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現在、魔法使いは絶滅危惧種です。  作者: 絢無晴蘿
第二話 「音川がお前を守るという事は、こういう事だ。その意味をよく考えろ」
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五月、憂鬱になる季節だけども。


それは、小さい頃の話。

見上げると、誰かが手を差し伸べてきていた。

顔を見ようとしても、なぜか見えなかった。

逆光のせいだったのかもしれない。

でも、本当にそうだったのだろうか。

わからない。

ただ、手を、伸ばして。


「やめておけ」

「……?」


私の手を、止めたのは、銀色の髪に、薄紫の瞳の不思議な人。


「彼等は、お前を求めているんじゃない。アルトを求めているだけだ」

「わたしはあるとだよ?」

「お前は―――」


その後になって、あの時は誘拐されそうだったのだと親から怒られた。

知らない人には、手を出されても手をとっちゃダメだと、怒られた。

私を助けてくれた彼は誰なのか、判らない。

ただ、彼が手を引いて家まで送ってくれたのを思えている。








///










四月、私は高校三年生になった。

うん。ここまではいい。

問題は五月。


転校生が来た。





「おーい、アルトせんぱーい」

「あ、ヒナ」


放課後。

ものすごい足音を立てて少女が教室に入ってきた。

帰りの準備をしていた私は、思わず苦笑いをしたくなる。


一宮(いちみや)妃奈(ひな)。私の入っている神楽同好会の幽霊部員の一人だ。

因みに、彼女は二年生。


「どうしたの?」

「今日、全員集合って聞いて」

「あ、そっか」

「なるほど、それで半月ぶりにねー、会いに来たと」

「げ、イリナ先輩」


伊莉那が鞄を持ってこっちの横に立つと、妃奈はいそいそと隠れる。


「半月ぶりね、妃奈ちゃん」

「う、す、スミマセン……」


伊莉那が、意地悪く笑う。

妃奈は、どうも伊莉那が苦手らしい。


「運動部をがんばるのもいいけど、こっちにも少しは顔を出しなさい」

「はい……」


聞いた話だと、幾つもの運動部を兼部しているらしい。

神楽同好会には、ある意味神楽も運動ですよねー、なんて言ってなぜか入ってきたむちゃくちゃな子だ。


ある意味尊敬している。

部活を兼部してるとか、すごいよ。


「で、なんなんですか?」

「えーっと……」

「新しい部員が増えたの。その、歓迎会的な?」


口ごもる私の代わりに、伊莉那が言った。


「え、体験入部が終わって二週間もたつのに?」

「えぇ。もの好きな転校生がいてね」

「へー」


一応言うと、今年は二人の部員が入った。が、二人とも幽霊部員になっていらっしゃる。

ほんと、この同好会、私たちがやめたらどうなるんだろう。


「そうそう。コタローも来なさいよ」


伊莉那は後ろの席にいた、毎日バイトをしているために全く来ない幽霊部員の一人糸柳小時朗に声をかけた。


「無理。用があるなら、一か月前に言え」


冷たくそう言うと、教室を出て行った。

一年生の時はきちんと来てたのに、どうしてなんだか。


「あーあ。またコタロー居ないの」

「コジロウくんでしょ」

「ん、そうだっけ?」


伊莉那よ、そろそろ遊ぶのやめてあげたら……。

まあ、それを言うといろいろこっちに被害が来そうだから言わないけど。


「さっ、部室いこ、アルト」

「うん」

「ほら、音川君も」


……。

なんて言うか、ムッときた。

そう、新しい部員というのは、あの音川なのだ。

突然私の前に現れて、風術師になれなんて言ってきた変人。


「あ、もしかして、あなたが?」

「あぁ。オレは音川……(りん)だ。よろしく、一宮妃奈さん」


音川はそう言ってほほ笑むと、妃奈に手を差し出す。

名前を言う所で、なぜか言葉に詰まった気がするが。


そうえば、なんでこいつ妃奈のフルネーム知ってるんだろう?

何も言ってないし、知らないはずなのに。


「は、はい」


なぜか真っ赤になった妃奈は、その手を握って握手をした。

で、パッと放すとその手を抱きしめる。


「ヒナ?」

「ささ、行くわよ」

「うん」

「は、はいっ」


なんだか妃奈の様子がおかしかったような気がしたけど、伊莉那に促され、四人で南部活動棟に向かった。








神楽同好会には、現在八人の部員がいる。


三年生が三人、二年生が二人、一年生が二人だ。

しかし、それでは七人になってしまう。

後の一人は、判らない。


実は、私たちの先輩のそのまた先輩、その前の先輩から延々と言われている話がある。


『この同好会には以前卒業するはずだった部員が未だ在学している』らしい。


あくまで『らしい』という話なのだが、何代も続く伝統的な話、らしい。先生方も知っていてわざわざ同好会について書いて有る冊子や紹介する時の部員数はわざと一人多くなっている。

らしい。の話でそこまでするものなのだろうか。




「もう、集まり悪いわね」


そう言ったのは、部室を見た伊莉那だった。


「あ、イリナちゃん、アルトちゃん。音川さんと一宮さんも一緒だったんだ」


心麗は先に来ていたらしく、何やら占いがどうのと書かれた雑誌を読みふけっていた。

こっちが来た事に気づくと、慌てて雑誌を鞄に押しこんだ。

遅いぞ心麗。

もう表紙は見てしまった。どんな雑誌かも解ってる。


「心麗一人? 一年は?」

「名塚さんは私用でこれないってさっき。あと、土御門さんは来る気ないみたいでさっさと帰って行ったの見たって名塚さんが教えてくれた」


『名塚さん』と『土御門さん』は、神楽同好会尾代表する幽霊部員だ。

一年生で四月に入ってから、一度しか来ていない。

つまり、入部届けを出しに来たその日しか来てない。

幽霊部員にもほどがあるだろ……そうつっこんだのはつい先日。


「まったく。幽霊部員になる前提で入ったとしても、こういう時くらい来ればいいのに。」

「しょうがないよ。だって、一年は全員部活に入らなくちゃいけないんでしょ?」

「面倒だよね……」


他の高校がどうだか知らないけど、ここじゃ高一の時は、全員部活か同好会、サークルなどに入らなければいけない、とか何とか規則がある。

どうしても部活動をしたくない人は、活動日の少ないところとか、幽霊部員になっても文句を言われないところに入るのだ。


「それよりも、お、音川先輩はなんで神楽同好会に?」

「ん? あ、昨日から神楽同好会に所属になった。一応アルトの従兄妹で、家庭の事情からこの春転向して来たんだ。他にも、いろいろ事情があって」

「アルト先輩の従兄妹なんですか……似てないですね」

「まあなー」

「私もそう思う。それに、こんな人に似ているなんて思われたくない」


音川輪は、鮮やかな金髪に海を想わせる碧眼。

対する私は、大和国人特有の黒髪に真っ赤な眼。

確かに、似ていない。

はっきり言って、まったく似ていない。

こんな変人に似てるとか、うん。いやだ。


「そうなんですか?」

「アルトは、なんでか輪君のこと嫌いみたいなのよねー。守るぜ宣言されたのに」

「えっ」

「イ、イリナ!!」


思わず睨むと、伊莉那はしてやったり顔で笑っている。


思い出すのは音川輪の転校日。

あろうことか私を守りに来たとか何とかを、クラス全員の前で堂々宣言しやがった、あの日の事。ずっと忘れようとしてたのにっ。


ほんと、何を考えてんだこのきちがい非常識変人っ。

あぁっ。もう思い出したらいらいらしてきたっ。


「そっ、そうなんですかっ? 先輩っ?!」


なぜか、妃奈は青くなっている。


「そうよ。それはもう、立派な宣言だったわ。ひゅーひゅー」

「や・め・て・く・れ・ま・す・か・し・ら? イ・リ・ナ・さ・んっ?」

「あら、怒った?」

「怒るわよ! イリナっ、そこに直れ!!」

「ちょ、アルトちゃんっ」


この、してやったり顔でにやにや笑ってる伊莉那めっ。

くそおぉぉ!


「おいおい、何してんだ」

「原因がなにいってんじゃっ!!」

「ぐはっ」


……鈍い音がした。

そう、なんか、誰かが顔面パンチされたような……。

なんだか、手に殴った感覚があるような……。

うん、気のせいか。


「ぼ、暴力反対……」


音川が、床に這っていたのも気のせいだ。






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