社会人になって、いろいろやってみたかったなあ。


 ていうかさー、結局、誰ともおつきあいせずに人生終了、なんだよねー。あーあ、こんなことなら、無理にでも健人くんと…

 いやいやダメだ。健人くんもここにいるじゃない。死ぬとわかってる私と付き合って、そして、死ぬとこ見て、なんて言えないよ。


 それにしても、鉄板とかがいつまでも落ちてこないなあ。ん?ああ、当たり前か、まだ、外れたばかりだったよ。

 時間、長いなあ。いや、長いわけじゃないよね。私が、あの鉄板を見て、あれやこれやと考えたり、思い出したりしているだけだよね。

 そっかー、これが走馬灯ってやつかー。走馬灯って、死を覚悟した瞬間にそれまでの記憶が巡り巡ってくるってことだよねー。あれ、ちょっと違うかな?


 そういえば、私、なんでここにいるんだっけ。

 ああ、そうか、私がリーネだってこと、告白するためだっけ。

 バカだよねー。死んじゃったら、私が誰だったかなんて、どうでも良くなるじゃない。


 そうだよねー、なんで『告白』とか、考えてたんだろ。

 私は、誰がなんと言ったって、攻略とスローライフの両方を手に入れたかったんだ。

 他の誰かに、何を知られたって、何を知られなくたって。


 最初のきっかけは、なんだったっけ。

 ああ、そうそう。朝、土手のコースでランニングをしていて、ひとり体を軽く動かしてるのが気持ちよくって、でも、周囲に咲く草花や川の流れも綺麗で。

 野原で草木に囲まれて、寝っ転がってダラダラしていたいって思ったけど、でも、それだけじゃダメなんだよね。そんな、ダラダラした生活を、支えるものが、必要だったんだ。


 現実の私は学生で、ちびっ子で、支える力が何もなかった。ゆったりした生活をしたくても、先立つものがなかった。だから、そんな生活を擬似体験できるVRゲームに、ますますのめり込んだ。

 『ハルカ』の時は、失敗した。ある時は攻略して金を稼ぎ、ある時は稼いだ金で綺麗にしたりダラダラしたりする。

 でも、そんな生活はすぐに破綻した。羨望、嫉妬、怨嗟。そんなものの集中砲火をかわすだけで精一杯で、気づいたら、逃げ出していた。


 FWO開発の話を聞いて、それまで構想を続けていた同時操作を試してみて、それはうまくいった。集中砲火ではなくなって、うまい具合に分散した。特に、ケインの生活は。

 でもさー、最初のケインってダサかったんだよ?なんとかなったのは顔の基本的な造りだけで、服飾やスキルのラインナップがもう、とんでもなく貧相で。現実の私の背丈や大平原と同じくらい惨めで。

 そのアンバランスさにリアルで涙が出てきて、登録初日は、リーネを使って、稼いで稼いで稼ぎまくって。そうして、ようやくケインを輝かせることができた。輝くことができた。


 リーネとしての私は、ケインとしての私のスローライフを輝かせるためにある。魔物を打ち倒すそのひとつひとつが、ボスを打ち倒すそのひとつひとつが、ケインとしてのスローライフを、豊かにする。

 そうだ、そのために、リーネとしての私は戦ってきた。防御力を犠牲にしてまで、紙装甲と言われてバカにされてまで、あらゆる魔物を、打って、切って、退ける。


 リーネとしての私の全ては、ケインとしての私の、安らかなスローライフを手に入れるために―――



リーネ(・・・)ちゃん、受け取って!」


 呼ばれた()は、声の方を振り向く。

 鞘に入った剣が、飛んでくる。そして、キャッチする。

 パーティ仲間から予備を受け取る時にいつも(・・・)やっているように。


「戦って!ケインのために(・・・・・・・)!」



 この世の全ての魔を、攻略する。

 安寧なるスローライフを、この手に。



882: 名無しの重騎兵

>>881

他人のリアバレ要求は超特大マナー違反だろ


883: 名無しの弓使い

>>882

書いていいって書いてあるじゃねえか


884: 名無しの商人

これだけは言っとく

リーネちゃんの中の人はとんでもなかった


885: 名無しの歩兵

>>884

解説求む

容姿なのか年齢なのか性別なのか


886: 名無しの弓使い

要領を得ないな


887: 名無しの魔導師

リーネが突然リアルに現れたらどうするって話

しかもそれがリアフレとか


888: 名無しの遊牧民

>>887

コスプレでもしたリアフレと会ったってことか?

ポスターのリーネ、中の人だったのか


889: 名無しの弓使い

リアフレ衝撃御愁傷様

本人起用は話題作りのためか

俳優に任せておけばいいものを


890: 名無しの商人

おまえら、現実世界で魔物の集団を攻略できるか?

俺は、できない

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