放課後、抱く疑問はただ一つ。
音川があろうことか神楽同好会に入ってきて二日目。
「あのさ、ここ、神楽同好会なんだよな?」
「ええ。そうよ?」
「神楽なんだよな」
「ええ。そうね」
「なんで誰も神楽舞も何もやらねえんだよ!! つか、道具すら埃かぶってるし?!」
意外な事に、神楽舞についての知識があったらしい。
今日は、部室に来るとすぐに掃除を始め、神楽の為の道具を引っ張り出しては直したり綺麗にしたりと忙しくしていた。
それに、心麗は手伝い、伊莉那は女王様のようにその様子を見ている。
もちろん私は、無視していたが。
「ったく、こんなのをアルトに見せたら、嘆くぞ……」
「は?」
「ん? ……あ、いや、お前の事じゃない。てか、今の事は忘れてくれ」
いま、アルトって言わなかった?
忘れてくれって?
きっ、と睨むと、音川はぶらぶらと手を振ってなんでもないと示して、また掃除を始める。
片付けて逝くと、意外と部室は広く感じる。
先輩や私達の持ってきた遺物が沢山あったせいで狭く感じてたみたいだ。
「私、帰るわ」
「え? じゃあ、オレも」
「ふざけんな。ストーカー」
「ぐはっ。精神的にダメージ来た……」
音川輪を振り払うと、鞄を持って外に出た。
「あ、アルト。丁度いいから、コタローんちにこれ届けてくれない?」
「ん?」
渡されたのは、少年漫画やら何やら。
よく見ると、一年の時に誰かが持ってきた奴だ。
なんだ、懐かしいな。
「これ、コジロウ君ちに?」
「コタローの私物なのよ。うちはちょっと用があるから行けなくて」
「コジロウ君のだっけ?」
「そうよ。家は知ってるでしょ?」
「うん」
以前、伊莉那に連れられて行った事があったのを思い出す。
それにしても、伊莉那の中じゃ小時朗のこと、すっかりコタローで固定されちゃってんのね。
「輪君の掃除で出て来て」
「なるほど」
まったく、迷惑だ。
音川も小次朗も。
「じゃあ」
「コタロー君にお願いね」
「うん。じゃ」
「さよなら」
「ばいばーい」
「お先にー」
「ちょ、ちょっとまてーっ!!」
音川輪が慌てて掃除用具を片付けているのが中から聞こえた。けど、無視をして家路についた。
「アルトっ、ちょっとま――くそっ、はやっ」
慌てて鞄をつかむと、アルトの後を追おうとして――止められた。
「なん……?」
「イリナちゃん?」
日野伊莉那。
彼女が、前の扉をふさいだ。
「さて。答えてもらおうかな。音川輪。君は、一体誰?」
小時朗の家は、アルトの家から五分ほど歩いたところにある。
と言っても、今日は学園からだから、少し変わるけど。
因みに、伊莉那のうちは、アルトの家のすぐ隣だ。
心麗の家は、その少し離れた、と言っても一・二分ほど離れた所にある。
「おっと、ここだったっけ」
ビルや巨大な建造物が立ち並ぶ都市部から離れて、住宅街に入るとすぐに小時朗の家はあった。
まわりと比べて、どこか古びた家だった。
その周りで、小さな女の子がボールで遊んでいる。
「あ……」
一度、見た事がある子じゃん。
伊莉那に連れられて来た時に小時朗の妹だって言っていた。
「えっと、ナナちゃん?」
「?」
さすがに覚えていなかったらしく、その子は首を傾げた。
彼女は、糸柳菜奈。小時朗の妹ちゃんだったはず。
でも、まったく似ていないよね。
こんな可愛い子なのに。
「小時朗君の友達なの。小時朗君はいる?」
「うん! いないよー」
無邪気にそう言った。
「え。……どうしよ」
手には漫画。
さすがに、これを抱えて家に帰りたくない……。
「ほかのお姉ちゃんかお兄ちゃんはいる?」
「うん!」
「よかった……」
呼び鈴を鳴らすと、ばたばたと家の中から音がした。
「はーい」
玄関を開けたのは、年下の女の子だった。
「すみません。小時朗君に忘れ物を持って来たんですけど」
「え、お兄ちゃんの?」
「おにいちゃん?」
「こじろーかえってきたのー?」
「にんに?」
その声に、後ろの方で声が聞こえた。
「え……」
うそ、こんなに?
少女の後ろで、何人もの子供が走ってきた。
みんな、小時朗とどこか似ている。
「えっと、え?」
小時朗君には何人かの妹か弟がいるとは聞いていたが、こんなに……?
「あの、これ、届けに……」
「おにいの漫画だー」
「あ、それどこ行ってたのか、探してたんだよね」
あっという間に持っていた漫画の山を取って行かれた。
ちょっとあぜんになりながら、少女を見る。
「小時朗君ちって、こんなに兄弟いたんだ……」
「はい。私は次女の椎奈です」
「あ、どうも。私は音川アルトです」
「で、あっちが上の兄で二男の小参時。三女の帷緒。三男の武蔵。四女の菜奈」
「そんなに兄弟いたんだ……」
六人も兄弟がいるとは。
人とはわからないものだ。
「ねえ、しいねえ。おなかすいた!」
「あ、むさしだけずるい!いおもおなかすいた!」
「え、あ、ちょっと」
それが兄弟全体に広がり、騒がしくなっていく。
「あ、帰りますね。おじゃましました」
そのまま、家を後にした。
家から出ると、菜奈が一人で遊んでいた。
「あ……」
ボールが転がってくる。
ピンクのよくスーパーなどで売っているボールだ。
「はいっ」
ちょっと離れた所に立っていた菜奈に、ボールを軽く投げた。
「ありがとー」
「一人で遊んでるの?」
「うん。おうちせまいんだもん」
確かに、あれだけ兄弟姉妹がいると狭いだろう。
でも、ちょっと小さい子一人だけだと危ないなと思う。
最近は事件が多いし。
……私のまわり以外でもって事だけど。
そう言えば、誘拐なんてのも多発しているなんて聞いた。
嫌な世の中だ。
「きをつけてね」
「うん」
また、ボールで遊び始める。
それを横目で見ながら、家に戻った。
「答えてもらえる? 音川輪」
「……」
アルトが帰ってしまった部室。
扉を閉ざした伊莉那は、普段は見せない鋭い目で睨んできていた。
「オレは、オレだ」
彼女は、この前の事件を知らない。いや、覚えていない。
魔法が実在する事も知らない。
完全に部外者。
魔法使い達は、その存在を秘匿している、
完全なる部外者に、これ以上何も言う事はない。
心麗は、ハラハラとこちらの様子を見ていた。
「じゃあ聞くけど、何があったの?」
「なにが」
「突然現れたのに、アルトは君の事を知っていた」
「そりゃ、同じ音川だからな」
「へえ。その割には仲悪いみたいだけど?」
「いろいろあるんだよ」
「……いろいろ、ねぇ」
その視線が痛い。
思わず逸らしたくなるが、ここでそらしたらいろいろ負けた気がする。
「じゃあ、なんで守るって?」
「音川家の習わし。って言わなかったっけ?」
最初にクラスで守る宣言した後、アルトがどうにか考えついたいいわけだった。
「ソレはもう聞いた。本当の理由はなに?」
「……」
なるほど。
彼女は、なんとなく気づいているってことか。
輪は内心焦りながらもポーカーフェイスを保つ。
「悪いけど、調べさせてもらったわ。……今、音川家に、輪なんて名前の人はいない。なら、貴方は誰?」
だから、オレが転校してきてすぐではなく、今なのか。
少し納得。と、この状況どうすればいいのかという困惑が頭の中を廻る。
「……オレは音川輪だ。それ以外の何者でもない。それでは不満か?」
「不満ね。アルトの友達としてはね、貴方のようなよくわからない人を、アルトの近くに置いておきたくない」
「そのアルトが、オレとのことを話さないのに?」
「それでも……」
ここで引き下がってもらえないかな……。
これ以上つっこまれても何も言えない。
そう思っていると、助けの手は意外なところから来た。
「イリナちゃん」
「なによ、心麗」
「この人は大丈夫だよ。僕も小さい頃から知ってるし、アルトの両親も知ってる。おじじさまも、もし困ったら、音川さんに頼れって言ってたもん」
「そんなっ」
「イリナちゃんがアルトの事心配するのは分かるよ? でも、今回ばかりは気苦労だよ」
それまで黙って聞いていた心麗の言葉に、伊莉那は沈黙した。
もちろん、納得していないだろう。
それでも扉の前から退いた。
「すまないな」
「……謝るところじゃないわ」
「ま、オレはアルトの敵になるつもりはない。それだけは確かだから」
「あっそ……」
「……全然似ていないのに。性格は似てるんだな」
「え?」
聞き返した伊莉那の声に応えず、そのまま出ていった。
輪がいなくなると、部室は二人だけになった。
あまり、心地の良いとは言えない空気が流れる。
「……イリナちゃん。どうしたの?」
「なにが」
「いつものイリナちゃんらしくないよ」
「……」
心麗の言葉に、伊莉那は下を向く。
「私、見たことあるの。あの人」
「そう、なの?」
「十年以上前に。全く変わらない姿でいたの」
それに、心麗はなにも答えなかった。
「私の……かんちがいなの?」




