第418話、プロジェクトG
ウィリディス食堂に、ジャルジー公爵がやってくる。
食堂には他にも席に空きがあったが、案内のSSメイドは何も言わずに、俺たちの席へ彼を誘導した。そうするよう、俺が事前に言っておいたから。
アーリィーが手を挙げた。
「お疲れ様、ジャルジー」
「おう。兄貴がオレに用があると聞いて、仕事終わらせてこっちへ来た」
ヴェリラルド王国北方はケーニギン領の領主である彼は、そこそこ多忙である。滞在時間は短いけど、ほぼ毎日こっちに来てはいるが。
「この国でオレを呼び出せるのは、親父殿と兄貴くらいだ」
「食事は済ませたのか?」
「いいや。ここで修行した料理人が城にいるが、やっぱりこっちで食べるほうがいい」
そうか、と、俺はほぼ片付けた夕食をSSメイドに下げさせる。コーヒーを頼むと、アーリィーも、デザートにヨーグルトのムースを注文した。
ふんわりクリーミーなムース。人が頼むものってどうしてこう、そそられるのか。
「ジャルジー、これから話す内容は単なる雑談のつもりだが、もしかしたら仕事の話になるかもしれない。食事中に悪いと思うけど」
「かまわんよ、兄貴。この身分になると、いろいろ並行してやらないと時間なんて足りないからな。……それにここは最低限のマナーさえ守れば、小うるさいことをいう奴もいないし」
これにはアーリィーも苦笑である。王族貴族の食事マナーが堅苦しいのは有名だ。ウィリディスでは作法に寛容なため、味うんぬんを差し引いてもこっちで食事を好む人も多い。その最たる例が、ウィリディス在住のフィレイユ姫殿下だったりする。
「それで、話というのは?」
「ジャルジー、いま魔法甲冑を作ってるよな?」
「ん? ああ、兄貴のとこのヴィジランティを参考に二号、三号甲冑を作らせている。カッコいい名前をつけてやらんとなぁ」
期待に胸膨らませるジャルジー。
「魔石の調達はどうだ?」
「魔法甲冑用の魔石なぁ。なかなか難儀しているよ。あれを満足に長時間動かそうと思うと、質の高いものが必要だからな。調達しようにも金がかかる」
ちなみに、魔石にも大まかなランクがある。ウィリディスの戦闘機が搭載する魔石は大魔石に入るが、ランクにするとA+に当たる。
魔法装甲車のデゼルトは現在Aランク相当の魔石を使っているが、あれはBランクでも充分に動かすことができる。
パワードスーツのヴィジランティは1号機にA-、2号機以降はBランク魔石を使用している。
聞いたところによれば、マッドハンターの魔法甲冑はA+魔石。現在、王都で試作量産タイプの二号はB-ランク魔石、三号甲冑はCランクで動かせるように調整している。
「ちなみに、いま王都でグリフォンの風魔石が余って値下がりしているのは知っているか?」
「なんだって!?」
思わずジャルジーは腰を浮かせた。グリフォンといえば大体Cランク魔石に相当する。+から-まで品質に差はあるが。
「北方にいたのではわからないことだな。何故、風の魔石が値下がりしているんだ?」
「エアブーツという魔法具の効果でね。グリフォンが多く狩られているんだ。その結果、風の魔石が買う人より売る人が多くて、商人ギルドじゃ扱いに困ってる」
「おう、エアブーツ! オレも王都から取り寄せたぞ」
「ちなみにそれ、ジンが発案者なんだよ」
アーリィーがふわふわのムースにスプーンを入れながら言った。
「そうなのか!?」
ビックリするジャルジー。オレは肩をすくめる。
「まあ、エアブーツのことはいい。話を戻すと、いま風属性の魔石が余ってる。ランクの高い魔石の数を揃えるなら今だぞ」
「帰ったら、購入の手配をしよう」
「それがいい。これ以上、在庫が増えるようなら、他国へ流すことも商業ギルドは考えているようだった。いま北方には大帝国がいるから、奴らに魔石を持っていかれるのは避けたい」
「当然だ。奴らに渡すわけにはいかん」
ジャルジーは力強く頷いた。よしよし、これでパルツィさんからの相談はクリアだ。ま、それだけで公爵殿を呼びつけたわけじゃないんだけど。
「それで、ジャルジー。以前、戦闘機が欲しいと言っていたな?」
「ああ、言った」
若き公爵の目に力がこもる。
「しかしウィリディスの戦闘機を飛ばすにはAランク上位の魔石が必要と聞いた。そんなもの、おいそれと手に入らない」
「そう、噴射式エンジンは魔力の消費が大きいから、ランクの低い魔石だとすぐに魔力が枯渇してしまう。そこで、だ。低ランクの魔石でも飛べる飛行機を考えてみた」
「おおっ!」
「簡単に言えば、魔力でプロペラを回して、それを推進力として利用するんだ」
俺は用意していた紙に、飛行機の図を書き込む。俺の世界で言うところの単発のレシプロ戦闘機を思わすシルエット。機首にエンジンがあり、そのすぐ後ろにコクピットと大きな主翼。後ろに尾翼がついている。
第二次世界大戦時の日本海軍の零戦や当時の単発機のような形といえば、わかりやすいだろうか。
「ウィリディスの戦闘機とは、たいぶ形が違うな」
ジャルジーがコメントすれば、アーリィーも頷いた。
「頭のない鳥みたいな形だね」
「おお、確かに」
「この方式は、魔石エンジンはほぼプロペラを回すだけだから、噴射式に比べて魔力の消費がだいぶ低い。むろん、機体を軽くする必要はあるが、それで結構スピードが出るはずだ」
もっとも、魔石ジェットの速度には勝てないけどね。
「もし高レベルの魔石エンジンを積んだら、相応に速くなるし、いい武器も積めるようになる。……まあ、それがあるなら、ジェットにしたほうがいいかもしれないが」
プロペラを魔力でまわすエンジンは、レシプロ機に似ているが、レシプロではないのでプロペラ機と呼称すべきか。実際のレシプロ機が音速に達せなかったのと同様、プロペラでは、魔石エンジンといえど無理である。
「正直に言うと、ウィリディスの戦闘機に比べてしまうと速度や武装はどうしても劣る。だが速度が出ない分、小回りが利く。航空戦は速度がすべてじゃないから、低高度での格闘戦をやったらプロペラ機のほうが有利だったりする」
ジェット機とレシプロ機では、速度差あり過ぎて、後ろについたのにすぐに追い越してしまったという話は聞いたことがある。
「低出力の魔石エンジン搭載機でも、使い方次第だ」
「なるほど」
ジャルジーは頷いたが、すぐに難しい表情になった。
「しかし、何でまた戦闘機の話を?」
「大帝国が航空戦力を持っているらしい」
ダスカ氏から教えてもらった敵の空中艦隊。空飛ぶ船に、大砲や爆弾、魔力動力の砲を積んだものらしいが。
「敵側がそういうものを持っている以上、航空戦力について他国を気にして隠し立てする必要性も薄れたからね」
こちらも対抗策が必要だ。ウィリディスの戦闘機だけでは足りないかもしれない。
「連合国みたいに一方的に叩かれるのは面白くないだろう?」
俺の言葉に、ジャルジーは首肯して、視線を紙の上の図に落とした。
「兄貴、戦闘機の計画、頼めるか?」
「いくつか試案をまとめておく」
今のところ、他に航空機案をまとめられる人物が、この国にはいないからな。
「搭載する魔石エンジンはグリフォンの魔石をもとにするから『グリフォン・エンジン』と仮称する。それにあった航空機案ができたら知らせるよ」
「なら、防諜の意味も込めて『グリフォン計画』と名づけよう」
ジャルジーが声を弾ませた。
かくて、グリフォン計画こと、プロジェクトGはひそかにスタートした。




