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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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第534話、氷の守護人形


 シズネ艇とトロヴァオン2機が駆けつけた時、真っ白な雪原を整然と行進する一団の姿があった。


「……ロボット、いやゴーレムか?」


 上空を通過して見た限りでは、それは氷の鎧をまとったゴーレムのように見えた。内心、またゴーレムか、という思いがこみ上げた。


「またまたゴーレムかアレ?」


 一瞬、心を読まれたのかと思ったが、口にしたのはいつの間にか操縦室に来ていたベルさんだった。

 ウィリディスを開拓して以来、ゴーレム的なものばかり見ている気がする。


「ああ、親の顔よりゴーレムを見てる気分だ」


 俺はシャルールに呼びかける。


「あのゴーレム集団に心当たりはあるか?」

「いえ、ありません、侯爵様」


 侯爵、か。やっぱり慣れないな、まだ。

 それはともかく、心当たりがあってほしかったというのは本音。クレニエール領の誰かが保有しているモノであるなら、敵ではないかも、で済んだのだが。


 はてさて、どうしたものか。例の多脚型の敵とはまるで違う集団だ。ざっと見たところ、数は一〇〇体以上。誰かが制御している様子もなく、ゴーレムしかいない集団である。


「よろしいでしょうか?」

「何でしょうか、シャルール殿」

「は、このままあのゴーレム集団が進んだ場合、その先にはセチエム――町があります」

「……つまり、このままだとその町が襲われる可能性があると?」

「はい」


 シャルールは力強く頷いた。襲うかどうかは別として、このまま進路を変えなければたしかに町に被害が出るだろう。それは実に面白くない事態である。


「どうだろうか、シャルール殿。俺はいまいち確信が持てないのだが……勝手に戦端を開いていいものかどうか」

「領内の脅威ですから、防衛のご助力を頂けるなら、我が主もお認めになられるでしょう」

「……承知した。戦闘配置」

『戦闘配置!』


 火器管制席のシェイプシフター射撃手が復唱。同時に艦内に短い警報が流れる。


「クレニエール領内を進撃するゴーレム集団に上空からの攻撃を仕掛ける。主砲、副砲、砲撃用意」

『了解。砲撃用意! 主砲、副砲、安全装置解除』

「アーリィー、取り舵をとって、敵集団上空を旋回するコースをとれ。射撃手、左砲戦」


 それぞれ了解の声。シズネ艇は緩やかに左旋回をはじめ、艦体を傾けて主砲の射線を確保した。艦上面の5インチプラズマ連装主砲、その砲口が艦の左へと向く。

 一〇〇体を超える氷のゴーレム集団は変わらず歩行を続けている。こちらなどまるで眼中にないのだろう。


 照準用スコープを覗く射撃手が叫んだ。


『砲撃準備よし!』

「撃ち方始めっ!」


 次の瞬間、青白い光線がシズネ艇の主砲から(ほとばし)った。続いて、艦首側面に取り付けられている3インチ副砲も火を噴く。


 光弾は集団の中のゴーレムに吸い込まれる。その頑強な胴体を融かし、貫いて破壊した。左旋回を続けるシズネ艇から青い光が放たれるたびに、氷のゴーレムはちぎれ、吹き飛んでいく。


「おおっ! すげぇ!」


 操縦室の窓から眼下の様子を観戦していたリーレが声をあげれば、シャルールもまた「ゴーレムをああも簡単に!」と驚いていた。

 そのあいだに、護衛の二機のトロヴァオンも地上攻撃を開始した。


『トロヴァオン5、突入する。3、カバー!』

『了解、5!』


 リアナの操る5番機が敵ゴーレム集団の後方へ回り込む。マルカスの3番機が援護位置につく中、緩やかな降下、しかし猛スピードで突っ込んだトロヴァオンがサンダーキャノンを雨あられと発射した。

 氷ゴーレムの頭や腕が、電撃弾に貫かれ、または吹き飛ぶ。敵の列に沿って浴びせられた射撃によって一〇体以上のゴーレムが破損、あるいは雪原に突っ伏した。


「……さすがに頑丈だな」


 シズネ艇の操縦室の窓から見える光景を見やり、俺は思わず呟いていた。

 くさってもゴーレムということか。胴体への直撃を受けたモノもあったが、それらはまだ動き続けている。ゴーレムでなければ、トロヴァオンの一航過の攻撃で倍の数はやれただろう。


 攻撃を繰り返すシズネ艇。さすがにゴーレム集団は列を解いて、円形に防御陣を形成しようとしていた。


 ……ん――? なんだ?


 氷のゴーレムのまわりに白い蒸気のようなものが出てきたような……。


『敵ゴーレムに変化あり!』


 狙いをつけるために標的を拡大したスコープを覗き込んでいた射撃手が報告した。

 氷のゴーレムの左手に巨大な皿上の物体が生え、大きくなっていく。


「シールド……氷の盾か……?」


 見るからに分厚い青い壁のような盾が形づくられる。……あれで、こちらの大砲を止めようというのか?


 シズネ艇は左旋回を続けつつ、砲撃を続行する。一定の間隔で発射される青いプラズマ光がゴーレムに突き刺さるたびに、さながら氷のように砕けていたのだが――


『敵シールド! こちらの砲撃を無効化!』


 どういう理屈かは知らないが、敵のシールドがプラズマカノンを無力化した。


「おい、マジかよ」


 ベルさんが思わず口走る。リーレが俺を見た。


「どうするよ、ジン? こいつには他に武器はねえのか?」

『シズネ1、こちらトロヴァオン5、AGMを使用する』


 魔力通信機からリアナの冷静な声。プラズマカノンが通用しなくなったので、ミサイル攻撃に切り替えてみると言う。

 今回護衛についている2機のトロヴァオンは、それぞれ空対空噴進弾と空対地噴進弾を6発ずつ搭載してきているのだ。


 俺たちが見守る中、リアナ機がAGM-1を発射。薄く煙を引いて飛んだミサイルはゴーレムの一体に吸い込まれ、爆発――しなかった。


「……?」


 不発弾……、いや、ひょっとして、凍った? 着弾から起爆しなかったというのは、中まで凍りついてしまったというのか。いや、まさか……。


「いま、確かに当たったよな、ジン?」


 ベルさんが確認するように首をひねった。リアナ機に続き、後続のマルカス機もミサイルを放った。だがこちらも、氷のゴーレムの盾に命中したように見えたが、爆発しなかった。

 リーレが声を張り上げた。


「おいおい、何も起きねえぞ?」

「こちらの攻撃がまるで通じてない、ね」


 操縦席のアーリィーが唇を噛みしめる。


「降りて直接戦うしかない……?」

「いや、ミサイルが瞬時に凍りついたのだとするなら、あのゴーレムの周りに近づいたらたちまち凍ってしまうぞ……!」


 以前、シャッハの操る炎の軍団の時は、そばに寄ると熱にやられると言った。だが今回は逆に氷結ときた。飛び道具も効かず、近づけもしないのでは、完全にお手上げか。


「じゃあ、どうするんだよ?」


 歯噛みするリーレ。シャルールが「火属性の魔法を使いますか?」と口にしたが、生半可な火では意味がないだろう。


「それなら、別のアプローチをとってみよう」


 俺の言葉に、一同の視線が集中した。


「信管も凍ってしまうなら、単純に超重量で押し潰してしまうというのはどうだろう?」

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