第718話、準備と交渉
ノイ・アーベントに冒険者ギルドができた。本格スタートに向けて、ラスィアにその準備を任せる。
王都冒険者ギルドで働いていた彼女だけあって、何が必要なのかは熟知している。俺のように、ギルドで依頼を受けていた人間にはわからないことも、彼女なら問題なくこなしてくれる。
「頼りにしている」
「ご褒美をくださいね、ジン様」
ダークエルフの美女は、そう色目をつかってくるのだ。俺のところで副官やるようになってから、時々アピールされる。まあ、そういう時はきちんと可愛がってあげるんだけどね。
ギルドのスタッフは当然の如く、シェイプシフターたちが担う。美人の受付嬢も、冒険者にも劣らぬ屈強なスタッフも、自在になれるのが強みではある。個々に事務も戦闘も、その他作業もこなせるのが頼りになる。高ランクならともかく、低ランク冒険者より強いスタッフたちだ。
さて、トキトモ領南の荒野に作った補給拠点、通称『ポイント・エーデ』の運営に向け、準備を進める俺たち。
ノイ・アーベントとポイント・エーデ間は、すでに街道があるのでルートは問題ない。ウィリディス軍のバイカースカウトが街道警備にパトロールをしているので、道中も比較的危険が少ない。
で、双方の移動に用いる車両群の整備にかかる。
ウィリディスでは、簡易量産艦計画を立ち上げているが、これに並行して廉価兵器製造計画も進めていた。航空機だったりアーマードソルジャーだったり車両だったりするのだが、その副産物である装甲車両を流用する。
デゼルト型魔法装甲車をベースに、低ランク魔石で動くようにし、安価な部品と簡略化で、製造コストの削減を図った代物だ。何故、装甲車ベースなのかと言えば、しつこいが魔獣や賊対策である。
で、この装甲車は、言ってみればタクシーだ。ノイ・アーベントからポイント・エーデを移動する際に低料金で運ぶ。
もしポイント・エーデでキャンプが嫌とか言うなら、ノイ・アーベントに戻って、そこで宿をとる、なんてこともできるわけだ。
一般人はポイント・エーデに行かないだろうが、商人たちが利用する可能性はある。大荷物に備えて、装甲車に荷物輸送用の台車もつけられるようにしておくか。
問題は、どれくらいの客がこの装甲タクシーを利用するか、だ。まあ、多めに用意して余るようなら、他に回そう。
というのも、クレニエール侯爵にポイント・エーデの設置の件を報告して、その他運営の話をしたら、装甲車をぜひ取り入れたいと購入要請がきたのだ。
普通に兵員輸送車として欲しいようだったけどね。クレニエール本領から西領への移動や往復を考えたら、魔法車は需要あるよなそりゃ。ノベルシオンとの衝突が近いだろうから余計にだ。やっといてよかった廉価兵器製造計画。
時代の流れを無視するような近代の産物をどんどん出しているのは、ある意味どうなのかと思うこともある。が、すでに戦車や航空機を配備する云々で進めているのだ。車程度どうってことないと思えてきた。
ま、古代文明時代の遺産を発掘して使うこともある。それを思えば気にするだけ無駄かもしれない。
クレニエール侯爵にも話を通したので、いよいよSランク冒険者、ヴォード氏にご登場願おう。
……の、前にエマン王に王国東部領の防衛と開拓の件を報告する。ウィリディス白亜屋敷で、アーリィーの姉サーレ姫とお茶の時間を過ごしていた王と面談。相変わらず、サーレ様はお美しい。さすがアーリィーのお姉さん。
と、それはともかく、エマン王にクレニエール侯爵の方針に理解を示していただいた上で、Sランク冒険者のトキトモ領への引き抜きを相談。
国王陛下のお答えは――。
『東部領の防衛に繋がるのだから、構わん』
ご了承いただけた。感謝します、王よ。
では次に王都冒険者ギルドへポータルジャンプ! 冒険者ギルドに顔を見せたら、トゥルペさんとかマロンさんから笑顔の歓待を受けた。お土産あるから皆で食べてね。
現ギルド長のクローガと面談。最近どう、という世間話から、ヴェリラルド王国とディグラートル大帝国の戦争の様子など。当たり障りのない程度の戦況説明の後、俺は本題を切り出した。
「ヴォードさんをトキトモ領の冒険者ギルドに?」
「クレニエール侯爵と話し合ってね。旧トレーム領の再開発を前に大がかりな魔獣討伐に冒険者たちを使おうってことになった。ついでは、ギルマス経験者のヴォードさんを当てたい」
「君がギルマスをやればいいんじゃないかな、侯爵殿?」
「戦争がなければ、それもよかったんだけどね」
「なるほど」
好青年を絵に描いたような冒険者であるクローガは、肩をすくめた。
「ヴォードさんも、一度トキトモ領に行きたいと言っていた。そちらで扱っている魔法具の噂は聞いてるよ」
「噂ね。……おかげでノイ・アーベントには、色んなところから冒険者がやってきているよ」
「おれもギルマスじゃなけりゃ、そっちへ行きたかったんだけどね」
クローガが悪戯っ子めいた顔になった。今のは本音かな? だとしたら、お互いにままならないね。
「了解した。侯爵閣下の要請だ。こちらも最近、魔獣関連の話題も少なくて余裕がある。ヴォードさんがいいと言うなら、どうぞご自由に、だ」
「ありがとう、クローガ」
「いえいえ……。その代わり、こっちで問題が起きたら助けてくださいよ、侯爵閣下」
承知した。ひとつ貸しというやつだろう。
「それで、そのヴォードさんだけど――」
執務室の扉がノックされる。やってきたのはマロンさん。
「失礼します、マスター。ヴォードさんが見えられています。その、ジン様がいるのでは、と聞かれて」
「何てタイミングがいい」
「どうして俺がいるのがわかったのかな?」
クローガと顔を見合わせていると、マロンさんが申し訳なさそうに言った。
「その、ジン様がお持ちくださったウィリディス土産を食べているのを見られて、それで――」
「俺が来ていると察したか」
「お通ししろ」
苦笑する俺たち。マロンさんが下がり、少しして前王都冒険者ギルドのマスター、ヴォード氏が現れた。
「よう、ジン。久しぶりだな!」
「ご無沙汰しています、ヴォードさん」
熊のような体躯のヴォード氏。気のせいかな、ギルマスしていた頃より少し若く見えた。




