第564話、敵前衛部隊、壊滅
ヴェリラルド王国軍本隊。わずか数分のあいだに起こった出来事は、兵たちを動揺させた。
まず、複数の足をもった化け物と兵士の集団が、突然起きた局地的な地震によって地面の底へと沈んだ。
次に、空から剣のような鋭角的な飛行物体が、地上の別の敵集団を攻撃。直後、同じく空を飛ぶ物体が現れて、まるで取っ組み合いのような戦闘をはじめた。青とオレンジの光弾が飛び交い。めまぐるしく動き回る戦闘だ。
クレニエール城の防衛戦に参加した者たちはともかく、後からきたケーニギン軍の後続隊や王都軍の騎士、兵たちは未知の光景に驚きを隠せなかった。
初めてみる航空戦。
それは、エマン王もまた同じだ。だが幾分か落ち着いているのは、あの底知れぬジン・トキトモと知り合い、過去何度も驚かされてきたからだった。よくも悪くも慣れてきていたのだ。
「敵前衛は消滅しました」
クレニエール侯爵は事務的な調子を崩さない。
「あの地震……アースクエイクですな。何とも規格外の攻撃だ」
その割には、あまり驚いているように見えない。エマン王は、この侯爵が己の感情を滅多に表に出さないのを知っている。だからこそ、自分も動揺するようなさまを見せるわけにはいかない。
「ジンにかかれば、あんなものよ」
さも当然と言った声を出しながらも、これが大帝国をきりきり舞いさせたジン・アミウールの魔法かと感心する。
「では、我々も進むとしよう」
「まだ右翼側の敵部隊には、戦車が残っているようですが……」
「心配はいらんだろう」
ちら、と味方右翼方向を、高速でかっ飛んでいく鋼鉄の地上攻撃機の編隊を見やる。
と、後ろが騒がしくなる。
何事かと振り返ろうとしたその時、頭上を巨大な物体が通過した。
シズネ艇だ。四〇メートルを超える巨体が戦場に現れたのだ。王国軍を越え、クレーター付近まで達した攻撃艇は青白い光線を放って、アンバンサー軍に攻撃を開始した。
・ ・ ・
シズネ艇がクレーター東の敵部隊を攻撃しはじめた。
俺は置いておいた浮遊バイクにディーシーと一緒にまたがっていた。双眼鏡を手に戦場を睨む。
クレーター南の部隊は、ワスプⅡ地上攻撃機中隊がロケットとミサイルの嵐を巻き起こし、蹂躙中。
北部隊は、トロヴァオン中隊が戦車を片付けた。そのトロヴァオン中隊は、ファルケ中隊と合流して、アンバンサーの戦闘機部隊と交戦している。
やはり、敵は戦闘機を持っていた……!
俺は思わず歯噛みする。
航空戦はほぼ互角。アンバンサー機が爆散する一方で、煙を吐きながらトロヴァオンが墜落したり、ファルケがきりもみしながら地面に激突したりしていた。
いま、シズネ艇が東部隊を攻撃しているが、多脚戦車は残っている。戦闘中の戦闘機部隊は手がはなせない。はやく戦車を排除したいが、戦闘機隊にこれ以上の損害がでると、敵戦闘機を抑えきれなくかもしれない。
予備隊は残してある。そしてその予備隊を、どこに充てるか――うん、深く考えるまでもないな。
『ソーサラーより、ドラケン中隊へ! お待たせ、ベルさん。第一目標は、敵戦闘機』
『ドラケン・リーダー、了解だ。ドラケン中隊、出番だぞ!』
空中待機していたTF-2Cドラケン改、そして久々に戦闘機に乗ったベルさんのドラケン・カスタムが満を持して突入を開始した。
ウィリディス製戦闘機の中で、TF-2ドラケンは、一番もとの世界のジェット戦闘機らしいシルエットをしている。
鋭角的な機首に、中央から後方へ伸びたダブルデルタ翼、単発のエンジンと欧州製ジェットファイターを思い起こさせる。
矢じりのような形をしたファルケや、SFに登場する戦闘機のようなトロヴァオンと違う。
もっとも、ベルさん専用の黒いドラケン・カスタムは前翼を備え、他にも可変翼を備えるなど、SFどころかファンタジー突っ込んだ感満載の化け物ではあるのだが。
そしてそんな化け物と、熟練のSSパイロット揃いのドラケン中隊が戦場に雪崩れ込めばどうなるか。乱入して一分と経たず、アンバンサー戦闘機の残存数が半分に減った。
ブラックドラケンが、本来空中戦では避けるべきの正面からの突っ込みで、すれ違いざまに、二機、三機と撃墜していく光景は、どこのチートだと言わざるを得なかった。魔刃翼で切り捨てごめん、というのもベルさんの化け物機にしかできない芸当だ。
……戦闘機でこれなのだから、パワードスーツなんて与えた日にゃ、どうなるか考えたくもないね。
俺は浮遊バイクの上から、空中戦から地上戦へと視線を向けた。
クレーター東側の敵部隊は、シズネ艇が上空を旋回しながら主砲と副砲を叩き込まれている。
以前、俺が氷のゴーレム集団に対して攻撃した時に使った攻撃方法だ。俺のいた世界では確か輸送機改造のガンシップがやっていた戦法でもある。……ガンシップ、作らないといけないな。対空装備のない地上部隊を叩くのにこれ以上に打ってつけのものもない。
そのシズネ艇では、リーレが鼻息も荒く、操縦に志願した。昨日のアンバンサー拠点潜入で何やら怒り心頭の様子だったからな。
そっちは任せるとして……おっと、ワスプⅡ地上攻撃機部隊が敵南部隊の多脚戦車を片付けて、シズネ艇の援護に向かった。
何はなくとも、まず敵のメイン火力である戦車を潰す。残りの敵兵は、王国軍の仕事だ。
その王国軍も本格的に前進を開始。戦車を失ったアンバンサー軍へと総攻撃に移った。
敵は迎撃に割り振ったはずの主力を俺のアースクエイクで失っているから、地表の敵部隊の数はすでに王国軍の半分以下。しかも分散しているから、各個撃破に都合がいい。
氷のゴーレムが例の氷結盾をかざしながら突進。大帝国のゴーレム・ウォールをそっくり真似た今回の戦術だが、大帝国ゴーレムと違い、氷ゴーレムはそれなりの速度で走ることができた。
つまり、後ろの一般兵たちと同じか、それ以上の速さで進撃できるということだ。そしてそのゴーレム部隊は、アンバンサー兵の前衛と交戦状態に突入している。敵の放つ光弾を氷結盾で阻みながら、踏み潰す勢いで突撃していく。
そうなると、だ。
あとはクレーターの底、アンバンサー拠点だけである。
敵の航空機の増援の気配なし。すでに劣勢なのは明らかだが、送りたくても送り出せる戦闘機がないと見た。
俺は浮遊バイクを起動させる。軽い振動とともに、ウルペースが高さ数十センチほど浮かび上がる。すぐ後ろに乗るディーシーを一瞥した後、俺はウルペースを走らせた。
戦場を横断して、クレーターへとバイクの鼻先を向ける。
「なあ、主」
黒髪を風になびかせながら、ディーシーが問うた。
「敵のアジトだが、何故埋めない? そのほうが手っ取り早いだろう?」
敵は穴の底。そのまま土砂で埋めれば生き埋めにできる、と。
我がやってやるぞ、と不敵に笑うディーシーに俺は答えた。
「埋めた程度で、あの空母の中にいる連中が死ぬっていう確証がない」
何せ、外宇宙からの侵略者だからな。惑星間航行技術を持っている連中だ。あの空母が宇宙船でもあるなら、外がどうだろうと中は生存可能環境を維持できるだろう。それで生き延びて、再び外に出てくるようなことになったら……。
百メートル超えの土砂に押し潰される可能性もあるが、潰れなかった場合が怖いんだ。
「確実に葬っておきたい。そのためには、直に乗り込むか、あの空母を破壊したところを実際に目にしなければ安心できない」
後顧の憂いを断つためにも。この世界の未来に。
俺は魔力通信機に呼びかけた。
「ソーサラーより、ワスプ。ヒンメル君、敵拠点への突入作戦を開始する!」




