第450話、秘蔵の魔法金属……ではなかった
マッドハンターの魔法甲冑を製作する、という話になった。
「いいのか?」
と、マッド本人はこちらの意図を図りかねているようだった。
確かに、普通に魔法甲冑を作ろうとしたら、どれかけ金がかかり、素材が必要になることか。誰だって借金は嫌だ。
「金はいらない。まあ、任せてくれ。こっちも最高の機体を作ってみせる」
何だか、善意で主人公の手助けするメカマンなおっちゃんとか、NPCのような台詞だなと自分でも思った。
創作意欲に駆られて採算を度外視しているところなんか、まさにそれ。
でもゲームだったら、これこれこういう部品が必要だから持ってきてくれ、とかいうお使いイベントあるんだろうなぁ……。
マッドの世界にあった、『装甲機動歩兵』なる兵器は再現しようがないから、パワードスーツの方向で作る。
マッドからも、この世界では機体はあまり大きくない方がいいだろう、との了承を得た。傭兵としてこの世界で戦った経験上、3メートルサイズまでが無難だろうという答えだ。
了解した。
ということで、ガエアと前の魔法甲冑の設計と製作の話を詰めつつ、マッドには、うちのパワードスーツ、ヴィジランティを動かしてもらった。
彼の魔法甲冑にはコピーコアが搭載されていなかったが、今の魔法甲冑やウィリディスのヴィジランティには、それが積まれている。
当然、マッドの新型にもゴーレムコアを載せるつもりなので、彼に動かしやすいようにコアも慣らしておくのだ。
前の魔法甲冑と違い、腕の制御はレバー式なのだが、マッドの対応は早かった。むしろ、こっちのほうがしっくり来るのだそうだ。そいつは結構。
マッドは通常仕様のヴィジランティの他、高機動ブースターポッドを搭載したタイプも動かしてもらった。ついでに武器も試作のものも含めて色々使ってもらって、好みや得意な戦術にあったものを試してもらう。
「さて、ガエア君」
ウィリディス屋敷の奥、地下研究区画の工場で、俺はエルフの女性技師であるガエアに問うた。
「この魔法装甲材について話を聞かせてもらおうか」
「はい、師匠。マッドハンターの魔法甲冑に使われているのは、エアリアル鋼と呼ばれる風属性を練り込んだ魔法金属です」
「ほう、エアリアル鋼か」
初めて聞く名前だ。ガエアは机の上の現物を指し示した。
「エルフのうちでは、魔力を多量に含んだヴォルという鉱物なのですが、これに風の魔石を砕いたものや妖精の鱗粉を混ぜて金属に加工します。すると風の属性を持った魔法金属、エアリアル鋼ができるのです」
「ヴォルというのは? エルフしか知らない鉱物なのか?」
それを採掘しないと使えないのではないか、という疑問。ガエアは首を横に振った。
「いえ、ドワーフも扱っていたはずです。名前が違っていたようですが。ただ人間たちはおそらく知らないし扱ったことがないと思います」
金髪エルフは、申し訳なさそうに上目遣いの視線をよこした。
「本当は人間には教えないように、という決まりがあったのですが……」
「ああ、俺は今、君から聞いてしまったね」
なるほど、人間には秘密にしていたから、俺が今まで見たことも聞いたこともなかったわけだ。
「里を救ってくださった賢者様だから、おそらくお許しいただけると思うのですが――」
「罪に問われて投獄されるようなことになったら、俺のところに亡命するといい。全力で保護しよう」
師匠という立場を利用して聞き出した俺にも責任の一端はあるだろう。
「ん? どうした、ガエア?」
固まってしまったエルフ女性は、ハッとする。
「いえ、すみません。あまりに即決で保護してくださると言っていただけたので、ちょっと感動してしまいまして」
「……話を続けよう」
あまり考えると照れくさくなってしまうので、さっさと話を進める。
「エアリアル鋼だが、ヴォルという鉱物を使わないとダメなのか? 他の素材で、砕いた魔石を結びつけるのでは?」
「いえ、それでも問題ないと思います」
ガエアは小さく笑みを浮かべた。
「ヴォルは比較的採掘できる鉱物だから利用しただけで、コバルトやミスリルなどの他の鉱物や金属でも問題ありません。師匠様は冒険者であらせられますから、ご存じかもしれませんが、魔法属性の剣なども、エルフに言わせればエアリアル鋼やその他の魔法鋼です」
「……」
「どうされました、師匠様」
ちまたで出ているエルフやドワーフがこしらえた魔法金属の武器。属性付きの魔法剣や槍、それらのことだったか、この魔法金属は。
パン、と俺は軽く自分の頬を叩いた。ガエアはびくりとする。
「し、師匠様!?」
「ガエア、君は何も罪に問われないぞ」
「はい?」
「エアリアル鋼とやらがヴォルじゃなくて他の素材でも作れるというのなら、俺、それもう作れるわ」
「な、なんですって!?」
「なあ、雷属性を持った魔法金属は、なんて言うんだ?」
驚愕するガエアは、俺の質問に我に返る。
「えっと、雷でしたらフルグ鋼でしょうか」
「フルグね。俺はそのフルグ鋼の剣を作ったことがある」
アーリィーに貸したライトニングソード。ミスリル銀と雷の魔石を分離・融合させて作った魔法金属剣である。
ガエアの言うとおりであるなら、細部は違えど、俺もその技術を持っていることになる。
「ミスリル製のフルグ鋼……」
わなわなとガエアが震えだした。どうしたん?
「そんな……。マスタースミスでもなければ、ミスリルで魔法金属は……」
そうなの、としか言い様がないなそれは。世間じゃ大変なんだな、と思うが、たぶんあれだぞ。一から学ぼうとすると、修行やら心得を叩き込まれて数年とかかけて覚えるタイプのやつだろうな。
世間一般の魔法習得と同じパターンだ。呪文を覚えて何ちゃらかんちゃら――魔法騎士学校の魔法の教科書は、俺はその場で積み上げた書物の一番下にした。
あんな役にも立たない教科書の知識が常識でまかり通っている時点で、俺が高等魔法授業の教官に引っ張られるのもわかるというものだ。
おっと、話がそれたな。ま、作れるのだから何も問題はないだろう。
「よし、ガエア。マッドの新機体にはどんな魔法金属を装甲に使うか、考えようじゃないか」
属性効果を付与できる鋼材。魔法文字による後付けではなく素材から練り込むわけだから、やりようによっては、装甲表面を常時魔法効果が発動したり、恐ろしく硬いのに軽いなんてのも作れたりするんじゃなかろうか。
ふふ、ふふふ――俺は無意識のうちに笑みをこぼしていた。




