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現在、魔法使いは絶滅危惧種です。  作者: 絢無晴蘿
第二話 「音川がお前を守るという事は、こういう事だ。その意味をよく考えろ」
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逃走、そして増えていく謎。


走り始めても、なぜかコウモリは追ってこなかった。

後ろを向いてみると、ぎしゃぎしゃと気持ち悪く笑いながら、上に向かって登っていくのが見える。

なんで飛ばないんだろう……飛べばいいのに。

翼が大きいからかもしれない。道幅が狭いし。

いや、飛ばれても困るけど。

なんてどこか冷静に考えていると、コウモリの姿が完全に視界から消えた。

空は暗いし、どこにいるのかわからない。


「ねえ、ここどこかわかる?」

「知らねえよ。菜奈を探していたらいつの間にかここにいたんだ」

「ナナちゃんは見つかったの?」

「……」


そう言っている内に曲がり角を曲がる。と、道が途切れていた。

行き止まり?

後ろを向いても誰も何もいない。

上のほうを見てもなにもいないように見える。


逃げ切った……のかな?

思わず安堵する。

でも、小時朗は上を見続けていた。


「?」

「……追いつめられたぞ」

「え?」


あの巨大なコウモリが……下りて来ていた。

かなりの高さのビルの一番上から、ムササビのように跳びまわって降りてくる。

よく、あんなことができるな。わたしじゃ高所恐怖症だからむりだわ。

って、ちがうっ。それよりも。


「ど、どうしよう」


ここは、もう袋小路。逃げられない。


「ったく、なんなんだよ! ふざけんな!!」


何もできないわたしと違い、小時朗は行き場のない怒りに、壁を思いっきり叩く。

聞いているこっちまで痛くなる様な音が響く……と思いきや、何か不自然な音が聞こえた。


「は?」

「え? あ、あれ?」


うそ、なんで?


――壁に、ひびが入った?


画面の液晶にひびが入ったように。

まるで、この世界が偽物であることを象徴するかのように。


世界にひびが入った。


「コジロウ君、もう一回!」

「え……あ、ああ」


やっぱり、本人も驚きながら、もう一度思いっきり殴る。

今度は大きくひびが入って、一部がはがれ始める。


「早く!!」

「わかってる」


ちらりと見れば、地面に降り立ったコウモリはこちらにゆっくりと歩いて来るところ。

私たちがやってる事に、まだ気づいていない。


「最後だ!!」


そんなことを言いながら、小時朗は壊れかけた壁を殴りつけた。


ばらばらと、破片が落ちていく。

人が通れるか通れないかぐらいの大きさの穴が、見事に開いてた。


「なんで……」


不思議だ。

でも、そんな事を考えている暇なんてない。

あの化物は近づいて来る。


「……逃げんぞ」

「う、うん」


小時朗が、様子を窺うように先に穴の中へ首をつっこんだ。

もし、この先も化物が居たら……。


「大丈夫だ、早くこっちに」

「うん」


早く逃げないと。


その行動に、コウモリはようやく気付く。

逃がさないとでも言うように、スピードアップをする。

まずい。


急いで穴の中に転がり込むと、後ろで何かがぶつかった。

背中が熱い。


「っ」

「大丈夫か?」

「だい、じょうぶ……」


ぎりぎりだった。

背中に手を当てると、濡れている。……血?

ぎりぎり逃げ切れたけど、攻撃は避けきれなかったみたいだ。

穴から逃げるように離れると、ようやくひと段落する。

今になって斬られた場所が痛み始めた。


「えっと、ここは?」

「だから、オレが知るわけねーだろ。……それよりも、病院」

「え、あ……う、ん。……って、まだナナちゃんが見つかってないじゃん」


思わず頷いたけど、まだなんの解決もしてない。

確かに怪我したけどあんまり痛くないし、それよりも、ナナちゃんの事が心配だ。

さっきの化け物コウモリ……もし、あいつに捕まってでもしたら……。


「で、ここどこなの?」


見渡すと、ここは公園だった。

さびれた遊具がぽつんと寂しく並んでいる。

オレンジの電灯が、それを照らしていた。


ここ、知ってる――


「……あの時の」


あの時の、公園だ。

誘拐されかかった時の、あの、公園。


「戻って、これた……」


よかった……。

ここなら、うちにも心麗の家にも近い。

もしあの化け物がナナちゃんに関係しているなら、心麗なら何か知ってるかも。


「……戻ってこれた? お前、あそこのこと、知ってんのか?」

「え……あ、いや……さあ?」


知らないと言ったら、嘘になる。

たぶん、さっき居た場所は、学校であった現象……確か結界だか別の世界だか何だかと同じような場所。だと思う。

でも、それを認めると魔法を認めたようで、やっぱり認めたくない。


「って?! 後ろ!!」

「え?」


小時朗の警告。

後ろを見ると――穴から、コウモリが這い出るように現れるところだった。


なっ。

こっちにまでこれるの?

うんうん、こっちに来れないなんて私の思い込みだ。

来た事はなかったけど……来れない訳じゃなかったのか。


「まじかよっ」


小時朗が毒づいた。



やっぱり、私のせい?

私がここにいるから、あの化け物はここに現れたの?


だとしたら、なんでなのか分からない。

どうして、私なのか分からない。

そして、そのせいで周りに迷惑をかけている。その事実が私を押しつぶす。


音川輪は、こんな時の為に守るって言ってたんじゃないの?

学校では迷惑かけといて、なんでこういう時にいないのさ。

行き場のない感情を、音川輪にぶつけたくなる。


「ったく、なんなんだよ、こいつ」


小時朗が、コウモリに向かって構えた。

あのでかいコウモリに対して効くとも思えないけど、拳を固める。

でも、それでも私と違って、戦おうとしていた。

コウモリは、大きな翼を広げて口を開く。


―キィイイイイィイィィイィィィァアアアアァア!!―


「っ?!」


な、なに?

耳鳴りどころの話じゃない。

音。なのに、それだけなのに――なに?

雷が連続して落ちて来たような音と、痛み。

コウモリだけに、超音波?

聞こえてくるのは、酷く頭に響く音。

あまりの苦痛に、膝を折る。

ただの音なのに。


「お、おい、どうした?」

「……っ」


なんで、小時朗は大丈夫なの?

何も聞こえてないみたいに、小時朗は突然崩れ倒れた私を支えようとする。


「……う……あ」


こっちは言葉も出ない。動くこともできない。

その中を、巨大コウモリは悠々と歩いて来る。


「くそっ、なんだっていうんだ!!」


小時朗が私をかばうように前に立った。




『―――――か』





「……え?」


なに?


誰かの、声がした。


小時朗の開けた穴から何かが飛んできて、そのままコウモリの体を串刺しにする。


『ギシャアアッ!!』


化物の悲痛な叫び声。


誰がやったの?

まさか、音川輪?


串刺しにされたコウモリは、苦痛に体を揺さぶる。

さらに、何か……いや、剣が穴から投擲されていく。

一本、二本、三本……寸分の狂いもなく、コウモリに突き刺さっていく。


だ、誰がこんな事を?

穴から、手が見えた。

中からゆっくりと誰かが出てくる。


「だれ……?」


腰まで届くかのような長い銀髪を結び、薄紫の瞳はどこか懐かしい。

余裕を見せる笑み。

どこかで、見たような……不思議な気持ちにさせる青年。


「また、君か」

「え……?」


知らない人……だよね?

なら、今の言葉の真意は?

それとも、小時朗の知り合い……というわけでもなさそうだった。


『キサマッ、マサカ、セイレ―――』

「【消えろ】」

「っ?!」


コウモリが、何かを言いかけて……砂になって崩れていく。

一瞬で、崩れ去った。跡形も無いまま、消え去った。


今、一体何が起きた?


剣だけが、音を立てて地面に転がる。

なんで、何もしてないのに、砂に……なった?

目の前の青年は、一体。

新たな敵か、それとも味方なのか、思わず身構える。


「お、おい、なんだよ。なんなんだよ! お前は……一体、なにもんだ!!」


私の心情を、小時朗が代弁した。


「僕は……」


青年は静かに答える。


夜神(やがみ)。ただの、魔法使いだ」



銀髪が、風に揺れた。










ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

ようやくひと段落ついたので再開しました。

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