表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界に幸福を  作者: たにさん
プロローグ
11/15

本編 プロローグ 下の下

「生存戦略しましょうか。」





そう告げる、桔梗を無視し、


――俺は考える。




「――待て待て、久しぶりにあった旧友を無視するなんて酷くないか、黒崎兄よ。」



「うるせー。今、切羽詰まってるんだよ!」




椎名桔梗。

四年前、おれがこの街を離れるまで和志、優香と共につるんでいた友人。


とはいえ、彼女は放浪癖持ちで、滅多に遊ぶ機会など無かったのだが。


家は優香の家のとなりで、料亭を開いている和家の娘である。実際の大和撫子。




「まぁ、落ち着きたまへよ。そうカッカしているとストレスでハゲてしまうぞ?」



余計なお世話だ。



「というか、気になったのだが、一体彼女に何をしたのかね?君は。」


「……、実はな。」



彼女とは、桃華條沙耶の事だろう。


とりあえず、今まで、というか先ほどあった事を桔梗に説明する。

ちなみに、ドアを開けた事も、スカートを下ろしてしまった事も、事故なんだとしっかり付け加えて。




「ほほぅ。そんな事があったとは…」


俺の、先ほど起きたトラブルの数々を聞いた桔梗は、ニヤリッという笑みを浮かべながら、そう漏らした。


というか、何で嬉しそうなのこの人。



「まぁ、何というか、着替えに遭遇した事についても、誤ってスカートを下ろしてしまった事についても、前から思っていたが、本当に君はトラブルメーカーなのだな、黒崎兄。」



「いやぁ、それほどでも///」



「誉めて無いが。」



あきれた様に此方を見る、桔梗。


「で、どうする気だい?私的にはこのまま、彼女に見つから無い様に、今のうちに帰宅するのが一番良い手だと思うがね。」


桔梗の提案を聞く。

確かに、今。俺たちは桃華條沙耶を撒いた。俺たちの居所は彼女に見つかっていない。

わざわざ、彼女に会う必要は無いのだ。これ以上のトラブルを避けるならば、今日はこのまま、そーっと帰るのが一番の有効手と言える。



だが、



「いや、帰れない。」


「何故なのだ、黒崎兄よ?」


何故?

と、?を浮かべ此方を見る桔梗に対し、


俺は自分が持っている資料を見た。


優香から預かった資料。

本来、今日。

俺が風紀会室を訪れた目的は、この資料を届ける為だった。

その目的を投げ出し、桃華條沙耶が怖いからというそれだけの理由の為に、俺は背中を向けて逃げるのか?


馬鹿な。そんな事あってたまるか。


そんなの俺の、1%程しか無いプライドが許さない。


絶対に、この資料だけは風紀会室に届ける。


心の中で誓う俺。

そんな俺を、桔梗は見つめていた。

そして、何かを悟ったのか言葉を放つ。



「ふむ、何らかの理由があるとみた。良いのか?いま、帰るのが一番良い手だと、君も分かっているだろう?」


「分かってる。けど、俺は――、」



「風紀会室に行かないといけないんだ。」

苦々しく、俺は呟く。



「ほぅ、風紀会室に何らかの目的があるのかね。とはいえ、風紀会室か。些か厳しいな。」

「分かっているとは思うが、今私たちがいる此処から風紀会室までは中々に距離があるぞ?それに、この建物の中にはわかっているだろうが彼女もいるぞ?」



彼女とは、まぎれも無く

桃華條沙耶。


「分かってる。けど、帰宅の二文字は無い。」


「……決意は堅いとみた。良いだろう、私も協力してやろうではないか。」


「良いのか?」


「あぁ。決意を固めた男を応援しない女が何処にいる。私はそこまで無粋では無いよ。それに、乗り掛かった船という言葉があるだろう。それに従ってみたまでの話さ。それに、―――。」


そこまで言葉を呟いて、


「(――私のせい、というのもあるしな。)」


桔梗は心の中で思った。










「で、何か作戦はあるのかね?黒崎兄よ。風紀会室に資料を届けると言ったがね、君はいま、桃華條沙耶に追われているという自覚を再認識した方がいい。それで、作戦は?」


桔梗が此方を見て言う。

勿論、俺はこう返した。


「HAHAHA、……無い。」


「……」


沈黙する桔梗。

自分から風紀会室に行くと言っていたのに、作戦が無い?馬鹿じゃないのか。

と思っているのが分かる。


「私は、君がちょっと頭が可笑しい人間だという事実を忘れていたよ。」


「お前に言われたくない。」


「で、作戦も無しにどうする気かね?風紀会室に行くつもりなら、必ず桃華條沙耶という障害は現れるぞ?それに、強行突破で抜けられる程、彼女はなま優しい人間では無い。というか、彼女の剣術は君も見ただろう。あれは、君でも、優香でも手こずる程の腕前だ。強行突破は得策では無いがね。」


「いや、待て。何で、見つかる事が前提なんだよ。そもそも、現状まだ桃華條に俺たちの居所は見つかって無いんだぜ?なら、見つからずに風紀会室に隠密で進むって手は無いのか?」


「彼女を舐めてはいけないよ。彼女の怒った時の勘の鋭さは、それはもう凄まじい。恐らく廊下に出て、何か気取られる行動をしてみろ、瞬間的に居場所を勘ぐられるといって間違いない。」


「……人間か?」


「人間だよ。ただ、女性の勘、直感というやつも案外バカには出来なくてね。特に彼女に関してはね。」


なるほど。


「――というか、お前やけに、桃華條沙耶について詳しいな。」


「まぁね。私と彼女は互いに「知った仲」だからね。いろいろと他人に見えない部分とかも見えるのだよ。」


「というか、今の話を聞く限りだと、強行突破も隠密行動も微妙ときた。だが、俺はあえて。」


俺は迷わず決断を下した。


「――強行突破で行く!」







「気でもふれたか、黒崎兄よ。」


「いや、俺はまともだ。だからこそ、強行突破だ。作戦とか、上手くやる方法とかは、どちらかというと「優香」や「桔梗」のやり方だろう?俺は馬鹿だからな、作戦とか性に合わない。男は突撃あるのみって相場で決まっているんだよ。」


「ふむ、言葉を聞く限り、カッコイイ「生き方」に聞こえるが、その実、それはもっとも無様な「行き方」だよ黒崎兄。とはいえ、君に止めとけとかいくら言った所で考えは変わらないのだろう?」


「もち。」


「なら、私はこう言おう。死ねばいいのに。」


「なんで!?普通、ここは頑張って!って言う所じゃないの!?」


「いや、「頑張って」と言おうと思ったのだが、ここで「頑張って」と言ってしまうと、死亡フラグになってしまうと思ってな。だから、「頑張って」とか「生きて帰ってきて」とかではなく、「死ねばいいのに」といえば死亡フラグを回避できるのではないか。という考えがあってのセリフだ気にするな。」


「……。」


『死ねばいいのに。』」


「気にするわ!」


なんか、凄く悲しい心境になってきた。



桔梗にそう返し、

強行突破で行く。と言った以上、その通りに行く。


どこで桃華條に出会うか分からないが、戦いになるのは必至だろう。

だが、俺は迷わず行く!


「じゃあな、桔梗。行ってくるぜ!」


そう言って、隠れていた倉庫から出た瞬間だった。




「―――見つけた!!」





「はやっ!!!?」



速攻で桃華條に見つかった。










「見つけたわよ!変態、いやHENTAIっ!!」


「なぜ言い直した!?」


目の前に現れた桃華條沙耶に戸惑いつつ、ツッコミを入れる俺。


それよりも


「――何故、俺の居場所が分かった!?」



何故だ。何故、こんなに早く見つかった。これが、桔梗の言っていた桃華條沙耶の女の勘ってやつなのか?


「――勘よ!」


本当に勘だった。

恐ろしいな、このお嬢様。


「と・に・か・く!ここが潮時の様ね、変態。大人しく私に粛正されるがいいわ。」


「く、」


苦々しく、眉を寄せる俺を、得意げに桃華條沙耶は睨みつける。

というか、俺の名称が完璧に変態だ。


「――っ、」


逃げようとする俺。

だが、


「残念逃がさないわよ。」


そう桃華條沙耶が俺に言い、俺の背後に回り込む。


そして彼女は、竹刀を両手で垂直に構え、繰り出されたのは頭上からの一撃。


俺は、それを防ごうと両手を掲げる。

が、


カクン、と、頭上からの一撃がその軌道を突然変えた。桃華條が、竹刀を引いたのだ。

そして、引いた後。今度は竹刀を突き出す。


突き!?だと

凄まじい速さの突きを俺を目掛けて放った。しかも、頭狙い。


頭上からの一撃はフェイント!?



「奥義・返りかえりざくら!!」




「!!?」


必殺技!!?


一撃目はフェイント。返した様に放たれる二撃目が本命の技が、俺へと放たれる。

しかも、その速さは折り紙付き。


あ、駄目だわ、避けれね。

初見殺しですな、これ。


死んだ。

間違いなく死んだ。


そう、俺が死を覚悟した時だった。




「まぁ、待ちたまえよ。」




俺の背後から声。

ピタリ、と俺の額の前で、桃華條が放った竹刀が止まっていた。


俺の背後から現れたのは桔梗。


その出現に驚いたのは、


「な、桔梗!」


桃華條沙耶だった。

そんな桃華條に、桔梗は軽く手を振りながら近づく。


「やぁ、沙耶。いや、風紀委員会副会長、桃華條沙耶と言った方が恰好がつくかね、この場合。何はともあれ20分ぶり。」


なに?

副会長?

桃華條沙耶は風紀委員の副会長だったのか?


「20分ぶりじゃない!桔梗…」


「――いや、風紀委員会の会長である貴方が居なかった、居なくなったせいで私がどんな目にあったか!」


え!?

そして、桔梗が風紀委員会の会長?

つまりトップ!?

知った仲って、部下と上司の関係かよ!


というか、状況が分からねぇ。


「やぁ、黒崎兄。気分はどうだい?」


ふい、と此方を見て、桔梗が言う。


「これが気分が良いやつの顔に見えるか?」


竹刀を眼前に突き出されつつ、苦々しく俺は呟く。



「まぁ、積もる文句は後で聞くとして、沙耶。黒崎兄、いや、そこの変態に向けた竹刀、下ろしてやってくれないか?そこの変態はこれでも私の友人でね。私とてむざむざ友人が竹刀で撲殺される様を見たくないのだよ。」


おい、こいつまで俺の事を変態って呼びやがったぞ。

こうなれば、本当に変態の様に振る舞ってやろうか。と真剣に考える。


「残念だけど、いくら貴方の命令とはいえ、それは出来ないわ。」


「ふむ、何故だか聞いていいだろうか。」


「……。この男は私の、パ、パンツを見たのよ!それに裸まで!」


赤面する桃華條沙耶。


「恥ずかしいなら言わなくていいのに。」

口を挟む俺。


「うるさい、変態!」


吠える桃華條沙耶。

ほら、口挟むとこれだ。


「まぁ、多少の事情はそこの変態から話は聞いているがね。」


「だから、俺は変態じゃないといっとろーが。」。


「じゃあ、なんだ?」


「俺は、――」


俺はなんだ?

と言う問いに俺は自身満々でこう返した。

「ガンダムだ!!!」



「―――私の私情を置いておくとしても、この男のやった行為は、覗きとスカート下ろし!立派なセクハラ、いや犯罪行為よ!十分に粛正する対象だわ!!」


流された!?

確かに、一見。俺がやった行為は犯罪かもしれない。


「風紀委員法則第一条・他の生徒への迷惑行為、迷惑発言等の行為は、懲罰の対象である。そう風紀委員でも決まってる!」


「たしかに、そうだな。」


だが、


「それが故意だった。ならだろう?」


その通りだ。


「今回の件、彼は全て故意では無く、事故だと言い張っているが?」


「う、」


「私は、この変態の事を多少なりとも知っている。この男は少々変わっている所もあるが、まず分かっている事は、初対面の相手にセクハラ行為を行なう程、落ちぶれていないという事だ。」


これは、誉めらているのか?

貶されているのか?


「今回の件に関して言えば、この男の「事故なんだ」発言は十分に信用の価値があると思うがね。それに、これを言ったらおしまいかもしれないが…」



「副会長殿は、生徒の証言が信じられない。と?」


「!!」


痛い所をついたな、桔梗。

それは、全ての根本を覆す一撃の槍だ。


流石に、その一言が聞いたのか。

桃華條沙耶は、く、とか、うぅ、とか小さなうめき声を上げつつ、竹刀を下ろした。

何て言うか、凄い葛藤が見受けられるぜ。


こうして、物事は一件落着。

事態は終息へ向かうのみ。と思われたが、話は終わらなかった。



「というか、そもそも会長、もとい桔梗が原因でしょ!!」


桃華條はそう吠えた。


「え?」


俺はその言葉に、?を浮かべた。






~回想~

『黒崎一和が現れるすぐ前の風紀会室』







職員棟の端に、その教室はあった。

風紀会室。


風紀委員と呼ばれるメンバー達が活動の軸として使っている教室だ。

現在、この教室にいる人間は二人。


風紀委員、会長。椎名桔梗。


と、


風紀委員、副会長。桃華條沙耶。


の二人だけだった。


とはいえ、今日は入学式初日の為、風紀委員の活動は無いのだから、この集まりの悪さでも問題はあるまい。


それに、春休み中もひたすら清掃活動とか活動をしていたので、今日くらい休みでも良いでは無いか、とすら思える。


「きゃ!!」


そんな二人だけの風紀会室に、甲高い悲鳴が響く。

悲鳴を上げたのは、金色の髪に、ヴェールを付けた、桃華條家のお嬢様。桃華條沙耶だ。


「どうしたね?」


教員から渡された生徒名簿に目を通し、椎名桔梗は声がした方。桃華條の方へと目を向ける。


「うわ、酷い有り様だな。」


桔梗は、桃華條を見て、眉を寄せた。

見ると、桃華條はびしょ濡れだった。何が?

いや、制服が上から下にかけて。


「冷たい……。」


落ち込みながら、桃華條は呟く。

その手にはジョウロ。

風紀会室の窓際には、ミニサボテン達が太陽の光を浴びられる様に、と飾られているのだが。

どうやら、それらに水をあげようとして、何を間違えたかは知らないが、自身に水をかけてしまったのだろう。


「しまったぁ。蓋閉めてなかった。もう!!」


あぁ、原因は、ジョウロの蓋の閉め忘れらしい。

サボテン達は、五段のメタルラックの段にそれぞれ飾られている。

一番上のサボテンに水をあげるには、桃華條の身長ではジョウロを掲げる他ならない。

のだが、そのさい、蓋を閉め忘れていたせいで、自身が水をかぶってしまったのだろう。


「全く。君は、普段は神経質なのだが。稀に、その性質がきれる瞬間があるな。」


そう言いながら、桔梗は床に溢れた水を雑巾で拭いていく。

床には対して、水はあまり溢れていなかったから、一瞬で片はついた。

のだが、


「ブレザーとスカートがびしょ濡れではないか。ちょうど、余った新品の制服がそこにある。着替えたまえよ、風邪をひく。」


桃華條のブレザーとスカートの被害は甚大。

とはいえ、着替えればすむ話だが。


「ありがとう。桔梗。」


「いや、礼には及ばんよ。とにかく、さっさと着替えるがいい。とはいえ、誰か生徒がやって来ないとは限らない。私は廊下で見張り役でも買って出るとしよう。、」


そう言いながら、私は廊下に出た。


のだが、

これはあれだな。


トイレに行きたい。


いや、行こう。


まぁ、なんだその。

見張りを引き受けると言ったばかりだが、ここは職員棟の端だ。

そう生徒が訪れる事なんてありまい。


それに離れると言っても、少しばかりだ。その間に問題など発生しないだろう。


等と考えてつつ、

椎名桔梗はトイレに向かった。


見張り役を放棄して。






桔梗がトイレに消えると同時期。


「早く帰って、サスペンス見てーな。」


そんな、懐かしい声が聞こえた様な気がしたが、

あえて桔梗は、トイレを優先して、それを無視した。










「……。」


俺は沈黙していた。

よくよく考えてみる。


桃華條沙耶の服が濡れる。

桃華條沙耶、着替える。

見張り役に桔梗。

桔梗が見張りを結果的に放棄。

俺、参上。

キャー、HENTAI!


考えた末、


「お前が原因か!」


俺は吠えた。








「原因?私がか?」


惚ける様に?を浮かべる桔梗。


「あぁ。お前が見張り役さえしっかりやっていれば、今回の事件は起きなかった!違うか!?」


俺は問いただす。

そもそも、桔梗が見張り役さえちゃんとやっていれば、俺も誤って着替え中に遭遇してしまう事など無かったハズだし、その後のスカート云々などの過ちも起きなかったハズだ。


久しぶりに会ってから、やけに協力的に俺に対して接してきたのは、自分に非があると思っていたからに違いない。


「確かにそういう見方もあるな。」


「いや、その見方しかねぇよ!」


「ならば聞くが黒崎兄。そもそもの今回の件の原因とは何だ?私が見張り役を放棄したことか?それを言ったら、沙耶がびしょ濡れになった事がそもそもの原因だろ?それに、黒崎兄が風紀会室のドアをノックせずに開けた事も、原因になるのではないか?」


「ぐ、」


屁理屈だ!


「屁理屈に聞こえるだろうか?いや、違う。今回の件は、予期せぬ展開が重なって、重なって、起きてしまった悲しい事件だったのだよ。」


そんなことで、


「納得がいくか!」


「納得したまえよ。今回の件、君は損な役にまわったとはいえ、桃華條沙耶の半裸姿とパンツを拝んだんだぞ?むしろ「な、「得」」をしているだろ?」


上手いこと言って、悪びれずニヤニヤ笑みを浮かべるこの女、どついて良いですか?

等と、思う俺を押し退け、

ずい、と前に出たのは。桃華條沙耶。


「私も納得がいかないわ!」


桃華條も随分、納得がいってないらしい。

それもそうか。

言ってしまえば、今回、一番割には合わない思いをしているのは彼女で間違いないだろう。

何故なら、彼女は今回。


俺に、着替えを見られ。


俺に、パンツを見られ。


それだけなんだから。


俺みたいに、不幸中の幸いとはいえ、割に合った思いを一切してないのだ。つまり、彼女は今回の件の一番の犠牲者といえる。サーセン。




「納得出来ないかね、沙耶?」


「私なんか、こんなやつに、裸と下着を見られたのよ!?納得なんて出来る筈がないわ!」


『変態』から『こんなやつ』にシフトチェンジ。


「それに、私だけが恥ずかしい思いをして、今回の件は事故でした。はい解散。だなんて、――、」


まぁ、桃華條の言いたい事も分かる。

だが、俺は別として、


「俺は、桔梗が何の被害も受けてないのが気にくわない。謝罪を要求する!」


俺は殴られ。桃華條は恥ずかしい思いをし。

それでいて、何の被害も受けていない桔梗。あまりにも割りが合わない。




「ふむ、謝罪か。たしかにそうだな、私も今回の件に関しては原因の一つであるようだからな。それに、風紀会の副会長が恥辱を晒し、会長である私が何の非も受けていないのもどうかと思うしな。」



桔梗がふむ、と顎に手をやりつつ、唸る様に考える。

そして、次に桔梗がとった行動は俺の想像もつかない行為だった。






「これで許してくれるかね?」




「!?」



桔梗は、おもむろに自分の制服の胸元を開いた。

そこから露になるのは、決して控えとは言えない胸、谷間 。そして黒のレースのブラジャー。


何をしているんだコイツは。


自分も恥辱を晒す事で、許してくれと言わんばかりではないか。

割りに合わないのなら、自分も恥辱を晒す事で、割りに合う様にする。と。そういう考えか、


そもそも、胸をさらした程度で、俺が許すとでも思っているのか?







「許す!」


おぱーいの力は強大だった。





横を見ると、桃華條が。

こいつ本当に最低ね、この男はこの学園にいないほうがいいんじゃないかしら。今、粛正しておいた方が後々の為になるに違いないわ。

等といった表情で此方を見ていた。


「――こいつ本当に最低ね、この男はこの学園にいないほうがいいんじゃないかしら。今、粛正しておいた方が後々の為になるに違いないわ。」


むしろ呟いてた。



「よし、みんなが痛みを伴った事で今回の一件は落着だな。はい解散!」


開いた胸元を直しつつ、桔梗が言う。


「いや、待て解散は早いぞ、桔梗。」


俺は言う。

まだ、資料を渡していない。本来の目的は、風紀会室に資料を持っていけ。だったが、目の前に風紀会の会長と副会長がいるのだ。

もうこれは手渡しで構わないだろう。


そう思い、資料を渡そうと、一歩踏み込んだ瞬間だった。


「!!」

ずるっ、と足元が滑った。


そのまま、俺は前のめりに廊下に倒れる。事になるのだが、


「な!?」

「ふむ。」


目の前の二人、桃華條と桔梗のスカートが足元までずり落ちた。

そのスカートをずり落ろしたのは、言うまでもなく、

私です。




やってしまった。


俺の手には二人のスカート。

言っておくが、事故だ。

転ける瞬間、反射的に手を伸ばしてしまい掴んだのが、たまたまスカートだっただけで。決して、便乗してスカートをずり落ろした訳では無い。


のだが、


俺は、顔を上にあげた。


黒のレースのパンツと、白い純白のパンツ。

黒と白の対となるパンツがそこにあった。まるで、太極図を見ているようだった。


そんな俺を見下ろす二人の視線。



「黒崎兄よ、君も男だな。よもや、私のブラだけじゃ飽き足らず、パンツの方も見ようとするだなんて魂を感じるよ。言っておくが、今日の私は上下共に黒だ。お気に召したかね?」


桔梗はいつも通りだった。


パンツ姿でもなお、軽口を叩いている。流石としか言いようがない。

これならば、必死に謝れば許してくれるに違いない。


が、



「―――、――、――、」


桃華條は何だか無理そうだ。

というか、表情に「無理」、「殺」、「限界」などと言葉が書いてある。

どうしても許してもらえないに違いない。

俺は、二人の表情を確かめたあと。


その場から、直ぐ様立ち上がった。

そして、


俺はおもむろに、自分の制服の胸元を開いた。

そこから露になるのは、強靭な胸板。結構男らしいと自分でも自負している。


俺は、その胸元を桃華條に向けて、



「これで許してくれるかね?」



言った。



「――無理!」



「やっぱり駄―――――」


瞬間、俺の顔面に強烈な竹刀での突きが突き刺さり、

俺の身体はバウンドし、廊下の向こうへと消えていった。









「顔に突きは無いよな。突きは。」


そうぼやきつつ、おでこを擦りながら、俺。

こと、黒崎一和は廊下を歩いていた。


歩いている際、手洗い場の鏡の前に立ってみる。


眉間の上辺りに、丸いアザが出来ていた。


痛みなど感じないが、おでこにアザが出来てしまうのはやはり気になる。





ちなみに、

あの後、資料はちゃんと桔梗に渡しておいた。

結局、資料というだけで、中身は何だったか、まぁ俺が知る必要の無いものだとは思うが、全くわからなかった。


最後に、何故か桃華條沙耶に、

クラスと名前を聞かれた。


名前は、刹那・F・セイエイ


クラス名は、ソレスタルビーイング


クラス目標は、世界の歪みの根絶。


と答えたら、竹刀を構えようとしていたので、

慌てて名前を答えておいた。


俺の名前とクラスを聞いた後、桃華條は、

アンタの事忘れないから、次、何かしたら覚えてなさいよ。


などといかにもな事を吠えていたので、

ハッ、白パン風情が!と返しておいた。

あの時の真っ赤になった桃華條の表情は、俺の心のアルバムの274ページに記憶しておこう。


ま、こんな感じで、とりあえず。

資料を届けるという用事は終了ー。




ということは、




「やっと、帰ってサスペンスが見れる!」


俺は今日、帰ってサスペンスを見るんだよ!!

自分の意思でな。


よし帰ろう。

もう学校に予定は無いし、さっさと帰ろう。それに、気づけばサスペンスの時間まで、時間は迫っている。

今からゆっくり帰っても余裕だろうけど。


等と考えてつつ、

俺は下駄箱から外靴を取り出した。


瞬間だった。


『あー、緊急連絡。緊急連絡。』


そんな放送が俺の耳に聞こえた。


というか、優香の声だ!


いや、そんなはずあるまい。

恐らく優香に声が似た誰かさんだろう。


『あー、聞こえる一和?』


「本人かよ!!」


しまった、思わずツッコミを入れてしまった。放送に対して。


『黒崎一和君。黒崎一和君。この放送が聞こえているなら、至急。屋上に来なさい。至急、屋上に来い!』


最後、強制命令になっとる。

というか、屋上に来い。だと?

一体どういうわけだ。


それにしても、一生徒の分際で、放送をジャックするなよ幼なじみ。

おい桃華條。あれがお前の言う粛正しないといけない存在って奴だぞ。


「はぁ、屋上か。」


俺はため息をついた。


突然の幼なじみからのラブコール。とはいえ、愛など全く感じない、軍事命令の様なものだったが。

しょうがない、屋上に行って、


やるわけがないだろ!


「すまんな、優香。今日の俺は、帰ってサスペンスを見る事を強いられているんだ!!」


だから、放送なんて無視無視。

呼び出し?知るかぼけー。


そう言いつつ、俺は外靴に履き替える。

が、




『今、靴を外靴に履き替えた、そこの男。至急、屋上に来なさい。』




え、見られてる!?


「那奈夜優香、きさま、見ているな!」


斜め横を見ると、壁際に監視カメラが。そういえば、この学園、セキュリティに特化した学園だったな。

それにしても、俺の居場所とか行動も把握しているだなんて、本当に厄介な幼なじみだ。


『まさか、帰る気じゃないでしょうね一和。』


勿論帰る気ですよ、優香殿。


『言っておくけど、帰ったら死刑よ。もしくは――』




もしくは?




『――死刑。』



「どっちみち死刑かよ!」


『うるさい早く来い!!』


「逆ギレ!?」


おーっと、いかんいかん。

また優香のパターンに呑まれとる。さっさと帰らねば。


『本当に帰るのね、……』


落胆した優香の声がスピーカーを通して聞こえる。

寂しそうな声だった。

が、

俺はさっさと、玄関口から出る。




『こうなれば、――』




放送が外に出ても聞こえる。

こうなれば、って、いい加減諦めろよ。


そう思っていたのだが、




『実力行使もやむを得ないようね。』




ん?

実力行使?

いま、とんでもなく聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたが、


と、

危機感を感じた。

その時だった。




プス。



「え?」


首に何かが突き刺さった。




「……吹き矢?」


抜いてみると、どうみても吹き矢。

しかも先に、注射針の様な…モノ…が、


「て、…てめぇは」


何だ、意識…が。


「…こ、…コナン、……かよ…」


バタン。

俺の身体は地面に崩れ、


俺は意識を失った。











「――ハッ、ここはどこだ?」







目が覚めた。

と、同時に瞼に映り込んできたのは眩しい程の光。


『ようやく目が覚めた様ね、一和。』


と、眩しさに瞼を細める俺の頭上から声。

どう考えても、


「優香!」


俺の幼なじみです。


そこで、いま俺が何処にいるのかが分かった。辺りを見渡す。


「ここは、屋上か。」


そして優香は、何故か給水タンクの上でこちらを見下ろしていた。

どうでもいいが、タイツ越しにパンツ見えとる。


「おい、優香!お前、吹き矢はいかんだろ、吹き矢は!」


「大丈夫よ、特に危険性は無いハズだから。」


そういう問題じゃない!


「それよりも、一和、」


優香がこちらを見下ろして、俺の身体を指差す。

何だ?


「自分が今どういう状況なのか、把握したほうが良いわよ?」


「――どういう事、、な!」


そう言われ、俺は自分の身体を見る。

が、手は手錠で屋上の柱に結ばれ、身体は網でぐるぐる巻き。


「これでもう逃がさないわよ。」


すげー、俺を帰さない為にここまで周到にやる人間を初めてみた。

こりゃ、逃げる事もままならないだろう。

はぁ、

とため息をつく。



「で、」



俺は優香に語りかける。


「何で、俺をここに呼んだんだよ。」


全く、意味不明な幼なじみの行動。


「そうね、教えてあげるわ。黙って聞きなさい。」


黙って聞けって、俺この状態だから黙って聞かざる得ないんだけどね。



優香が、給水タンクの上で俺を見下ろして喋り出す。

あいつのパンツは黒です大佐殿。


「今日から、新しい学園生活が始まったわ。」


あぁ、そうね。

けど、君のせいで初日からめちゃくちゃだけどね。


「それにともなって、私は思ったわ。」


何を?


「どうにかして、学園生活を楽しめないか。と」


厄介な。


「そして私は考えた。」





バッ、と優香が此方を見る。

その時、優香の服が、髪が翻る。優香は俺を見ていた。


その瞳は何を考えて、


何を、何処を、思って見ているのか。

しかし、

優香の瞳は、ただ、ただ。

輝いていた。


だからこそ、俺はそんな優香の目を、見つめかえしてしまうのだろう。


気をとられる俺を優香は、しっかり見つめ。


言った。





「部活を作るわよ!」





そんな言葉を。





「そうね名称は、」





那奈夜優香は言葉を吐き出す。





『リト○バスターズ!!!!』






名称は放っておいて、部活を作る。


そんな優香のはり上げた言葉を、俺は黙って聞いた。

一体、何を言い出すんだろうか。等と思っていたが、


コイツはいつもこうだ。


いきなり突拍子も無い事を言う。


だからいつもいつも、俺は巻き込まれ。

酷い目に合い。


楽しませてくれる。



本当に、何て言うか。

「厄介な」やつだよ、全く。



優香に聞きたい。


お前は何の為に、そんな行動をとるのか。

お前は誰の為に、そんな行動をとるのか。




とりあえず、

また優香が変な事を考えてくれたお陰で、明日からの学園生活が、

一風変わった学園生活になりそうだ。



等と、考えながら、



また明日から忙しいな。と呟き、



俺は、



此方を見て笑みを浮かべる優香を一瞥しつつ、



あからさまに、




「全く、お前ってやつは。」

と、



ため息を。

ついた。









「それにしても優香さん。その、名称はもろもろダメだと思うぞ。……あと」


「何?」


「パンツ見え――ぐふっ!!!」


靴が飛んで来やがりました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ