第452話、冒険者殺人事件
ヴェリラルド王国、王都スピラーレ。夜のとばりに包まれた王都、その高級住宅街を、レグラス・カーマインは歩いていた。
銀の甲冑に青いマント、長身の黒髪青年は、カーマイン男爵家が保有する別宅を目指していた。
男爵家四男である彼は、上に三人もの兄がいるせいで、家督を継ぐという考えなどあるはずもなく、冒険者として名を上げている。
Aランク冒険者。貴族出としては十分な位置にいると言える。
実際、かのエンシェントドラゴン討伐に二回参加し、生き残った。ギルマスのヴォード氏がメインで目立ってはいるが、一回目の討伐では、サブリーダーとして戦意を喪失したリーダーのシャッハの代わりを務めた。
――そういえば、あの野郎はどうしてるんだろうな……。
愛用の大剣を古代竜に叩き折られ、逃げ出したリーダー、シャッハ。銀髪イケメンなAランク冒険者で、実力はあるが性格的に短気で傲慢なところがある男だ。
古代竜とやり合うまでは周囲からの評価も高かったが、あれで自信を喪失してからはギルドにも姿を見せなくなった。
逃げた、という事実が、自尊心の高さ故に許せなかったのか。それとも面目をなくして顔を出せなくなったか。
もっとも、レグラスには関係のない話である。冒険者は自己責任。自分で決めろ、である。
「うぅ、寒っ。もう冬も近いなぁ」
日が落ちて、吐く息も白い。レグラスは身体を震わせ、家路を急ぐ。昔から、寒いのは苦手なのだ。
石畳で舗装されたひと気のない道をテクテクと歩く。帰ったら暖かいスープが飲みたい、とぼんやり考えながら歩くレグラスは、そこで人影に気づいた。
フード付きのマント。その後ろ姿は、魔術師、いや浮浪者、それともどこかの暗殺者的な刺客だろうか。
とにかく、怪しい。レグラスは担いでいた槍をいつでも構えられるように警戒しつつ、近づく。
「おい、お前。ここで何をしている?」
このあたりの住人が呼んだ客人の可能性も捨てきれないから、まずは声をかける。高級住宅街の住人は、時々、妙な人間を呼ぶのだ。
「……」
その人物は振り返った。フードを被っているが、どこか見覚えがあるような気がした。
「レグラス・カーマイン」
男の声が、レグラスの名前を呼んだ。構えかけた槍が止まる。
「お前は――」
『死ね』
次の瞬間、目の前に火花が弾けた。
目くらまし!
レグラスがひるんだそのとき、背中に猛烈な熱を感じた。
何かが現れた。そして立っている。とっさに槍を構えようとしたレグラスだったが、刹那、圧倒的な高熱を浴びた。
「うあっ、ああああああぁぁぁァ――」
熱が降りかかり、レグラスはたちまち頭から飲み込まれた。鎧を溶かしながら服を焼き、肉を焦がす火力が、Aランク冒険者を焼け焦げた死体へと変えた。
・ ・ ・
ウィリディスの地に初雪があったようだ。
ただしほんの少量だったせいで、積もっているほどでもなかった。もとの世界にいた頃は年に数度程度しか雪を見ない土地に住んでいたので、雪イコール冬というイメージが強い。
ここじゃ、もうすぐ一二の月。ヴェリラルド王国の夏は日本の夏と違って過ごしやすかったが、果たして冬はどんなものだろうか。
そろそろ、コタツを出そうかね。火属性の小魔石を使ったコタツはすでに製作済みだ。……ただあれ出すと、ベルさんがほんとコタツの主になるんだよなぁ。猫はコタツで丸くなるってな。
今日は学校も休み。ウィリディスの住民たちも、メイドのクロハやサキリスらは別として、まったりモードだ。
俺は地下格納庫に顔を出す。シェイプシフター整備員たちは今日も元気に働いている。
「おはよう」
『おはようございます、マスター』
SS整備員たちは元気だ。最初にこの格納庫を作ったときは、ワスプ戦闘ヘリと戦闘機しかなかったここも、今ではパワードスーツ勢が並び、デゼルトのほか、現在試作中の陸上用の車両なども置かれている。
「ジン、おはよう」
「よう、マッド。おはよう」
朝早くから、マッドハンターの姿があった。
TPS-2バーバリアンは、ウィリディスの格納庫にある。
マッドは王都騎士団でシュタール隊パイロットの教官として契約していたが、現在、フリーとなっている。
シュタールを操縦する騎士たちの腕が一定のラインを越えたのが契約終了の理由だ。今は元の傭兵業に戻っている。
俺のところにいるのは、その方が何かと都合がいいからだ。特にパワードスーツのメンテに十分な設備が整っている場所が、王国の魔法甲冑工房を除けば、現状ここしかないというのも大きい。
格納庫を貸してメンテするのと引き換えに、彼のもらう報酬の一割をいただいている。何でも、隊商の護衛などでマッドハンターは有名らしく、そっち方面の仕事は向こうからお声がかかるほどなのだと言う。
他には、こっちのパワードスーツの試験やアイデアの相談などで協力してもらうことになっている。あと、大帝国とドンパチするときも、優先的に依頼を受けるという契約も結んだ。頼もしいね。
さて、TPS-2バーバリアンの成功をもとに、俺はTPS-3の設計と開発を計画している。
ベースはやはりヴィジランティではあるが、その高機動装備を最初から積んだ浮遊石対応型のパワードスーツにする予定である。
また、これとは別にリアナから、特殊作戦用のパワードスーツの製作案が提出されていたりする。ガエアから魔法金属装甲の話を聞いたが、それの水属性装甲の話を知ったリアナが、水中にも対応する特殊作戦機を提案されたのだ。
水辺での戦闘や上陸作戦を……大規模なものではなく小規模な潜入や遊撃などを考えているらしい。
まあ水の中に対応できる兵器というのも悪くないと思う。ウィリディスには水中対応する兵器がそもそもないもんなぁ。水の中にも魔物はいるわけだし。
目下のところ、大帝国の地上軍の侵攻に備えて、戦力の強化を進めているわけだが――
「どうした、ジン?」
マッドが声をかけてきた。俺が遠くに目をやったまま動かなかったら気になったようだ。
「いろいろ考え事だよ」
「例のPS移動用のフライングボードか?」
フライングボード――ああ、そういえば、マッドからもせっつかれていた。
以前、魔法甲冑の移動用の足場なり車両なりがあれば、と思って、ぼんやりと考えていたやつだ。酒の席でマッドにその話をしたら、当然必要という顔をされた後で、戦地までの足があれば、楽になるからぜひ欲しいと言われた。
俺の世界での戦車を例にすれば、戦車というのは列車やトレーラーで運ばれて移動する。自力で走行できるのだが、足回りに負担がかかり摩耗するから、戦う時以外は極力、運んでもらうのだ。
パワードスーツもホバーを真似た浮遊推進装置で地上の移動は速いのだが、魔力の消費や搭乗員の負担を考えるなら、移動用プラットフォームはあったほうがいい。
うちは少数精鋭型の組織だから、迅速な機動力は不可欠とも言えるのだ。
そういえば、と俺は、格納庫の一角にある新型航空機へと視線を向ける。
前から見ると、ワスプ戦闘ヘリによく似たフォルムを持つが、ヘリの特徴と言えるメインのローターがない。
ワスプⅡ地上攻撃機。小型浮遊石を搭載した低高度攻撃機である。浮遊石により重量物を運ぶ余裕があるのだが。
これに、パワードスーツぶら下げて運ばせるのもアリだろうか……?




