10日目、コロッセオにて
「グレック、これはなんだ?」
「なんだって、そりゃ。見ての通り闘技大会だが?」
コロッセオを埋め尽くす、人間、ドワーフ、ドワーフ、ちょっとエルフとリザードマン、オマケに所々獣人。王都のそれと比べれば一回り小さいが、千を超え万に迫る種族が揃っている絵面はエネルギーに満ち溢れている。
誰も彼もが、酒を、串肉を、パンを、そして胴元から買った札を握りしめ。思い思いに自分が賭けた選手に声援を飛ばしている。所詮は予選、4戦同時に進行する程度の試合なのだが。だからこそ賭けの対象としては面白い。
「それは分かる、分かるのだが――」
「そもそも、どうしてこうなったのか分からないです」
アリアだけでなく、ミミルも状況を理解出来ていないようだ。一応ちゃんと説明していたつもりだったのだが。どうやら足りていなかったらしい。
「ようするにだ、ミミル。お前さんが男のドワーフと互角に戦えると証明すれば。毎回喧嘩売って来る連中は減るってのは分かるな?」
「まぁ…… ちゃんと実力を見せれば、実力が見たくて襲って来る連中は減るけど」
だからこその闘技大会。種族不問、本線での武器不問、1チーム5人によるトーナメント。出場は1人1試合制限で総合力が求められる内容に仕上げている。ここで活躍すればその実力は自治領中に知れ渡る事になるのは間違いない。
「そもそも妾達が知りたいのは、どんな手管でこの大会を開いたのかだ」
「ちょっと上の方にかけあってな」
実際、親方集も俺の誘いに乗ってくれた。闘技大会ともなれば大きな金が動く、選手の公募も血の気が多く、戦士としての実力があるドワーフ達なら問題なし。ついでに武器を買いに来た他種族も混ざって来ることを考えれば、盛り上がりには充分期待出来る。
「つまりだ、このオッサンは依頼者の問題を片付けるついでに。ここに広がってる閉塞感をふっ飛ばそうとしてるんだろう? ついでに金も稼ぐって魂胆があるのかもしれんが」
「よう、アッシュ。予選は突破出来たか?」
4つ並んだ闘技場の外に作られた、選手控室にプレートアーマーを纏ったアッシュがやって来た。横目で見る限り結構派手な試合をしていたのだが。呼吸は全く乱れていない、こういう所は素直に羨ましい。若さとしっかりとした体力づくりの賜物である。
「当たり前だろう、つーか俺達が勝てる様に組み合わせ弄ってないだろうな?」
「弄ってねぇさ、盛り上がる組み合わせが出たら派手に演出はするつもりだったが」
「ったく、ほんとそういう所は抜け目ねぇな」
ニャっと差し出された氷が入ったレモネードを受け取りつつ、目線で礼を返し。アッシュは一気にそれを飲み干した。俺がやるとオッサン臭いが、こいつがやると妙に絵になるのが羨ましい。
「しかし、アッシュ。お前ならもう少し手早く倒せたのでは?」
「え? いや結構ギリギリの感じの戦いでしたよね!?」
「演技だよ演技、見世物って側面もある。多少芝居気を出した方が良いんだよ」
こういう人目を集めることをやらせると、アッシュはそつなくこなす。実際彼の実力ならそれこそ並のドワーフ相手でも一発で勝てるのだが。そこで切り合いや、打ち合いを演出し、ギリギリの勝利を演出する小技も使いこなしてくれるのだ。
「つーか、仕方ないとはいえ。オッサンはチームじゃねぇんだよな」
「え? グレックさん、私のチームじゃないんですか?」
「一応、半分位企画側だからな」
まぁ、ここで俺がチームに入るのもドワーフの連中なら笑って許してくれるのかもしれないが。自分が開いた大会で、自分が優勝するというのもバツが悪い。自分のパーティメンバーが優勝するならまだこう、ギリギリ面目が立つという奴だ。
「メンバーは、ミミル、チャコ、アリア、私。そしてアッシュだな」
レイナがチャコにメモを指示しながら、チーム編成を読み上げる。
「む? レイナ、その順番はなんだ?」
「闘技場での戦いに向いているかどうかの順番で並べてみた」
確かに、と俺は心の中で納得する。本質的に職人であるミミル、本職はスカウトのチャコ、まだまだ経験の足りないアリア、長命種としての人生を二刀流に捧げたレイナ。そして心技体の全てが高水準に纏まったアッシュ。一対一の戦いで強さを並べるなら俺もそう評価を下す。
「うう、仕方ないとはいえ。私が一番下ですよねぇ」
「ニャニャ、一応専業冒険者だからニャ」
しょんぼりするミミルと、それを慰めるチャコ。背の高さは同じ位だが。しっかりした肉付きのミミルと比べると、チャコはほっそりとして少女然としている。背の低い女性と少女の違いと言えば分かりやすいか。
「まぁ、兎に角妾達は優勝を目指せばいいのだな?」
「……アッシュ、アリアにこういう時の戦い方を教えてやってくれ」
「……報酬に金貨1枚追加だからな? オッサン」
単純なパワーなら、竜に通じるアリアも。やはり冒険者として、戦士としては経験不足は否めない。そういう意味では今回の闘技大会は彼女にとってもいい経験になるだろう。
(さて、ある意味これも冒険だ。その裏側で色々と事を進めるのを含めてな)
この大会でミミルのリボルバーを分かりやすく世に知らしめるのは勿論。出来れば彼女のチームを勝たせて、ついでにこの街に広がっている問題を片付けられれば最高だ。当然そこまで上手くいくとは限らないが。
だからこそ、試してみるのが面白い。




