理由、それを聞いても……。
呆然とする私の前で、ヤガミと名乗った彼は笑った。
かがんで地面に落ちた剣を回収する。
すごく、綺麗な装飾……本物の剣?
ぶ、物騒すぎる。
なんて考えていると、唐突に口を開く。
「君は、魔法があると思うか?」
「は?」
「……」
小時朗は、何言ってんだこいつ、と不審げに目を向けている。
まあ、当たり前だろう。
得体のしれない人が突然現れて、魔法だなんだなんて言ったら完全にデンパだと思うだろう。
私だって、あの化け蜘蛛と自称先祖に会ってなかったら、そう反応してただろうし。
そう考えているうちに、ヤガミは興味を失ったようにさっさと歩いていく。
「この穴は、誰が開けた?」
「オ、オレだけど……」
さっき出てきた穴まで戻ると、愉快そうに聞いてきた。
「そう。珍しいな」
「ちょっと待てよ! いきなり現れて……ほんものの剣なんか持って、お前一体何もんだ! さっきのは、なんだったんだ!」
「あれは、人間を喰らう化物とでも考えればいい。僕は、夜神。ただの言霊使いだ」
言霊使い?
なにそれ……。
訳分からないけど、たぶん彼も音川輪とか心麗みたいな『魔法使い』ってこと?
そこに、誰かが駆けてきた。
「お、おじじさまー!! いきなりどこ行くんですか! って、なんでアルトちゃん? い、糸柳先輩までっ?!」
「し、シンリ? どうしてここに……お、おじじさまって……っ?!」
まさか、よく心麗が言ってたおじじさまって……この人?
どうみても……私と幾つも違わない。
十八か十九か……それくらいの姿だ。
おじじさまと呼ばれる年じゃないだろ。
心麗のいとこかはとこか……?
「おじじさまはおじじさまだよ」
「おい、水埜」
「うぇ、な、なんですか? せ、先輩……」
心麗は、日頃話しかけた事のない小時朗に話しかけられて、びくりと体を震わす。
まったく、人見知りが激しい子だ。
「この人……お前の親戚か何かなのか?」
「う、うん」
なぜか、夜神さんとやらを小時朗は見つめる。
なんだか、嫌な予感しかない。
「……す」
「す?」
「すげぇっ!!」
きらきら、してる……。
「コトダマツカイって、まさか、言霊使いですか?! あの、水埜の家に住んでるんですか? 同い年くらいに見えますけど、どこの高校に?」
「コ、コジロウ?」
な、なんで?
めちゃくちゃ興奮してる?
さ、さっきの警戒はなんだったの?
「あの、コジロウ、妹さんはどうなったの」
「あ……そ、そうだった」
な、何忘れてんの。
襲われたりしたのは、菜奈を探していたって事を忘れたのか!?
それにしても、小時朗って……こんな性格だったっけ?
よく、解らない。
「妹……?」
「あ、その、オレの妹が、行方不明になって、それを探してたんです……」
小時朗はいつものぞんざいな態度はなく、なんだかすごく丁寧に言った。
「心麗、さっきの子か?」
「あ、はい」
「さっき?」
その言葉に、小時朗が目の色を変えた。
「えっと、糸柳先輩、妹さんってナナちゃんっていう子ですよね? 夜の街を迷子になっていたので、先ほど送り届けました」
「えっ?」
迷子?
もう、家に帰った?
「心麗」
「はい、おじじさま」
「彼に事情を説明して。……彼には、魔法使いの才能があるかもしれない」
「は、はい。あの、糸柳先輩、こちらに」
「は? ま、魔法使い? ちょ、まてよ、どういうことだよ?!」
「糸柳先輩、少し離れた所で話しましょう。全てとはいきませんが、なるべく先輩の疑問に答えますから」
「……」
小時朗と心麗がどこかに行くと、夜神と二人になる。
ふ、二人だけ?
彼はというと、小時朗の開けた穴を調べて思案顔をしていた。
「……あんたも、私に魔法使いになれとか何とか言うの?」
「まさか」
「そ、う」
ほっとした半面、なんだか拍子抜けした。
会う人会う人、……魔法使いに会うたびに、私に魔法使いになれとか言うから、彼もかと思ったけど、違うらしい。
「私は魔法使いだか風術師だかになるつもりはないから」
「なぜ?」
「だって……べつに、なんでもいいでしょ。関係ない」
関係ない。
そう、関係ない。
私、個人の問題なんだから、いいじゃん。
夜神は無言で見つめてくる。
「……なに?」
「気づいているか?」
「なに、が?」
「お前のまわりで、事件が起こっている事を」
「……」
気づいているというよりも、言われたから、知っている。
「お前が魔法使いになるか、ここから去るかしない限り、ここで事件は起こるだろうな。そのたびに、まわりの者が傷つく――それでも、お前は関係ないというのか?」
「それ、は……」
言えない。
答えられない。
「現在のお前は、ただここにいるだけでさっきの様な化け物を集める。呼び寄せる。そして、周りに害をなす。だからこそ、お前とお前以外の者を守るために『音川』がいる」
「え……」
「音川がお前を一生守るという事は、お前と、お前の周りにいるモノを守るためにという事だ。その意味をよく考えろ」
なにも、答えられなかった。
どうして?
どうして私なの?
化け物は、どうして私を……。
私は、どうすればいいの?




