第413話、ウィリディス住人調査報告その2
シェイプシフター工作員の潜入調査スキルを見る、ウィリディス在住者調査。俺とベルさんは、SS工作員たちの調査結果に目を通す。
「貴族ってやつはマメなのかねぇ」
人間形態のベルさんは、ペラペラとサキリスの日記のコピーを見やる。
「しかし、この時々混ざる性的な妄想が、いかにもあいつらしいな」
「こっちも相当だぞ」
俺はもう一冊、サキリスが書いていたというノートブックを置いた。
「あいつにこんな才能があったとは」
「どれどれ……。ほほん」
ベルさんがそれをめくり、目で内容を確認しながら鼻で笑った。
「エロいな」
いわゆる淫本、つまりエロ本である。少々変態であるキャスリング家元令嬢は、自ら淫本を執筆していたのである。
ちなみに画ではなく小説のほうだ。予想はしていたが、ハードなやつだ。
「自筆でこれとは……この内容をあいつで試したら、さぞ面白いことになりそうだな」
ニヤニヤとベルさん。それに付き合えるのなら、相当変態だぞ、ベルさんや。とくに最後のやつはヤバい。
「前々から気にはなっていたんだ。サキリスは、他のメンツに比べて紙の消費が多いって」
「やめろよ、ジン。紙の消費って、まるであの娘がコソコソ――」
「言うなよ、ベルさん。そういう意味じゃないって」
でもその紙でエロ文書いているなら、似たようなものかもしれない。サキリスは将来、エロ作家にでもなるつもりなのか。
「貴族とか身分が高い奴ってのには、往々にして変態が多いっていうけど」
ベルさんはペラペラとノートブックをめくる。
「あいつはその典型だな」
「そういうのにのめり込むのは、ストレスのせいって聞いたことがある」
テレビだったか、そんな話を見た記憶がある俺である。
「まだ、家族や故郷を失ったことを引きずってるのかね……」
「どうだろな。あいつが変態なのは、それより前からだろ。それに、薬物や酒におぼれていないだけマシじゃね?」
そうかなぁ。俺は、彼女の行動記録に再び目を落とす。昼間は真面目な仕事ぶりを発揮している彼女だが、夜、特に夜中になると――
「見なかったことにしよう」
さあ、次だ次。
お次の資料は、エリサ・ファンネージュ。
最近ウィリディスにきた魔女こと、妖艶なる魔術師。緑髪、年齢は二十代半ばと思われるが不明。大帝国出身だが、キメラ・ウェポン計画により半サキュバスに改造されてしまった人物である。
「起床は遅め。昼間は魔法薬の研究や製造、時々やってくる住人らに軽い診療やマッサージを行う……」
「意味深」
「気持ちいいぞ。ベルさんも一度やってもらえ」
昼間は性的なものは基本的になし。たまにやや接触が激しい時があると記載されている。
普段のエリサは、ユナたち同様、研究熱心な魔術師として過ごしている。
では夜はというと、サキュバスの本領を発揮して男を引き込む――こともなく、サキリスやスフェラのもとを訪ねてストレスを発散させているようである。
SS工作員のとってきた彼女のノートブックのコピーは、魔法薬の資料や研究記録などがまとめられていた。
「案外ふつうだったな。もっとこう、サキュバスらしく乱れた生活を想像したんだけどよ」
「ひとつ、報告よろしいでしょうか?」
SS工作員が改めて言った。
「どうもエリサ嬢は、こちらの観察に感づいたと思しき素振りがありました」
「バレたのか?」
シェイプシフターの潜入に気づいたと。これから敵地に送り出そうとしているSSたちのことを考えれば、穏やかではない。
「いえ、直接反応されたわけではないのですが、こちらが観察している方を凝視したり、見つめられているようなことが何度か。例えるなら、目と目が合っているような」
「……どう思うベルさん?」
「魔力感知系の魔法だろう」
ベルさんは鼻を鳴らした。
「大方、擬態が甘かったんだろう。姿だけ変えても、魔力の目からは丸見えだったんだろうな。……お前ら、魔法使いが相手なら、ちゃんと中身の構造まで擬態しないと勘のいい奴にはバレるぞ」
「気をつけます」
SS工作員たちは頷いた。変身することに長ける彼らだが、魔法に関しては鈍いところがある。
こういう弱点というかミスが本番前に発覚するのは、むしろありがたい。改善につなげられるからだ。
「おい、ジン、次はお前の嫁さんだぞ」
ベルさんが次の調査レポートをとる。俺は肩をすくめた。
「アーリィーのは……あまり見たくないな」
「おいおい、シェイプシフターどものテストとはいえ、ウィリディスにいる人間の調査を命じたのはお前だぞ。嫁どうこうじゃなくて、ちゃんと目を通す義務がある」
珍しくベルさんが強めの指摘をした。
「こういう仕事ってのは、辛くてもやらなくちゃいけない。お前の立場なら特にな。身内だからと見逃したところに重大なことがあるかもしれん。まあ、夫婦や家族としてはよろしくないことだろうが、諜報を扱う者としては避けられんということだ」
真面目なこと言って、ベルさん結構楽しんでるよね? そもそも言いだしっぺはこの魔王様だぞ。
「ま、覚悟なくして、人のプライベートを覗くのはいけないな」
OK、調査結果を見ようじゃないか。
国際的に活動する諜報機関ってのは、たとえ家族や身内でも必要なら徹底的に調べ上げるんだろう。その精神力には敬服する。
アーリィーの資料は、これまた日記。いたって真面目な内容に、個人的感想があるのが極めてプライベートな日記らしい。
ベルさんは小さく唸った。
「お前って愛されてるなぁ、ジン」
ところどころに見受けられる俺を上げるコメントを見ての感想だろう。ヘリ、飛行機、カメラ、パワードスーツなどなど、この世にないものを次々に生み出すところとか絶賛されている。
あと料理やお菓子の記述で、虜になる人が続出していることを『犠牲者』などと書いていて思わず噴いた。
目下の心配事は、やはりというべきか大帝国の脅威。そして俺が働きすぎじゃないかという、婚約者らしい気遣いだった。……ふむ、俺はどうやら働き過ぎに見えるらしい。
「あとはアルバムか」
「それは俺も見た」
アルバムに関しては、見たいといえばアーリィーはオープンだから。俺の寝顔コレクションみても、面白くないぞベルさん。
「おい、お前らのエロ写真はないのか?」
「……やっぱり楽しんでるだろ、な? ベルさん」




