第535話、降り注ぐ巨岩
物体を瞬時に凍らせている霧。ミサイルさえ爆発させない氷のゴーレムたち。シズネ艇やトロヴァオンの攻撃を無効にする敵に手も足も出ないと思われたが――
「超重量、とは……」
シャルールが目をパチクリさせる。
「侯爵閣下、それはいったい……?」
「少し前に、リーレが言っていたが――」
「は? あたし?」
当のリーレが自身を指さすが、俺は気にせず続けた。
「このシズネ艇なら落ちてもそう簡単に壊れないんじゃないかって。……もちろん、墜落の仕方によってはこの艦とてただでは済まないが、下敷きになったほうは間違いなくペシャンコだ」
つまり、とベルさんが口をあんぐりと開けた。
「シズネ艇で、ゴーレムどもを潰すってか?」
え!? と一同が驚いたので、俺は小さく首を振って否定した。
「さすがにこの艦は落とさんよ。俺の本職は魔術師だ。別のモノを落とすさ。――通信士、トロヴァオン3と5に敵上空から退避するよう伝えろ。これから大魔法を使う!」
幸い、ゴーレム集団は、俺たちの攻撃から身を守るべく足をとめ、防御陣形をとって密集している。今なら一網打尽にできる!
味方機が敵の上から離れるのを確かめ、俺は操縦室の舷窓から見える敵集団の上へと視線をスライドさせる。
これから具現化させるは巨大なる大岩。かつてスカイベースを形成前、高高度を浮遊していた二〇〇メートルクラスの岩石――
集中する俺の傍らで、ベルさんが鼻をならす。
「しくじっても犠牲になる奴はいない良案だけどよ、ジン。仮に敵さんが潰れなかったらどうする?」
「その時は別の手を使うさ」
大穴を作って落とすとか、異次元に飛ばすとかな――やりようは幾らでもある。
俺の中で、イメージが膨らむ。
「神話の神には、山を投げる者がいたというが……」
魔力を集中そして凝縮。何もない空間に、突如として具現化するは超巨大な島のような岩石。そのあまりの大きさに、シャルールやアーリィーが驚きの声を上げた。
クラッグプレス!!!
超巨大岩石が重力に従い、氷のゴーレムたちの上に落下した。大地にめり込む岩塊に、当然ながら間に挟まる形となった人形たちは超重量物に抗えず押し潰される。
新たな岩の丘がひとつ出来上がり、その下に何がいたのか、いやあったのか、もはやうかがい知ることはできない。
「敵の、反応、消滅しました……」
レーダー席のユナが声を震わせながら報告した。
シズネ艇の操縦室に沈黙が降りる。
大地にめり込んだ巨岩、しかしそれを放置するわけにもいかないので、俺はその魔力を解除。うっすらと消滅する岩を最後まで見守ることなく、艇長席に戻る。
何故か、ディーシーが座っていた。
「終わったか?」
「だと思うよ」
「少し疲れた顔をしているな?」
「そう思うなら席を譲ってくれ」
「嫌だ。ここは我の席だぞ?」
はいはい――俺はディーシーの小柄な身体、その腰を掴んで持ち上げると、開いた席に座り、ついで彼女を俺の膝の上に乗せた。これで文句はないな。
「トキトモ閣下……い、いまの大岩は……?」
我に返ったらしいシャルールが艇長席にやってきた。
「単なる岩の魔法を大きくしただけですよ。大魔法と言いましたが、そこまで大それたものではない」
「は――あ、そうなのですか。……いや、あのような大岩の魔法は見たことなくて。おそらく誰も」
同意を求めるように、他の面々を見るシャルール。ボクもないよ、とアーリィー。ユナも頷いた。
「では、あなたは初めてそれを目の当たりにしたわけだ」
俺はシートに深々と身を預ける。
「人間は自ら限界を設けてしまう。だからあんな大岩を想像しないし、できないと思っているからやらない」
こと魔法に関して言えば、先入観を捨て、事象を見定め、そこに存在する魔力を感じればいい。
「己の魔力だけに頼らず、この世界のどこにでも存在するそれを利用する。そうすれば、先ほどの大岩を具現化させることだって不可能ではない。……とはいえ――」
俺は苦笑する。
「偉そうなことを言ったが、さすがにくたくただ。まったく、現地に着く前に疲れてしまったぞ」
ははは、とベルさんが笑えば、リーレたちもホッとしたような笑みを浮かべた。膝の上のディーシーが俺にもたれかかってきた。
「だらしがないな、我が主様。我をもっと頼ればよいのだ」
「あの岩で潰せなかったら、お前の出番だったんだけどな」
「ならば、あのゴーレムどもは、その程度だったということだな」
ニヤリと言うディーシー。その時、通信士が振り返った。
『艇長、「アンバル」より入電。貴艇方面に大規模魔力変動を感知、援護の必要ありや、です』
後続するダスカ氏の航空戦隊が、艦載機を送る必要があるかの是非を求めてきた。アンバル級の索敵機器でも、観測できたんだな。
「返信。援護の必要なし。……あぁ、それと、ゴーレムの残骸を調べたいから、空母から調査隊を出すように伝えてくれ」
『了解。――シズネ1より、アンバルへ』
通信士が応答するのを尻目に、俺はクレニエールの使者へと視線を戻した。
「さて、シャルール殿。目的地への道案内、よろしく頼む」
・ ・ ・
シズネ艇は、クレニエール領の中心である領主町を目指す。
だがその前に、飛行魔法が使えるシャルールに、一足先に領主町にあるクレニエール城に行ってもらった。
いきなり乗り込んで、敵と勘違いされても困るからだ。
待つあいだ、操縦を代わったアーリィーが、お疲れモードの俺の肩を揉んでくれた。
「でもいいのかな、クレイニール侯爵に、このシズネ艇を見せて」
「できれば黙っておきたいし、見せたくはない」
俺は、彼女の不安に同意しておく。
「ただ、今回の敵がな……」
偵察機が撮影した、敵と思われる六本足、八本足のメタリックな機械兵器の写真に目を落とす。
「どうにも出し惜しみできる相手ではない可能性が高い。とくにこの六本足の武装……どこかで見た覚えがないか?」
「……戦車砲? ヘリの機関砲っぽくもあるけど」
写真を覗き込みつつ、アーリィーが首をかしげる。ガトリングガンのような見た目の砲が六本足の胴体の先頭と上面に一門ずつ付いている。
「高高度浮遊群で、でくわしただろう。古代文明時代に敵対していたとかいう――」
「……アンバンサー?」
「あの艦の砲に似ている」
ただ似ているだけかもしれない。この兵器が伝説のアンバンサーかもしれないし、そうではないかもしれない。
最悪なのは、高度な科学力を持った異星人だった場合だ。魔法が存在するとはいえ中世レベルの世界で、それらとぶつかるなど、考えただけでもゾッとする。
もしそうなれば、大帝国がどうとか、兵器を秘密に、などと言っていられないだろう。
古代文明時代の兵器を引っ張り出したところで、対抗できるのか。
どうか取り越し苦労であってほしい、と俺はその言葉を飲み込むのだった。




