第453話、狙われた高ランク冒険者
マッドとフライングボードの案を話し合った後、対大帝国戦に備えて、対地攻撃爆弾、ミサイルの本格的な大量生産をサフィロに命じた。
戦闘機、ワスプⅠ、ワスプⅡによる対地攻撃が形となりつつある中、それら航空部隊が実際に戦場に持っていく武器がなくては話にならないのである。
俺の中での想定では、敵空中艦隊、敵の陸戦兵器――これについてはシェイプシフター工作員が帝都から収集しつつあり、俺のもとに情報が集まってきている。
それと大多数の徒歩の兵隊ないし魔獣兵――21万の蟻亜人のことは俺も忘れていない。
この中で、一番武器を叩きつけることになるのは、最も数が多い敵兵士だろう。対人用爆弾をたくさん用意せねばなるまい。
俺が光の掃射魔法を一発撃って終わるような戦闘は考えていない。まあ、切り札として必要な時は使うがね……。本音を言えば、戦争っていうのは切り札を使わずに終わるのが一番いいのだ。
ともあれ、ダンジョンコアに指示すれば後は作業を進めてくれるのはありがたい。それでなくても、あれやこれやと考えたり指示することが多い。ここで俺が実際に作ったりしていたら、過労死待ったなしだ。
その日のランチタイム。アーリィーや仲間たちとお喋りしながらの昼食を、と思っていた俺に急な面会があった。
誰あろう、王都冒険者ギルドのヴォード氏とラスィアさんだった。二人揃ってとは珍しい。
ウィリディス食堂で、俺は二人と向かい合うことになった。
「面白くない事態となった」
ヴォード氏は深刻な顔で言う。……そんな難しい表情で、面白い話を言ったことがあったか? ろくな話ではないという予感があったが、俺は続きを促した。
「昨夜、レグラスが殺された」
……レグラス、レグラス……。あぁ、あの黒髪のハルバード使いか。古代竜討伐の時に一緒になったことがある冒険者だ。
貴族出らしいが、わりと話のわかる人物で、俺の中ではいい印象のある人物だった。
「殺された、とは?」
Aランク冒険者が殺されるというのは、どういう状況だろうか。暗殺、毒殺……正攻法では考えにくいが。
「魔法だと思われる……」
ヴォード氏は苦々しい表情だった。ラスィアさんが口を開いた。
「高温で鎧も溶けて、身体の残っている部分も炭に近いほど焼き尽くされていました。尋常ではありません。まるで溶岩を浴びてしまったかのような惨状でした」
なんとも惨い死に方をしたものだった。いい印象を持っていた人物の死だけあって、俺も胸が詰まった。
「相手は、高位の魔術師?」
まさか俺を疑ってないよな?
「わからん。だが殺されたのはレグラスだけじゃないんだ」
「アストル。冒険者Aランクの魔術師、彼も二日前に殺害された」
またも聞き覚えのある名前だった。エンシェントドラゴン討伐の……その前の段階の探索に参加した魔術師で、ヴォード氏が参加した二回目には参加しなかった人物だ。
「あれ、彼Bランクじゃなかったですか?」
「Aランクに昇格したのですよ、ジンさん。彼はあれで優秀な魔術師でした」
ラスィアさんが目を伏せる。故人を思い出しているのだろう。副ギルド長として、ギルドの受付カウンターなどで毎日多くの冒険者を見ている彼女である。
「そしてBランクの冒険者、シルケーさんも、レグラスさんを殺害した犯人に……」
連続冒険者殺人、ということか。シルケー……確か、エルフの槍使いだったな。弓ではなく槍を使うエルフ、それも女性とあって珍しく思った。俺が彼女を知ったのは古代竜討伐前の探索依頼――
「……」
「三人とも、殺しの手口からして同一犯とみて間違いない。ランクの高い冒険者ばかりというのが気になる」
ヴォード氏は腕を組んで、猛犬のごとく顔を険しくさせる。
「高ランク冒険者だから狙ったのか。何か三人に恨みがあっての犯行か」
「少し前に、一時期ダンジョンで冒険者が狙われた事件があったのですが」
ラスィアさんの言葉に、俺は少し考える。
「それ、ソロでのダンジョン潜りが一時的に禁止された時ですか?」
「そうです。結局、犯人はわからず、その後事件もなかったので、うやむやになったのですが、未解決事件ですね」
俺が王都で冒険者ギルドに登録して日が浅かった時だった。ソロで活動してたから、あの禁止令には本当に迷惑したのを覚えている。
「もっとも、そのときとは犯行の手口が違うので、おそらく別の犯人でしょうけど」
じゃあ、何故言ったんだ? 俺が記憶の片隅から、以前の事件を引き合いに出す前にそれは無関係だから考えないように、と言うためか? まあいい。
「ギルドとしては事件を深く受け止めている」
ヴォード氏は言った。
「事件は三人で打ち止めなのか、まだ続くのかはわからんが、高ランク冒険者を惨殺できるような奴を野放しにするわけにもいかん」
「まったく手がかりがないのですか?」
「死体が焼け焦げ、溶けているという異常さはあるが、それ以外はな。魔獣の類ではなく、それなりに知能のある存在だとは思う。そうでなければ無差別に殺しまくっているだろうからな」
「何か法則性があるのか、現在、共通項を調査しています」
ラスィアさんは手元の資料に目を落とす。俺からは反転しているが、どうやら殺された冒険者の登録書のようだった。
「過去、何か共通した依頼があったのか、それに関係している者を探り出せば何らかの手がかりがあるかもしれません」
「共通項なら、ひとつありますよ」
俺は、最初に感じたことを口にする。
「三人とも、古代竜のいたダンジョンに関係する依頼を受けてます」
俺とベルさんも含めてね。
「そういえば……」
ラスィアさんが再び手元の資料に目を落とした。ヴォード氏が眉をひそめる。
「あの古代竜討伐の件が関係していると言うのか……?」
「さあ、思いついたことを言っただけで、確証はないですけどね。それに確か討伐の時は、魔術師のアストルは不参加でしたから、正確には前依頼の、古代都市ダンジョン探索の参加者になるでしょうが」
「ギルドで高ランク冒険者を招集した依頼だ」
「ええ、ランクの低い俺が何故か招集されたあの依頼です」
今回殺されたというレグラス、アストル、シルケー。古代竜にハラシオ、レゾン、ヒカゲが、ダンジョンに行くまでに複数の冒険者が死亡。アインホルンのナギが死にかけている。
「もし、今回の連続殺人が、それに関係しているとするなら、いま狙われている可能性が高いのは、俺、ベルさんを入れて――」
ユナと、エルフのヴィスタの他、クローガにガルフ、槍使いのリューグ。アインホルンのアンフィ、ナギ、ブリーゼの三人組。最近とんと見かけなくなったというシャッハと、ヴォード氏の娘であるルティ……。
「ルティもか!?」
ガタン、とヴォード氏がテーブルを叩く勢いで立ち上がった。最近、親子仲がよくなりつつある彼のことだ。娘が関係しているかもしれないとあれば、いてもたってもいられないのだろう。
「証拠は何もありませんよ」
俺は指摘した。ただ共通項のひとつをあげただけなのだから。だがラスィアさんは首を横に振る。
「ですが、その可能性を否定する理由もありませんよね? むしろかなり有力な可能性ではありませんか?」
「だとしたら、急いでギルドに戻らねば!」
ヴォード氏はそのまま食堂を出て行った。俺はダークエルフの副ギルド長を見た。
「どうしたんです?」
「午後にルティさんと約束があるからでしょう」
ラスィアさんも席を立つ。
「もし連続殺人が続くのであれば、犯人が犯行の準備にかかっているかもしれません。最低でも警告はしないと」




