第619話、ディーシー、やらかす
ディーシーが来てくれ、というので、ベルさんと合流した俺とアーリィーは近衛の護衛のもと、浮遊島アリエスのD島へと向かった。
浮遊バイクに便乗。大帝国の四足魔獣兵器に踏み荒らされ、ほぼ平らになった平原を移動、本島とD島を繋ぐ橋を渡る。
「いったいどこに行くんだ?」
「内緒だ!」
とはいったものの、ここまで来ると、何か新発見でもない限りは、あそこしかないのだが。
この島へと乗り込んできた大帝国の高速クルーザー、その残骸。船体は原型を留めているが、機関部や艦橋など重要部分は文字通り吹き飛んでしまっていた。
案の定、着いた先は、クルーザーの残骸だった。
いや、残骸だったもの、というべきか。そこにあったのは、大帝国の高速クルーザーだ。
元の姿――元の姿? を取り戻したような……いや、何か微妙に違うような気がするが、元々あまり見たことがない艦だから、俺の勘違いかもしれない。
「プロペラがない……」
アーリィーがクルーザーを見上げて呟いた。
あ、確かに。大帝国の空中艦は、浮遊石を使って、その船体を浮かせているものの、推進装置は魔力とレシプロ機関の合わせ技であり、大プロペラを複数、装備している。だが目の前の大帝国クルーザーには、以前はあった大プロペラと、その周辺周りの部品が見当たらなかった。
「ふっふ、驚いているようだな」
ディーシーが胸を張った。気のせいか、その胸、少し大きくなっていないかね?
「主よ。我はダンジョンコアと呼ばれ、ダンジョンを統べるモノだ。その力をもってして、空中艦なるモノも御してみせたぞ!」
これ以上ないほどの笑顔である。幼い少女を思わすその身体のせいか、自慢の玩具を披露する子供のような微笑ましさを感じた。
「ディーシーが直したのか、これを……? 凄いな」
「凄い? 凄い? もっと褒めていいぞ!」
完全に有頂天である。そんなディーシーの傍らで、ベルさんが顔をあげた。
「まあ、魔力再生っていうより、適当な素材を付け足したってのが正確なんだけどな。……それっぽくはなっているだろう?」
「おお、見える見える。立派な航空艦艇だ」
「むふー、そうだろうそうだろう!」
やたらと嬉しそうなディーシー。人の姿をとるようになってから、それらしく振る舞うようになっていたとはいえ、もう普通に人間の女の子だよなぁ。
「で、これは動くのか?」
「もちろん! 作り物コアどもにできて、我にできぬことなどない!」
人工コアをライバル視している節のあるディーシーである。本家ダンジョンコアの意地というやつだろうか。……そう考えると、ダンジョンコアって何なんだろうなって思う。
「では、主よ。我の船に案内してやるぞ」
意気揚々とディーシーが、復活させた大帝国製クルーザーへと俺たちを導いた。
・ ・ ・
外は立派、だが中身は……。
普通に軍艦かな、と思っていたらそうではなかった。いうなれば『ダンジョン』だった。
本来は狭い艦内通路だった場所も、居住区や保管庫、その他もろもろあった部屋が自爆の影響で吹き飛び、広々としたフロアとなっていた。
壁などは金属や木材など、元に近い状態に再現されているが、何やら配線だと思うのだが、さながら血管のようなものが張り巡らされていた。
同時に、合点がいった。
ディーシーは、艦を修理したわけではなく、ただダンジョンに変えたのだと。
このクルーザー全体をテリトリー化し、ひとつの身体とすることで、ディーシーは自由にこれを操ることができるのだ。
……なるほどね。シップコアが艦艇を自動制御するのを、彼女は自分のやり方でやってみせたわけだ。
「乗員は不要か?」
「おー、我ひとりで制御できるぞ」
艦橋への階段が、艦艇式の狭くて急なものではなく、ゆったりと普通のものになっている。それを上っていくと、何だか屋敷の中でも歩いているかのようだ。
いざ艦橋に到着。ここも自爆の際に派手に吹き飛んだのだが、ディーシーには機械類の再現はできなかったようで、公園の遊具のごとく、それっぽい形になっているだけであった。
「で、どう動かすんだ?」
操縦用の操舵輪とか、装置の類はないようだが……?
「まあ、見ていろ」
ディーシーが前に立つと、床から柱状のものが一メートルほどの高さまで生えてきた。制御盤っぽいな。ディーシーが右手を置くと、赤い血管のようなものが柱から伸びて彼女の手にくっついた。
ごおおぉぉ、と竜の咆哮じみた音が艦の後方から響いた。ふっ、とクルーザーが浮かび上がり、艦橋の窓からの景色が下へと下がっていく。
「動いた!」
アーリィーが窓に駆け寄り、外を見やる。
この浮上の仕方は浮遊石だろう。俺は見当をつけるが、ふと、ベルさんを見た。
「この浮遊石はどうしたんだ?」
「ん? この島の倉庫にあったやつを拝借した」
まったく悪びれる様子もなく、黒猫は答えた。
だよな、この艦が自爆した時に、元々搭載していた浮遊石は吹き飛んでしまったはずだから、よそから持ってこないといけないよな。
D島から浮上した大帝国クルーザーは、ゆっくりと前進をはじめた。おー、ちゃんと動いている。
……確か、アリエス島は高度1万メートル以上を飛んでいるはずだ。大帝国のレプリカ浮遊石で艦艇を浮かせられない高さだし、積んでいるレシプロエンジンが高高度に対応していないので、本当なら飛べないはずなのだが。
さては純正の浮遊石を積んだな! そしてエンジンは、そういえばプロペラもなく別物を乗せているようだが……。
「ちなみに、何のエンジン乗せてるんだ?」
「ドラゴンブレスだ」
しれっと、ディーシーは告げた。え? ど、ドラゴンブレス?
「どういうこと?」
「我が持っている風竜を模写体にしてエンジンに置いている。前へ進む時は、その風竜の模写体がウインドブレスを放射しているのだ」
要するに風魔法放射装置。パワードスーツのシルフィードに搭載しているフレキシブルブレードに似たようなものを再現して、それをエンジンとしているのだろう。
本来、強力な風系ブレスは、放つときに自身も飛ばされないように足を踏みしめるものだが、そういう踏ん張りをしなければ自身も飛べるってことなんだろうか?
んな無茶苦茶な……。
しかもこれ、純正浮遊石を積んで重量制限クリアしていなかったら、推力足らなくて進めなかったやつじゃなかろうか……?
使えるものを最大限に活用して、飛ばしている。その事実は、たとえ無茶苦茶といえど、やり遂げたことは賞賛すべきことなのだろう。
ベルさんが助言をしたのだろうが、あのダンジョンコアが自分で、クルーザー一隻を飛べるようにしてしまったのだから、ちょっとした感動だ。娘の成長を誇らしく思う親とは、こんな気分なんだろうか。
自信に満ち溢れ、楽しそうなディーシーを見ていて、俺は何故だか目頭が熱くなってくるのだった。




