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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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721/1994

第717話、荒野の補給拠点


 ノイ・アーベントに冒険者ギルドを作る。そしてトキトモ領南に、冒険者ギルド支部と補給拠点ともいうべき集落を作る。


 砦ではないので、街道に隣接した平坦な土地をキャンプ地とすることにした。魔獣が徘徊するような世界だから、拠点には最低限の防壁は必要だ。

 やがて町となるかもしれないし、武装した盗賊団などに襲われても守れるようにしないといけないね。


 俺たちは魔法装甲車(デゼルト)に乗って候補地を確認。地図を作った時だが、偵察航空隊が測量を済ませているので、こっちは実際にそこに行くだけでよかった。


「……なーんもない荒野」


 ベルさんが俺の肩に乗り、呟いた。

 一応、東に目を向ければ地平線に大森林が見える。なお街道を挟んで西を望めば、南砦が小さいながらも見える。

 街道も、もう少し南へ行くとクレニエール領になる。領境で街道の質ががらりと変わるのはまあ、仕方ないね。


「ここでいいかな?」

「いいんじゃないかな」


 アーリィーが俺の隣にやってきて頷いた。振り返れば、黒髪の少女の姿をしたダンジョンコアが立っていた。


「ディーシー、半径百五十メートルの範囲をテリトリー化」

「ほいきた、主」


 ダンジョンコアが淡い光を放ち、周囲を支配下に収める。すっと、アーリィーが俺の手を握った。


「魔力のお裾分け」


 にこりと、さりげなく微笑むアーリィー。俺がダンジョンコアに魔力を与えて工事を行うので、その消費を補おうとしてくれるのだ。彼女は、魔力の泉という魔力回復の高い能力持ち。身体を接することで、俺の魔力吸収が働き、消費を補えるという寸法だ。

 ありがたい心遣い。こちらから言う前に気づいてくれるって嬉しい。


 補給拠点となる土地をテリトリーとした後、その範囲を取り囲む外壁を形成。石造りのそれは、魔獣や賊の侵入を防ぎ、中のものを守る。

 もっとも入念な準備をして攻城戦を仕掛けるような相手には、時間稼ぎにしかならないがね。冒険者がキャンプする際の防壁となれば、それでいい。


「でも、ここはそのうち町になるかもしれないんだよね?」


 アーリィーの言葉に、壁ができあがる光景を驚きの表情で見ていたパルツィ氏が頷いた。


「クレニエール東領への中間拠点ですからね。冒険者や旅人が多く通るとなれば、商人たちが集まって商売を始めるでしょう。露天で商売をするにしても、比較的安全な場所でやりたいですから」


 魔獣や賊に襲われるのは勘弁、ってやつだな。


「ノイ・アーベントで、この補給拠点のことを宣伝しないといけないな」

「冒険者たちにはノイ・アーベントでギルドを立ち上げれば伝わるでしょう。商人たちもそれを見逃さないと思いますよ」


 パルツィ氏が、ほぼ完成した石の防壁に感嘆する。


「私のほうからも、商人に声をかけておきます。何せ、ノイ・アーベントにいると、向こうから取引や飯の種探しにやってきますから」


 元王都商業ギルドのサブマスだったパルツィ氏である。そのあたりは彼に任せておこう。


「ただ、こういう土地への出張ですから、商品が割高になってしまう可能性が高いですね」


 本格的に町になり、流通が確保できればそうでもないけど、物が不足する土地や危険地帯では、ぼったくりも含めて品が高額になるのはよくある話だ。

 人の弱みに付け込む、というか、必要な品のためなら、たとえ高くても金を出さざるを得ないこともある。


 まあ、あまりに悪質な商人だと恨みを買うだろうけど、それは自業自得というものだろう。それに振り回される冒険者は気の毒ではあるのだが。


「……冒険者には特典をつけるか」

「トクテン?」

「何かおまけするのかい?」


 ベルさんが楽しげに聞いてきた。俺は苦笑する。


「クレニエール東領の調査と魔獣討伐依頼を受ける冒険者に、ギルドから割引券を配る」

「割引券、ですか……」


 パルツィ氏の表情が硬くなる。俺は続けた。


「食事とか武器メンテとか、消耗するものに対して。今回は、クレニエール東領に冒険者を送り込みたいわけだから、特典をつけてもいいと思うんだ」


 もちろん回数は制限する。真面目に仕事してくれる冒険者には、依頼達成時に、新しい値引きクーポン配るとかね。


「値引きされた商人たちへの補填は、どうします?」

「そうだな……。トキトモ領で割引分を出すか……そうだ」


 俺は閃いた。


「どうだろう。ノイ・アーベントとの間での荷物輸送を代行するとか。あるいはタダでノイ・アーベントとこことの移動をさせてあげるとか」

「と、言いますと?」


 パルツィ氏の目に強い関心が浮かぶ。


「実は、せっかく街道があるから、冒険者向けに移動サービスなんかどうだろうと思ったんだ」

「それは……」


 パルツィ氏だけでなく、アーリィーも目を丸くした。

 いわゆる乗合馬車とか辻馬車ってやつだな。


 ……そういえば、この世界じゃ、馬車はあれど、そういうの見たことないな。まだ、こっちにはないのかな。ありそうなのに、意外になかった……?


 ちょっと考えてみる。馬車というと王族とか貴族が使っているのは見た。あとは軍における物資輸送とか、商人たちが隊商を組んでいたり……。


 基本はまあ、徒歩だもんな。だからクレニエール東領関係のクエストの足として、魔法車を使った移動サービスなんて考えたんだけど。


「人を乗せて拠点間を移動するんだが……。そうだな、冒険者だけでなく、商人用に積み荷の運送も請け負ってもいいかもしれない」


 そういや、冒険者のクエストの中に荷物運びってのを昔やったな。そういう専門業者、実は未発達だったりするのではないか?

 俺がパルツィ氏を見ると、彼も何か期待するような目を向けていた。


「輸送の代行……。ウィリディスの魔法車は速いですから、品物が早く届くのは魅力的です。荷物を預けることに不安がある商人も、目的地まで早く、安全に移動できるというなら自分が移動するのに利用できますし……」


 ブツブツと何やら呟いているパルツィ氏。新しい商売の予感でも感じているのかもしれない。大規模輸送だと、今は軍隊関係が主流だもんな。大帝国じゃ、空中艦でそれをやっていたりするが、民間にはそういうのはまだ届かない領域だし。


 いっそ空輸便にも手を出すか。一部ではグリフォンとかに乗って偵察や伝令などやっているわけだし。ここで荷物を運ぶサービスを本格的に始めてもいいかもしれない。……民間ではないが、大帝国もやっているしな。


(あるじ)ーぃ!」


 おっと考えに没頭するあまり、作業が止まっていた。ディーシーにせっつかれ、俺は拠点作りに戻る。


 外壁で囲った後は、この拠点の管理施設を建てる。サキリス、いるかい? ……と、待機していた彼女に建築コアを持たせて、施設作りを手伝ってもらう。


 ラスィアとパルツィ氏が管理施設――冒険者ギルド支部や診療所、食事処などの入る建物について細部を詰める中、拠点の形を整えていく。


 最低限の施設と、魔力発電機、水道関連を整備し、警備隊の詰め所や監視塔を建てる。民家などについては、あくまで補給拠点なので当面は考えない。冒険者たちにはテントとかでキャンプしてもらう。

 ……とはいえ、金を払ってでも屋根のある場所に泊まりたいって連中用に、一応、宿も建てておくかな?

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