第903話、十二騎士選抜大会
教官としてアポリト浮遊島に滞在している俺は、唐突に『男爵』の爵位を授かった。
何でも、女王陛下の暗殺未遂を阻止したことと、アポリト軍に魔法指導した貢献が認められたのだそうだ。
正式な式典は後日になるらしいが、アポリト浮遊島全土のニュースとして、俺が男爵になったことが伝わったらしい。改めて、有名人になっていたことを感じたね。
さて、それはそれとして、ついにあの日が来た。
欠員補充を兼ねたアポリト軍十二騎士の選抜大会。
今の最強騎士十二人を決める大会であり、要するに戦闘技術を競って上位入賞しましょうって話だ。
よそ者の俺も、ちゃっかりエントリーされているので、今さら参加していいものかどうかなど悩むことはしない。名目上、アポリトのナンバー2であるタルギア大公のお墨付きだから、文句もあるまい。
いつまでこの時代に留まるのかはわからないが、十二騎士の上位にでもなれば、アポリト軍の機密に触れることもできるし、かなり自由に行動できるようになる。魔法文明兵器、とくに魔神機などの情報を持ち帰るためにも利用しよう。
俺のもとで、魔法を教わった騎士たちも明日の十二騎士を夢見て参加する。ブルやレオス、クルフなどなど。彼らは短期間とはいえ、魔法関係の能力はかなり上がっている。
まずは予選として、参加者は八つのグループに分けられる。その予選で総当たりの試合を行い、予選グループの優勝者が決勝リーグに駒を進める。それで現職十二騎士のうち六名も交えた十四名で勝負し、上位九名までに入れば、十二騎士になれる。
なお、騎士団長と白騎士、黒騎士の三名は固定なので、大会には出場しない。
「よし、皆、うまい具合に予選グループがバラけたな!」
予選の名簿を見ながら、ブルが相好を崩した。
「もし、ジンと同じグループになったら、勝てないからな!」
「まったくだ」
と同意したのはレオス。一方、俺の従騎士を務めているクルフは首を横に振った。
「こういうのは同じグループがぶつからないように出来ているんだよ」
つまり、最初から予選でぶつかる可能性は低い。……いやいやクルフよ。
「俺が教えている騎士が二人ほど、俺と同じグループにいるんだが?」
「……」
その指摘に閉口するクルフ。ブルとレオスも、何か言いたげな目を向けた。
「……そういう傾向にある、ということです」
などと言い訳するクルフ君。まあ、人数の問題があるから、どうしても同じグループになることもあるさ。
「それじゃ、皆、決勝リーグで会おう!」
ブルが声を張り上げれば、普段から共に研鑽している仲間たちも『応っ』と答えた。……友情!
そんなわけで、まずは予選だ。決勝リーグはアポリト浮遊島五番島にある円形闘技場にて、選抜大会は行われる。
が、予選は各島の演習場やら広場やらで実施される。騎士たちの憧れの舞台だが、同時に島民たちのお祭りでもあるようで、会場には客席が設けられ、さらに露店がその周りで商売をやっている。
意外なことに、アポリト浮遊島文明にはモニターがあって、テレビ的中継なども行われている。さすが超古代文明。
会場近くの大モニターには他会場の中継なども映されていて、入れない人の立ち見などで、ごった返していた。
俺は予選八番グループに入っていた。予選は八名で争われる。よって七戦全勝すれば、文句なしに優勝だ。
「――青、ジン・アミウール!」
コールされたので、円形のリングの上に飛び乗る。続いて対戦相手が現れる。
「赤、ジャック・ライダー!」
大剣使いだ。タイプとしてはブルに近いか。
「それでは、始め!」
審判員が宣言し、客席から歓声が上がった。
ルールは一体一で戦闘。相手を気絶させるか、ギブアップさせれば勝ちだ。
ジャック・ライダーが大剣を振り上げ、突っ込んできた。
彼の持っている武器は、刃のない演習用のものだ。これは相手に当てると衝撃が伝わるようになっている。殺さない程度に落とされているとはいえ、打撃が強い場合、伝わる衝撃も強くなり、人ひとり吹っ飛ばすことも可能だ。
参加者は頭部を守る額当てを装備。俺もそれを身につけている。
手に魔力の層を張る。上段から振り下ろされた一撃は、いかに演習用とか、防御魔法付きの額当てでも、頭に当たれば気絶ものだろう。
……ま、当たらないけどね。
俺は振り下ろされた大剣の横を手で弾き、斬撃を逸らす。床に剣がぶつかり、俺の腕の前に、ジャック・ライダーの顔があった。
「吹っ飛べ!」
衝撃波の魔法を顔面にぶち当てれば、ジャック・ライダーはリング外へ飛んでいった。
魔法に関しては、使用する魔法は自由。だが、相手を殺さないように加減をすることがルールとして課せられる。
火傷や骨折などは治癒魔法で治せるので、その程度のダメージはオーケー。即死級の攻撃魔法はアウト、ということだ。
「ジャック・ライダー、気絶! 勝者、青、ジン・アミウール!」
審判員が手を上げ、観客たちからどよめきが上がった。開始から十秒くらいかな。ま、こんなものだろう。
・ ・ ・
控え室にも他方の予選の放送が映っていたので見たところ、ブルたち三人もそれぞれ勝ち進んでいるようだ。
その日のうちに、どんどん予選が進行する。ちょっと観ていたら、俺の次の試合がきて、会場へ出る。
「せんせー、ガンバレー!」
客席からグレーニャ・エルの声が聞こえた。見ればハルも一緒だった。先生のかっこいいところ、見せましょう!
相手は片手斧をそれぞれの手に持った戦士。試合開始と共に、無詠唱魔法で加速したのは、ちょっと驚いたが……残念、遅いね。
手にまとわせた魔力の層が、戦士の手からそれぞれの斧を吹っ飛ばし、瞬きの間に右手で相手の顔をつかむと、そのまま床に叩きつけた。
『おおっー!!』
観客たちの声が上がった時、審判員が相手の気絶を見やり俺の勝利を宣言した。
「せんせー、スゲー! 瞬殺だー!」
グレーニャ・エルが客席ではしゃいでいた。当然ね、と言ったのだろう。ハルはすました顔である。
悪いね、一日で予選全部消化する大会だから、体力温存のためにもさっさと終わらせておくのが一番なんだ。
そんな調子で予選は進み、すでに優勝不可能と見た者が試合放棄をしたりして、サクサクと消化していった。
他の会場では、実力が拮抗し泥仕合を演じた結果、テンポの早くなった後半戦でバテてしまうなどの展開もあって、優勝争いから目が離せない展開になっているところもあった。
なお、俺の予選八番グループは、俺がひとり全勝してしまっていて、ただの消化試合と化していた。
予選日がすべて終わった時、俺は全勝で決勝リーグに出場を決めた。レオスとクルフも勝ち上がったが、ブルはその予選グループで二位と決勝リーグへ行くことができなかった。
ブルさん、落ちたん……?




