風邪と料理人
翌日は喧騒で目を覚ました。出かける準備で忙しくしている者たちだろう。部屋の外で小走りに動きまわる音が聞こえた。
フェイも起きようとするが体が重くて起きあがれなかった。調子が悪いのか訝しがるが、すぐに理由が判明する。
「けほっ」
風邪であった。
意識すると余計につらくなったのか、呼吸が乱れはじめる。
アラキナが心配するだろう。どうしようかと悩む。せっかくの休日なのだ。なんとか誤魔化して、気にせず出かけてもらえないかと思案する。
しかし、考える間もなく扉を叩く音がした。
「フェイ、入るよ?」
「ど、どうぞー……」
部屋に入ってきたのはやはりアラキナだった。
「珍しく起きてるね、おはよう」
「おはようございます……アラキナ姉さん」
「私はもう行くけどってあれ、ちょっと顔赤くない、大丈夫?」
「え……!? そ、そんなことないと……思うですよ……?」
「やっぱりちょっと赤いと思うな。ほら、熱あるか見てあげるから」
「だ、大丈夫、大丈夫だよ……!」
フェイは隠す気のない嘘をつくが、嘘がばれるのも時間の問題だろう。
アラキナがフェイの額と、自分の額に手を当てて確かめはじめる。
「けほっ」
「…………」
「……けほっけほっ」
「……ねぇ、なんで顔そらすの?」
フェイは頭を掴まれアラキナのほうへと向けさせられた。
「そ、逸らしてないよ……ちょっと、首の運動をしただけ……だよ……」
「何で目を逸らすの?」
「…………」
「風邪、引いてるよね?」
「……はぃ」
フェイは観念し熱を測られた。ガラス管の中にある赤い線がかなり伸びており、それを見て顔をしかめるアラキナ。
「はぁ、結構熱があるじゃない。今日は出かけるのやめて看病かな」
「え……でも、せっかくの休日なんてすよ……?」
「心配でそれどころじゃないし仕方ないよ」
「でも、私に構わず行って来てほしいんです……」
「うーん……」
「お願いします……」
せっかくの休日のお出かけなのに、自分のためにやめてほしくない。
なぜ今なのか、風邪を引いてしまった自分が恨めしい。
「はぁ……仕方ないわね。ちゃんと大人しくしてるのよ?」
「はい……」
「じゃあ行ってくるわね」
アラキナは頭をなでると退室していった。おとなしくするように言われたフェイだったが、そもそもまともに動くことができない。
今日は何もできないかもと嘆息する。
しばらくすると喉が渇いた。そのとき、誰かが扉を開けて入ってきた。
「オーソンさん……」
「おう」
「なんでここに……?」
「アラキナにお前を見てろって頼まれたからな」
どうやらアラキナが頼んでいたようだった。だが、なぜオーソンなのか。そのことについてアラキナと話あいたいとフェイは思う。
「あの、ごめんなさい……」
「あ? 気にすんな、どうせ留守番組だ。それに報酬もあるしな」
最後まで聞き取れなかったが、問題がなさそうで少し安心した。
「何かしてほしいこととかあるか?」
オーソンがいると休まらないので、部屋から出ていってほしい。などと言えるはずもなく。
「近くにいると風邪をうつしちゃうかもなので、ずっとそばにいなくても大丈夫ですよ」
「大丈夫だ、俺は風邪を引かん」
「…………」
フェイはめげずに喉が渇いていたことを思い出す。
「お水、欲しいです……」
「はいよ」
水が注がれたコップ。フェイは差し出されたそれを見つめ続けた。起きあがることもできず、どうしたものかと考えるも時間だけが過ぎていく。
「…………」
「すみません……起きあがれないんです……」
オーソンが唖然とした表情で固まる。だが、起きあがれないものは仕方がない。できたら起きあがっている。しかし、オーソンは信じられないものを見たかのように驚いていた。
「風邪ってそんなつらいのか……?」
「つらいですよ。起きあがれないのは珍しいと、思いますけど……」
「そうか」
一言発するとフェイを起こし、コップを手わたしてくれた。
「ほら」
「ありがとう、ございます……」
オーソンは風邪を引いたことがないのだろうか。だとしたら羨ましいとフェイは思った。
どうしたら風邪を引かないのだろうか、オーソンを見ながら考えてみるがわからない。それに、ここまでまじまじと見たのは初めてかもしれない。
オーソンが目を逸らした。
「飯、まだだろ。何か適当に作ってきてやる」
言うや否や、部屋を出ていってしまう。フェイは崩れるようにして横たわった。
熱が上がってきたのか、先ほどよりも調子が悪い。視界が、体の感覚が回りはじめ吐き気が込みあげてくる。
息苦しいのか呼吸が浅くなりぐったりとする。
意識が混濁していくなか、アラキナとグリッティが心配するかもしれない。それだけが気がかりだった。




