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英雄魔術師はのんびり暮らしたい  のんびりできない異世界生活  作者: 柊遊馬
第二部

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421/1946

第419話、いざ大帝国へ


 その日の午後、ウィリディスの第三格納庫前の駐機スペース兼待機場から、ポイニクスが飛び立った。


 古代文明時代の遺産、浮遊石を有する巨体はふわりと浮かび上がり、魔石エンジンの噴射により高空へと舞い上がった。


 ポイニクスの操縦室は広い。操縦席と副操縦席を前に、サイドに索敵機器担当の測定席、反対側に航法席がある。中央には機長席と、航空機というより小型の船のブリッジのような作りである。


 本来、機長というと指揮官であるが、操縦士でもあるから前列の操縦席につくものだ。

 だがポイニクスでは速度にこだわらなければ無限に滞空できるので、操縦と指揮は別席とした。偵察機であるから、機長が偵察業務にかかれるように、という配慮である。


 さて、機長席に俺、操縦席にマルカス、副操縦席にはユナがいて、航法席はスフェラ、測定席にアーリィーがついている。ベルさんは機長席のパネルの端に座り込んでいた。


 偵察機であり汎用輸送機でもあるポイニクスの貨物室には、リアナとヴィジランティ高機動仕様が1機、サキリスと、SS工作員たちが待機している。


 大帝国帝都までは、およそ8、9時間のフライトを予定。もっとも地図ですら正確な縮尺がわからない上に、初めての空からの移動だから、早く到着する可能性もあるし、逆にもっと時間がかかるかもしれない。方向がズレて通り過ぎたり、迷子なんてパターンもありうる。


 ポイニクスがほぼ航続距離が無限で、人員に関してはポータルを使ってウィリディスに戻れるので、たっぷり迷子になっても最終的に到着できればいい。

 飛行自体は、搭載しているコピーコアが記録をとっているので、迷った分地図作成も進むのでまったく無駄にはならない。


 まあ、間違えずに目的地に着くことが一番なんだけど。


 そんなわけで、エリサとダスカ氏はウィリディスにて交代要員として待機している。特にエリサは大帝国本国に入るまでは、いてもガイドできないからな。

 他の面々も疲れたら、SSパイロットたちと交代することになっている。


 ウィリディスを飛び立ち、高度を上げるポイニクス。測定席のアーリィーが振り返った。


「ねえ、ジン。聞きそびれたんだけど、ポイニクスの主翼に懸架している円筒は何?」


 主翼に各二基ずつ運んでいる筒状の物体。高さ三メートルほどのそれが横向きに運んでいる。


「あれな、ポータルポッドだよ。中にポータルを設置してある」

「何に使うの?」

「あれを地上に落として、現地をポータルで繋ぐんだよ」


 帝都にはスカイダイビングするつもりだけど、もし悪天候などの理由で飛び降りるのが難しいなら、無人のポッドを落として、地上に降りようってことだ。高高度からの落下の衝撃にも耐えられるよう頑丈にできている。

 まあ、中の人間の安全は保障できないので、落とすときは無人である。


「四つもあるね」

「帝都以外にも、帰りに適当な中継点に落として秘密の監視拠点を作るつもりだからね」


 その回数分、いちいちダイビングするつもりはない。まあ、最低一回は経験のためにも飛ぶけど。


「ふうん、そうなんだ」


 アーリィーは測定席に向き直った。


 俺も視線を正面に戻したが、しばらくは特にすることもない。実際のところ、コピーコアの無人操縦とかSS兵に任せて、昼寝をしててもいいくらいだ。


 何かあったときのために操縦室に詰めてはいるが、実質のんびりタイム。適度な緊張感を持ちながら休憩、というやつである。ベルさんなどは、さっさと昼寝してるし。


 俺は昨日のジャルジーとの話し合いに出た、グリフォン計画のための戦闘機案をひねり出す。個人用に持ってきたコピーコアを計算機に、紙に図を書いたり、戦闘機の仕様などを考えて過ごした。


 外は風が吹き荒れているだろうに、ポイニクスの機体はほとんど揺れがなかった。これも浮遊石効果なのだろう。マルカスは生真面目に操縦桿を握っていて、アーリィーは魔力レーダーや、地上の測定データをみていたが、それ以外の者にとっては、なかなか快適な空の旅である。


 深い青色を溶かし込んだような空。漂う雲は、すべてポイニクスの機体より下にあって、まるで雲の海の上を飛行しているようだ。


「まるで海と空がひっくり返ったようですね」


 操縦室にやってきたダスカ氏が、窓の外の空を見てそう漏らした。

 確かに、上が海のような深い青、下が雲のある薄い青。水平線を見たことがあれば、おそらく同じような感想を抱くだろうな。


 飛び続けることしばし、魔力レーダーが反応した。


「方位3-0-0に反応。距離およそ4万」


 アーリィーが円形のパネルに表示された未確認光点を報告した。ベルさんがピンと起き上がり、俺も視線を測定席に向けた。


「なんだ?」

「反応複数……。高度は約1万2000」

「こんな高高度を何が飛ぶって言うんだ?」


 緊張感が操縦室に走る。

 空気が薄い環境だ。生物とは考えにくいが……。そもそも生物が何もない高高度を飛ぶ理由がない。

 俺が舌の上で考えを転がしていると、ユナが副操縦席から振り返った。


「まさか、大帝国とか?」


 わからん。ダスカ氏から聞いた空中軍艦については詳細なスペックはわからない。そんな高高度性能があるとでも言うのか。


「アーリィー、どうだ?」

「数は30を超えたけど……。うーん、どうも動いていないみたい。まるで漂っているような」

「漂う?」


 ベルさんがひょいひょいと、測定席まで駆け登った。


「空の上を何が漂うっていうんだ? 海の上じゃねぇぞ」

「もしかして」


 アーリィーが小さく肩をすくめた。


「伝説にある空に浮かぶ島とか……?」

「ずいぶんとファンタジーな話だな」


 空飛ぶ島か。俺が思わず相好を崩せば、マルカスが「あー、伝説の」と呟き、ユナも頷いた。


「子どもの頃に聞くおとぎ話ですね。古の昔、人は空に島を浮かべ、そこに住んでいたとか」

「鋼鉄の船を浮かべ、自由に空を制した」


 ダスカ氏が詩をそらんじるように言った。


「莫大な富と、強大なる武力を持った天空人」


 天空の城かな、と俺は某作品を思い浮かべる。この世界では、いやヴェリラルド王国ではメジャーなおとぎ話のようだ。

 大方、古代文明時代の遺物か何かだろうと思うけどな。しかし、空を飛ぶ島とか、本当にあるんだな、この世界。


「……うーん、島、というのもちょっと違うかな」


 測定パネルを睨みながらアーリィーは唸る。


「ただ、何か大小さまざまなものが浮かんでいるみたい」

「大気に流されて、浮遊物が寄り集まった場所ってか?」


 俺が思ったことを口走れば、ベルさんが顔をあげた。


「空の墓場ってか?」


 マルカスが俺を一瞥(いちべつ)した。


「団長、どうします? 離れますか? それともこのまま?」

「アーリィー、浮遊群と接触の可能性は?」

「このまま進めば、とくに影響はないよ。そもそも、高度は向こうが2000メートル近く高いし」

「なら、このままだ。マルカス、針路を維持」


 ユナが声をあげた。


「お師匠、確認しないんですか?」

「興味深くはあるが、いまは大帝国へ向かう道中だ」


 俺は操縦席まで歩き、その椅子にひじをついた。


「調べるのは、終わってからだ」


 窓ガラスの向こう、蒼空を俺は眺める。


 高高度を漂う何か。もしアーリィーが言うように空に浮かぶ島の残骸だったり、あるいは古代文明時代のものだったりするなら、調べたら浮遊石とか見つかるかもしれない。

 後で調べる価値は充分にある。

2019年1月1日に、プロローグ2の最後から12話まで改稿(2話ほど新話として追加)を行いました。

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