第618話、サフィロさん、グラナテさん、アグアマリナさん ×2
カレン女王には、ノイ・アーベントの食堂で料理を振る舞った。久しぶりのウィリディス料理だと歓喜された。
その後、大帝国が攻めてきた時のウィリディス軍との連携などの大まかな協議を行い、女王はポータルでエルフの里へと戻っていった。
ダークエルフ、いや、青肌エルフの集落を大帝国が侵攻し、そこの住人たちを連れ去ったという話。
俺はスフェラと共に、SS諜報部の情報の見直しを行った。
すると確かに、亜人や獣人集落の襲撃と誘拐という、小規模作戦がいくつか実施されていて、その移動に空中艦が使用されていたのが判明した。
大帝国は人間以外の種族に差別的であるのが有名である。ただ、襲撃し全滅させた、ならまだわかるのだが、生け捕りにして連れ去るというのが、少し引っかかった。
何より、この亜人種族誘拐作戦の出所が、大帝国陸軍本部ではなく、魔法軍特殊開発団からとなっているのが、その予想を後押しした。
特殊開発団――アンバンサー系兵器の改造である魔器を製作、その他魔法研究を行っている部署だ。
もう名前だけで嫌な予感しかしなかった。ここで俺の思考によぎったのは、半サキュバスであり、仲間であるエリサ・ファンネージュのこと。
彼女を改造したキメラウェポン計画。……亜人たちはこの実験の素材にされているのではないか?
「スフェラ」
「はい、主様」
「このさらわれた亜人たちがどこに連れ去られているのか、その拠点を速やかに割り出すように諜報部に命じてくれ。場合によっては、即行動の可能性もある」
「承知しました」
浮遊島アリエスで遭遇した異形も、特殊開発団の代物の可能性が高い。連中がまた化け物を作るのは見過ごせない。
・ ・ ・
さて、アリエス浮遊島基地では、制御コアのほうのディアマンテが、シップコア増産に着手していた。
サフィロ、グラナテ、アグアマリナの三つの人工コアに、それぞれひとつずつ、シップコアを割り当て、それぞれの記録や能力をコピー。それが終わると、先の人工コア三体に、シップコアのデータを移植した。
「えーと、つまり?」
その場に同席したアーリィーが首をかしげる。俺は頷いた。
「サフィロが二つ、グラナテが二つ、アグアマリナが二つ、合計六つのシップコアができたということだよ」
艦隊旗艦コア、恐るべし。俺は最初、人工ダンジョンコア三個が、それぞれシップコアとして使えるようになる程度しか考えていなかった。
だが、ディアマンテは手っ取り早く、コアの数を倍にしたのである。
「それが……これか」
俺は、どこか誇らしげな女軍人姿のディアマンテと、その周りにいる女性たちを見た。
いずれも、テラ・フィデリティアの女性士官用軍服をまとっている彼女たち。それぞれ双子が三組。
青色の長い髪を持った柔和な顔立ちの女性が二人。
赤い髪を三つ編みにしている背の高い女性が二人。
透き通った水色の髪をツインテールにしている少女のような女性が二人。
「えーと……サフィロ」
「「はい」」
青い髪の二人が微笑んだ。
「……グラナテ」
赤毛の二人は背筋を伸ばして「はい」と答えた。
「それで、アグアマリナ」
「「はい、司令官!」」
二人のツインテール少女風軍人は、息もぴったりに敬礼した。
アーリィーはその翡翠色の瞳をぱちぱちと瞬きさせる。
「見分けがつかないね。どっちが人工コアで、どっちがシップコア?」
「両方とも人工コアであり、シップコアですよ、アーリィー殿下」
ディアマンテは、どこか楽しそうだった。
「ウィリディスにキャスリング基地、それぞれを管理するコアも必要と思いまして」
低性能版コピーコアに代理をさせることなく、片方を拠点、片方を艦艇に預けることができるというわけだ。
「彼女たちには、私同様、仮想の身体を与えましたが、あくまでデータなので意思疎通の手段とお考えください。見分けがつかないというお話ですが、髪型や姿は自由に変更可能です」
「へぇ……」
アーリィーが驚いていた。
髪型とか変えられるとか、ゲームのキャラメイクみたいだなって思った。
「シズネ艇用のシップコアは別にご用意いたします。配置については……いえ、これはトキトモ司令がお決めになられることですが」
「何か案があるか?」
「はい。グラナテはこのままアンバル改、アグアマリナには改装中型空母のシップコアを務めてもらい、サフィロには『ペガサス』を制御するのがよいかと愚考いたします」
「軽空母は?」
「……失礼を承知で発言しますが、ウィリディス艦隊において、アウローラのみ、速度が遅く、艦隊行動に支障がでます」
速度が遅い。……ああ、それを言われると痛い。あの軽空母のみ、まったくのウィリディスのオリジナル。古代機械文明時代の遺産とかとまったく別で、一から考えて制作したものだ。
浮遊石はあるので、あの図体で飛行は可能であるが、機関の魔石エンジンの出力が低く、テラ・フィデリティア艦の足下にも及ばない。
「ウィリディス艦隊は、高速航空艦隊です」
ディアマンテは足の速い巡洋戦艦。アンバル級も高速の軽巡洋艦。強襲揚陸巡洋艦のペガサスも、船体はアンバル級なので高速。シズネ艇も速さが信条の高速艇だ。……見事に高速艦艇揃いだ。
「ですので、アウローラは機関まわりを改装しない限りは、航空機輸送艦か補給艦として運用すべきかと」
「……そうだなぁ」
自分が作ったものだから何とか活用したいというのはある。まあ、輸送艦や補給艦も大事な役割だが。……だが改装して、速度が向上すれば話は変わってくるか? いや、それでも艦の大きさ自体も小さいし、第一線は難しいか。
そんなことを考えていると、アリエス基地の俺の部屋に、来訪を告げるチャイムがなった。テラ・フィデリティア時代の室内なので、ここだけ未来的。アリエス・コアの代理でディアマンテが管理していて、入り口は自動ドア、執務室のデスクもコンソールパッド内蔵だ。
「はい」
『おー、主。我だ、開けろ』
通話機から聞こえたのは、ディーシーだ。ちょっと出かけてくると言って、ベルさんと浮遊島の探索に入っていたのが帰ってきたようだった。
俺が、ディアマンテに頷けば、ドアが自動でスライドした。
「主、ちょっと一緒に来て――うおっ、なんだこれは!?」
入ってきた黒髪の天然ダンジョンコアの少女は、人工コアの擬人化した軍人さんたちの姿に驚き、困惑するのだった。




