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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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884/2039

第876話、魔力消失装置


 眠り姫――正しくは、眠れる森の美女、スリーピング・ビューティーだっけか。


 原作は童話だったか。呪いか何かで眠り続けるお姫様に王子様がキスして目覚めて、めでたしめでたし……だったような気がする。


 あちらの童話は、イケメンがキスして問題解決、ハッピーエンドって展開が多い気がするのは気のせいだろうか?


 アリエス浮遊島の医療施設に収容されている銀髪――かなり白に近いが銀髪の少女。古代魔法文明時代の生き残りかもしれない、こちらのお嬢さんは相変わらず眠り姫を気取っていらっしゃる。


「ずいぶんとお寝坊さんだな」

「ベルさん、言うなって」


 俺とベルさん、アーリィー、サキリスは、SS兵に護送される451……青エルフちゃんを連れて、件の少女を見てもらった。


 ガラス越しで室内のベッドに横たわる銀髪の眠り姫を見てもらう。ちなみに、彼女が着ていたスーツは洗浄して、近くに引っ掛けてある。銀髪少女は患者用のガウン姿である。


「それで、お前さんはアレを知っているな?」


 ベルさんが重々しく青エルフちゃんに問うた。一見、少し威圧しているようだが、おそらく魔王の殺気込みの尋問魔法で、向けられている当人は失禁ものの恐怖を感じているだろう。……何故わかるかって? 青エルフちゃん、めちゃガクブルしてるもん。


「あ、あれは、反乱者だと、思い、ます……」


 弱々しく言いながら、青エルフちゃんは視線を逸らした。


「反乱者?」


 聞けば、魔法文明時代の支配者たる天上人に対して、一部の天上人や地上人が反乱を起こしていたらしい。いつの時代にも、そういう争いはあったということだな。


 青エルフちゃんが脳に刷り込まれた記録によれば、銀髪の眠り姫のスーツは、その反乱者の魔人機操縦者のパイロットスーツのインナーっぽい、らしい。


 ……そういうのも記憶に覚えさせる技術とか、魔法文明の技術、マジやばいな。睡眠学習みたいなものだろうか。


 他にめぼしい情報はなさそうなので、SS兵に青エルフちゃんを連れていってもらう。そこからさらに魔法文明や帝国の尋問だよ、おたっしゃでー。


 残った俺たちは医療室に入る。音を立てたら目覚めてくれないかな、と思うがそんなこともなく、呼吸はしているのだが、それ以外の反応は皆無だった。


「いっそ、キスしたら目覚めたりしないかね」

「お前は、何を言ってるんだ?」


 ベルさんが真顔で言った。アーリィーとサキリスも俺に冷めた目を向けてきた。……俺の世界の童話での伝統的な美女救命法だぞ! とは、さすがに口に出しては言えない。


「反乱者か……」

「急に真面目ぶっても駄目だぞ」


 おいおい、ベルさん、そりゃないよ。


「俺はいつだって真面目だぞ」

「こいてろ。で、どうする? そろそろ強制的に起こすか?」

「できるの?」

「水でもぶっかければいいんじゃね?」

「却下だ」


 そんなんで一万年以上の眠りから覚めるのかね。……って考えたら、この子、あの時代からよく生きて残っていたな。普通ならとっくに寿命でミイラかガイコツだろうに。


 アーリィーがカルテとSS諜報部の資料を手にとった。


「ええっと……彼女が入っていたカプセルが一種のコールドスリープ装置だったみたいだね。ただその装置の本命は――」

「アーリィー様……?」


 サキリスが固まってしまったアーリィーを見る。王女様は資料から顔を上げた。


「これ本当?」

「何ですか?」


 サキリスもそれを覗き込み、声に出す。


「え……魔力消失装置?」

「そ、あの魔力消失空間の原因」


 あの遺跡からSS調査隊が回収した装置を解析した結果、あの眠り姫の装置は魔力消失空間を発生させるものだと判明した。


 少女は生体電池のようなもので、永久的に魔力を生み出し、その魔力で装置は彼女を延命させつつ、魔力消失装置を稼働させ、あの一定範囲内の魔力を消失させていたのだ。


「何だってそんな装置を……」


 アーリィーが沈痛な表情になる。装置に組み込まれ、その部品のようにされていた少女――その境遇に、深く同情の念を抱いたのだろう。


「それは俺にもわからないが……さっきの反乱者の、って話で、何となく推察できるんじゃないかな」


 つまりこうだ。天上人支配に反旗を翻した者たちが、天上人の兵器を無力化させるために魔力消失装置を作った。


 彼らの使う戦闘機などは、外部から魔力を取り入れることで動いていて、燃料タンク的なものが存在しないから、魔力消失空間ではあっという間に行動不能になるのだ。


「状況証拠になるんだが、あの装置が置かれていた部屋、正確には古代文明遺跡じゃなかったんだ。改造型クルーザーの艦内のようで、あれで遺跡内に突っ込んだようなんだ」


 リーレや橿原(かしはら)も、少女を保護する前に通った通路が、軍艦の中のようだという感想を抱き、また戦闘跡もしっかり見ていた。


 それらの証言も併せれば、天上人テリトリーに魔力消失装置搭載のクルーザーで突撃した、という推論が成り立つ。


「じゃあよう、ジン。帝国は魔法文明兵器を主力に据えてきた」


 ベルさんが言った。


「この魔力消失空間を生み出す装置を量産したら、こっちが有利になるってことだな」

「そうだね。解析は進めていて、その生産が可能かも検討中だ」


 魔神機や魔人機のこともある。魔力消失装置が使えれば、これからの戦闘に一石を投じることになる。


 ただ、それこちらも魔法が使えなくなることを意味するから、機械兵器への比重が高まることになるだろう。俺みたいな魔術師も武器に工夫が必要になる。


「待って、ジン」


 アーリィーがヒスイ色の目を険しくさせた。


「装置を量産って、まさか、中に人を組み込むつもりじゃ……」

「は? いや、さすがにそれは俺はしないよ」


 眠り続けている銀髪少女を見やり、その手を握る。確かに血の流れは感じられる。生きている人間を、部品とするなんて、アンバンサーじゃあるまいし。


「半永久的に稼働させるわけじゃないし、一定時間使用するなら魔力燃料タンクでも積めば解決する話だ」

「そ、そうだよね。よかった……」


 胸をなで下ろすアーリィー。サキリスは何か言いたげな顔をしているか、言葉には出さなかった。


「――お前、いま自分なら装置の生体燃料になってもいい、とか思ったか?」


 ベルさんが、サキリスを睨む。元令嬢のメイドは「い、いえ」とぎこちなく顔を背けた。……このドMめ。思ってやがったな!


 やれやれ、だ。俺は、子供の回復を祈る親のように、少女の手を通して元気になるよう念を送って手を離した。……離した――?


 え、あれ、離れない?


 俺は困惑する。「ジン?」とベルさんが怪訝な声を出し、アーリィーも気づいた。


「どうしたの?」

「手が……」


 眠っていた少女の眉がピクリと動いた。その反応にサキリスが驚き、場が騒然となった。


「まさか、目覚める!?」


 すっと、少女の瞼が開いた。金色の瞳――人の姿をしているが、どこか人形か、はたまたアンドロイドのようでもある銀髪少女が、二、三度またばきをした。


 そしてその視線が腕を伝って、手を握ったままの俺へと届いた。


 目と目が合う。彼女の目が潤み、表情が動く。目覚めたら見知らぬ男に手を握られていたら、そりゃ動揺もするだろう。早く手を振りほどかないと――


「お、とう、さん……」


 その唇から、か細く紡がれた可愛らしい声。……はい、お父、さん?


 次の瞬間、俺は少女に抱きつかれていた。え、何、何が起こったの!?


 動揺したのは俺のほうだった。

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