第563話、トルネード航空団、突撃
王国軍が進軍するのに合わせ、クレーター周囲を固めていたアンバンサー軍は迎撃に出た。
俺は、透明マントを被り、その様子を眺めていた。
雪原に足跡を刻みながら、四脚型兵器を前列に、正方形の隊列を組んだアンバンサー部隊がのしのしと進撃する。五つの部隊が横にならび、さながら壁のようだ。
敵から見て左翼側に、俺は潜伏している。敵には発見されていない。このまま俺の正面を横切れば、この五つの部隊は、掃射魔法の射線に飛び込むことになる。
まあ、光の掃射魔法は使わないけどね。
俺の傍らで、同じく透明マントを被ったディーシーが退屈そうに、ドーナツを頬ばっている。
「主、我の出番はまだか?」
「もう少し」
王国軍を射程に入れれば、まず多脚型が先制の砲火を放つだろう。弓や少数ながら配備された魔法銃器の届かない位置からの一方的な攻撃。その場合の結果は明らかだ。
王国軍の壊滅。これまでアンバンサーと対峙した軍勢が辿ってきた行動を繰り返すだけで終わる。……俺がいなければ、な。
すでにウィリディス軍は準備を整え、戦場に突入する準備を整えつつあった。
上空に待機しているトルネード航空団。地上攻撃支援にワスプⅡ部隊がその牙を研ぎ、先行して潜り込んでいるリアナのリーパー中隊も工作を終え、その時を待っている。
「……ディーシー。スタンバイ」
俺の声を聞き、ダンジョンコアの擬人化少女は好物のドーナツを胃に収めると身構えた。
「目標は、正面を移動中のアンバンサー軍。テリトリー展開!」
「領域化……!」
ディーシーのまわりにほのかな光が走る。それは風のようなスピードで平原を突き進み、投網を広げるが如く、数キロ範囲におよぶ敵集団の地面に浸透した。
「主!」
「よし、底を抜け!」
ディーシーが地面に手を当てた。領域化した大地、その地下にある土砂をそっくり抜き去る。地面の空洞化。そうとは知らず、アンバンサー軍はその上を進んでいる。
「それじゃあ、まとめて片付けさせてもらう!」
俺は特大の魔力を練り上げ、それを叩き込む。
「母なる大地の怒りを知れ――アース、クエイク……ッ!!」
魔法が、地を揺さぶる。バキバキと地面を砕き、津波のように押し寄せた大震動がアンバンサー軍に襲いかかった。
あまりの衝撃に立つこともままならないアンバンサー兵と、なんとかバランスを維持しようとする多脚型兵器。だが次の瞬間、空洞の天井を構成していた地面が砕けたことで、落盤が発生。二〇〇〇に近い敵軍と戦車はぽっかり開いた空洞に十数メートルを落下した。
地の底に叩き付けられる間に味方や土砂にぶつかり、押し潰され、多くのアンバンサー兵が負傷ないし圧死。そして地面に激突して死者が増大。その上に味方や多脚型が落ちてきてさらに大半が死傷するという大惨事となった。
俺からは下の惨事は見えない。だがまだ生きている者もいるだろう。トドメは必要だ。
「ディーシー。抜いた土砂で埋めろ」
敵をまとめて土葬にしてやる。心得た、とディーシーは再び領域操作を行い、俺たちの前にできた大地の溝を、もとの平原にと埋め立てた。地面の色が違っているのが、いかにも埋めました、と言わんばかりである。
「これで少なくとも敵の半数はやったな」
表の敵は半分以下に減ったが、拠点にも敵兵が残っている。
『ソーサラーより、各部隊へ。残存する敵に攻撃を開始しろ!』
・ ・ ・
ジンからの攻撃開始の命令が発せられた。
層雲状のカモフラージュに隠れるAA戦隊の旗艦、巡洋艦『アンバル』の艦橋で、アーリィーは頷いた。
「攻撃隊に指示を」
『トロヴァオン中隊へ、敵地上兵器に攻撃を開始せよ』
『ホーネット中隊――』
SS通信士たちが命令を伝達する。
それを霧状の雲内で待機していたトロヴァオンのコクピットにいたマルカスは受け取る。
『トロヴァオン・リーダー、了解。全機、おれに続け!』
カモフラージュ雲を抜け、トロヴァオン戦闘攻撃機隊はエンジン光を煌めかせながら猛スピードで突き進む。
『目標は、クレーター北の部隊! 狙うは敵戦車。一航過で全部潰せ!』
『了解、トロヴァオン・リーダー!』
『AGMをセット』
マルカス機は、敵部隊の真上に達するとほぼ垂直に近い急降下を開始した。敵多脚型の搭載砲が、ほぼ直上を狙えないことから選んだ攻撃進入方法だ。
この世界の住人は知らないが、噴進誘導弾の射程距離が、ジンのいた世界のそれよりかなり短いために、ある程度接近しなくてはならなかった。そのため、アンバンサーのビーム兵器の射程内に飛び込まざるを得ないのだ。
機体搭載コアが、標的の多脚兵器を二両、ロックオンする。マルカスは操縦桿の攻撃ボタンを押し込んだ。トロヴァオンの腹部ウェポンベイから、AGM-1が二発放たれると、すぐさま操縦桿を引いて機体の引き起こしをかける。
本来、高G負荷などで起こる身体への影響も、機体に搭載された加速補正器による魔法で激減しているため、パイロットはブラックアウト――脳への血流量が下がって失神などの症状を引き起こす――こともなかった。
トロヴァオンは地上にぶつかることなく低高度を離脱した。……一瞬、機体がきしんだような音がしたような気がしたが。
マルカス機に続き、後続のトロヴァオンも次々に多脚戦車にミサイルを叩き込み、爆散させた。
シェイプシフターパイロットたちはともかく、コアのサポートと加速補正器のおかげで、経験の浅い近衛パイロットたちも攻撃を成功させる。彼らは皆、マルカス機の後についてきていた。
その機体コアが、目標部隊の多脚戦車一五両すべての破壊を報告した。……これで北の部隊は歩兵だけになった!
『マルカス隊長! クレーターから何か飛び出してきますっ!』
トロヴァオン8、近衛パイロットのひとりが魔力通信機に叫んだ。マルカスも首を巡らし、それを目視する。
おたまじゃくしに羽根の生えたようなフォルム。高高度浮遊群で目撃したアンバンサーの小型機だ。――団長の予想通り、戦闘機が出てきやがった!
『トロヴァオン・リーダー、こちらファルケ・リーダー』
シェイプシフター戦闘機――三角形の小型戦闘機部隊が、こちらへと飛んでくる。
『敵戦闘機、多数接近!』
『見えてる。トロヴァオン全機、迎撃しろ!』
トロヴァオン、ファルケ両戦闘機隊は、アンバンサー戦闘機隊と相対。そのまま正面から光弾を撃ちまくりながらすれ違うことになった。




