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続・無能扱いで追放された俺が婚約破棄令嬢と手を組みました  作者: ハムカツ
~ドワーフ少女とリボルバー~
17/23

一回戦『アッシュvsリザードマンのトリケ』



「おぉっと! 一回戦第三試合の決着がついた! 若きドワーフのギギン! 壮年のドワーフのブブン! 二人の熱き戦いの結果は、ギギンの勝利! 武器が壊れても拳で殴りかかって勝利を掴み取ったファイティングスピリッツに拍手を!」



 血塗れのドワーフが勝鬨かちどきを上げる。眼鏡をかけてドワーフとしては貧弱なギギンと、壮年とはいえかつて冒険者だったブブンの勝負。賭けの倍率は後者の有利であったので、それなりの大番狂わせが発生した事になる。

 

 

「これは意外な結果だったな」


「うむ、妾も壮年のドワーフが勝つと踏んでいた」


「まぁギギンさんは怒ると怖いですからねぇ。気迫の勝利です」



 レイナ、アリア、ミミルが呑気な感想を漏らす。コロッセオの端に設置された控室とは名ばかりの日陰で、エール片手に鶏肉を食べている辺り。完全に観戦気分で楽しんでいた。

 


「おいおい、次はアッシュの出番だろ? 気合入れて応援するぞ」


「む、もうそこまで試合が進んだのか?」



 会場が片付けられ、シャツとラフなパンツを纏ったドワーフの少女達がリングに軽くモップをかけていく。割と流血量は多いが、ドワーフがメインな事もあり今だに死人は出ていないのが幸いだ。

 


「第3試合で相手は――」


「クケケケケケ! 俺様が、最強な事を証明してやるぅ!」



 会場に甲高い笑い声が響く。向い側の選手控えから、ギョロリとした瞳と赤い鱗が特徴的なリザードマンが三又槍を持って飛び出して来た。

 

 

「俺は赤鱗のトリケ! さぁ、相手は誰だ? 降伏するなら認めてやるぞ!」


「おおっと! こちらの紹介を待てずに第3試合の参加者が飛びだして来たぞ! 赤鱗のトリケといえば王都では名が知れた冒険者! 単純な戦闘力ならB級に匹敵する力自慢だ、そして対するは――」


「粋がるのは相手を見てからやった方がいい、格が下がるぜトリケ!」



 闘技場内に歓声が響く。アッシュは気負わないゆったりとした足取でリングに向かっていく。ウォーミングアップは万端で、誰から見ても文句のつけようがない仕上がりなのが見てとれる。

 

 

「アッシュ=グラウンド! アリア=フォン=バーナードの竜殺しに助太刀した、押しも押されぬB級冒険者! ゴーストキラーの二つ名は、リザードマンに通用するのか!?」



 魔術師ストークのアナウンスが会場と、リングで向かい合う二人のボルテージを上げていく。

 

 

「けっ! グレックの尻を追ってB級に上がっただけだろうが」


「テメェはそんなんだから、品が無くてB級に上がれねぇんだよ」



 トリケの挑発に、アッシュが激高しないか心配したが。どうやらさらりと流せる程度には大人だったらしい。時には悪口を聞き流すのも一流のあり方だ。

 


「ニャー、不味いニャ」


「お? 戻って来たかチャコ。俺のぶんのエールは?」


「あるけど、不味いニャ。アッシュは本気でブチ切れてるニャ……」



 ひょいと屋台を回って来たチャコからエールの入ったコップと、つまみの揚げ芋を受け取るが。彼女は心ここにあらずでリングの方に心配そうな目線を向け続けている。

 

 

「妾には冷静に見えるのだが?」


「いや、チャコの言う通り。アッシュは凄く怒ってるな」



 アリアも俺と同じく分からないようだが。レイナもアッシュが半分キレていると判断したらしい。今頃宿でゴロゴロしているであろう黒衣の魔女ならどう判断するのかと益体もない事を考える。

 

 

「それでは、試合開始ィ!」



 ストークのアナウンスと同時に横に待機していたドワーフがゴングを鳴らす。魔法を使うことなくコロッセオに金音が響き渡った。

 

 

「クケケケケ!お前を倒して! 等級が強さではない事を示してヤルゥ!」



 先手を取ったのはトリケだ。リーチに優れる三又槍で一気にアッシュの剣を狙う。奴もこの大会で無意味に致命傷を狙っていかない程度には理性があるらしい。やや言動に非礼さがあるが荒っぽい仕事をやるなら許容範囲と言える範疇だ。



「ったりめぇだ、冒険者の等級はどれだけ依頼を遂行出来るかの指標だぞ?」



 リザードマンの体格は人間よりも一回り上だ、瞬発的な筋力も優れている。その状態で長物を振るえば一方的に倒せてしまえるだろう。何度か共に依頼をこなした事があるがその辺の賊程度なら軽く薙ぎ倒せるだけの腕力を持っているのだ。

 

 だがアッシュ=グラウンドはそれを見切って回避する。柄を左手で払いつつ、体を捻ってそのままトリケの姿勢を崩す。

 

 

「チィ! 小癪な!」


「動きが大ざっぱで、相手の技量を考えず、いつも同じ技を使うから――」


「おおっと、トリケの必殺の一撃を、軽く左手でいなし体勢を崩して来た!」



 そしてアッシュは顔の横に持ちあげた剣を左から右に振るう。アリアと比べれは一段劣るが、奴も貴族の血を引いている。単純な腕力でもそれこそ並のドワーフやリザードマンと互角にやり合える。

 

 アッシュが振るった剣の腹が、トリケの頭を強く殴りつけた。



「グェェェ!?」


「だいたい攻撃が大振りなんだよ、もっと小技を使え!」



 トリケがバランスを崩した上で、ふらふらになった所に更に追い討ちでアッシュは蹴りを入れる。トリケも決して弱い訳ではないのだが、相手を殺さないように手加減した結果。想像以上に本来の持ち味を出せずに一方的にやられている。

 

 アッシュの放った膝蹴りがトリケの腹に命中し、文字通りの意味で吹き飛ばす。自分の倍近い重さがある相手をああも綺麗に蹴り飛ばせるのは。アッシュの恵まれた体格と、文字通り血をにじませた鍛錬が組み合わさってのことだ。

 


「おお! 王都で名高い冒険者同士の対決を制したのはアッシュ=グラウンド! 赤鱗のトリケを見事にノックアウト!」



 鮮やかな勝利にコロッセオに詰めかけた観客たちから、惜しみない称賛が注がれる。

 

 

「トリケ、俺に対する侮辱は聞き逃してやるが。あとでしっかりオッサンに頭を下げろ。あのオッサンがケツを捧げた程度で贔屓するような事はねぇ! あいつが評価するのは結果と冒険だからな!」



「なぁ、グレック」


「どうした、アリア」



 エールを飲みながら、アリアがこちらに金髪碧眼の顔を向ける。年の割に大人びた表情にドキリとしてしまうが。たぶん、おそらく、ちゃんと、変にときめいてしまった事は隠せているだろう。

 

 

「随分とアッシュは、貴公の事が好きなのだな」


「あいつは名誉と契約を重んじているんだ」



 そうアッシュは途轍もなく義理堅い。俺と仲違いしていた時期も、直接的に名誉を傷つける事はしなかったし。そういう意味でフェアな男だ。

 


「……なんというか、グレック。貴公は鈍感だと言われないか?」


「そうか? 俺自身気が利く方だと思ってるんだが?」



 アリアは俺の返事に分かりやすい苦笑いを返した。実際自分では気が利く方だと思っているのは事実だが、どうもよくこの手の話題ではこんな風に微妙な反応をされる事が多い。

 

 まぁだからといってどうする事も出来ない。俺はこちらに向かってくるアッシュと、それを迎えるチャコのじゃれ合いを、微笑ましく見守るのであった。

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